【Tech Stack Interview】イントロダクション
HRテクノロジーは人事に何をもたらしたものか
「HRテクノロジーの進化スピードは、私たちの想定を超えていた」
HRテクノロジーの潮流を振り返ると、基本となる人事管理システム(HRIS)は20年以上前から企業に利用されていた。第一の波は、インターネット黎明期。1990年代の終わりには多くのジョブボードが登場し、それを追いかけるように人材発掘をはじめとしたさまざまなテクノロジーが生まれた。第二の波は、2005~2011年。通信環境の向上によってインターネットが一般にも普及し、クラウドやSNSの利用が拡大する。第三の波は、2012~2016年。ソーシング技術も大幅に向上し、採用手法は専門分化する。そして、第四の波は、AIとディープラーニングによる技術の高度化である。チャットボットやAIを利用することでより人間に近い採用の自動化へと急速に進み、採用の完全自動化への道が開けた。HRテクノロジーの製品数は、4万超といわれているが、実際には人事にどのような現象が起こっているのだろうか。
本プロジェクトは、2019年のテクノロジーのトレンドと、グローバル企業が人材採用において、どのプロセスで、どのHRテクノロジー製品を活用し、どのような効果を上げているのか、そのテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)を明らかにすることを目的としている。調査には、CareerXroads共同代表であるジェリー・クリスピン氏、クリス・ホイト氏にも協力していただいた。
プロジェクトの最初のアプローチとして、業界を熟知するコンサルタント2人に、HRテクノロジーの最新トレンドについてインタビューを行った。X氏はHRテクノロジーのリサーチの第一人者で、TA(Talent Acquisition)アナリストに近い立場から業界に精通している。Y氏はHRテクノロジーのアドバイザリー会社の主任アナリスト。X氏は、採用行動をCRM(採用候補者管理システム)、ATS(応募者追跡システム)、オンボーディングの3つのフェーズに分類し、それぞれの特徴や企業からの評価の高い製品について専門家として、紹介している。Y氏は、独自の調査を行い、TAリーダーの採用課題を明らかにしている。過去10年間で変化したHRの組織体制の変化や、採用の完全自動化の可能性などについても伺った。
各インタビューの内容は、次回以降のコラムで詳述するのでご覧いただきたい。
40種類以上のHRテクノロジーを巧みに操る企業も
2つ目のアプローチは、HRテクノロジーを巧みに操るイノベーティブな企業の採用責任者10人へのビデオインタビューである。企業によりその活用法は異なるが、例えば、生活家電チェーン店のLowe’sでは、1年で25万人を採用するために、約40種類のツールを組み合わせて、独自のテックスタックを構築している。約300万人の応募者を505人の人材運用・戦略チームが厳選して採用するには、テクノロジーの特性を理解し、自社に最適な製品を利用するなどして最大限の力を発揮して、スピードやコスト面を向上させるしかない。
インタビュー対象企業が利用している製品数は、「10以下」が3社、「11~20」が2社、「21~30」が3社、「31~40」が2社で当初、想像していたよりも多くの製品が利用されていた。企業によって異なるが、例えば、新卒採用やインド向けのものなど、属性や地域特性により製品を使い分けている。また、ビデオ面接だけで3~4種類と複数の製品を併用しているところもある。
HRテクノロジーの効果はコラムで詳述するが、例えば、データ分析サービスのTeradataは、約20種類のテクノロジーを活用し、採用期間を52日短縮、800万ドルのコスト削減に成功した。このような萌芽事例はいくつもある。
エグゼクティブや高度専門職以外は、採用の自動化が可能
3つ目のアプローチは、サーベイによる調査である。サーベイでは、例えば、テクノロジーが人事に与えた影響について、①採用にかかる時間が短縮した、②採用コストが削減した、③採用の質が向上した、という回答があった。
