ソーサーの努力と進化で人材不足危機を乗り切れ
ERE Mediaが主催する「ソースコン」は、2007年から毎年行われているソーサー向けのコンファレンスである。2022年のソースコンは、過去2回と同様に、「ソースコン・デジタル」として3月9日から10日にかけてバーチャルで開催された。
同コンファレンスは、参加者全員向けの基調講演と、複数のセッションが同時に進められる同時進行セッション、トピックごとの座談会、スポンサーのCM、ネットワーキング、今回初めての試みとなったワークショップ、それにソースコン名物ハッカソンと、多彩なアジェンダに沿って進められた。スポンサーは13社、セッション数23、参加者数は約1,300名、うち71%がソースコン初参加だった。司会、進行は、ERE Mediaの編集者 Tangie Pettis氏が務め、各講演のスピーカーを順に紹介していった。
以下では、2022ソースコン・デジタルのセッションの中から、特に有意義だと感じたセッションの内容と、注目すべきツールを紹介する。
トレンドキーワードは「大量自主退職」
2021年後半以降、米国では「大量自主退職」が深刻化している。米国労働統計局によると、2022年2月には435万人が自主退職して おり、2020年同月の344万人と比較すると大幅な増加である。また、2022年3月の労働参加率は62.4%と、女性の労働参加が十分でなかった時代である1977年のレベルにまで低下した。
2日目の基調スピーチ「勝者独り占め:ソーシングの歴史を書き換える」で、スピーカーのUnqorkシニアソーシングマネジャー Rebecca Fouts氏は、働く人の約40%が現在転職を考えているという調査結果を踏まえて、キャリアの再活性化の時代に入ったと述べた。大量自主退職によって拍車がかかった人材不足の労働市場、つまり候補者優先の市場では