また、採用の自動化についても聞いているが、現在、完全に自動化している採用工程として、「求人広告の配信」「身元照会」「スクリーニング」「面接スケジュールの設定」「エンゲージメント」「オンボーディング」が挙げられた。一方、決して自動化されない工程は、「エグゼクティブの採用」「面接」「オファー」「クロージング」という回答であった。先のインタビューでも、「面接は自動化できない」「面接は人が行うべき」という意見も多くあった。
サーベイでは、採用のRPO(Recruitment Process Outsourcing)化についても聞いているが、採用の75%以上をRPOにする企業もあった。例えば、専門職やグローバル採用などは、採用する側にも法制度や専門知識が必要で、複雑化していること、外部環境によって採用方法が変化する可能性もあることから、RPO化する企業も増えていることが分かった。
人事テクノロジー専門職の導入
TA部門は、ここ数年でその組織構成が変化している。特に数千人、数万人という大量採用を行う企業では、専門分化が進んでおり、多いところでは17職種に専門が分かれている。通信会社 Spectrumの例を見ると、①リクルーター、②ソーサー、③フルライフサイクルリクルーター、④オペレーション、⑤アナリスト、⑥マーケティング&ブランディング、⑦スケジューラー、⑧エグゼクティブリクルーター、⑨新卒&早期キャリアリクルーター、⑩プログラムマネジャー(候補者体験など)、⑪プロジェクトマネジャー、⑫セレクション&アセスメントコンサルタント、⑬セレクションリーダー、⑭ソーシャルメディアディレクター、⑮採用ブランディングスペシャリスト、⑯マーケティングスペシャリスト、⑰コンテンツスペシャリスト、というように、それぞれに採用のスペシャリストを配置している。
一方、採用数が少ない企業でも、前述の①②③④⑤⑥⑦⑨という8職種はミニマムとなっているようである。
近い将来自動化してほしい採用工程として挙げられるのが、スケジュール調整で、サーベイでもそのような回答をする企業が多い。⑦スケジューラーという職種は、数年後にはテクノロジーに置き換えられている可能性が高い。
人事が抱える採用課題はまだまだ多い
空きポストをどのような人材で充足させるか、単純なようで奥の深い課題に向き合って、人事は試行錯誤を続けている。多くの企業が“人事データ”の価値に目を向け、データ活用の重要性を訴えている。人材に関わるデータが社内にバラバラに放置されているという問題に対して、それを解決するテクノロジーを導入し一元管理することで、情報連携基盤を厚くして、データの価値を高めている。データの収集と可視化、高度な解析と連携によって、従来の採用プロセスを根底から見直し、生産性を上げ、さらに他の重要な工程の価値も上げていく。そうした作業を繰り返すことで、人的資源を客観的に見直すことができる。人材採用では、例えば、正規・非正規に加えて外部のリソースをまとめて管理することで、より質の高い人材にアプローチできるという。
第五の波のスピードは早く、技術もさらに向上する。採用課題もAIやVR(仮想現実)などが解決する時代が到来するだろう。ブラックボックス型AIに加えて、最近は判断理由やルールが分かるホワイトボックス型AIの開発も進んでいるという。こうしたAIの活用で、人事の中で培ってきた独自の採用の方法論を明らかにし、課題解決に寄与することもできる。近い将来、人材採用にも大きな変化が起こるだろう。
TEXT=村田 弘美(グローバルセンター長)
調査名
<Tech Stack Interview 調査概要>
目的:米国企業のHRテクノロジーの利用状況とその効果を明らかにする
調査対象:グローバル企業の採用責任者・アナリスト・コンサルタント 12人
調査期間:2019年2~3月
調査方法:インターネットによるビデオインタビュー
<Tech Stack Survey 調査概要>
目的:米国企業のHRテクノロジーの利用状況とその効果を明らかにする
調査対象:グローバル企業の採用責任者・アナリスト・コンサルタント 23人
調査期間:2019年2~3月
調査方法:インターネット上のアンケート調査サイト利用によるウェブ調査
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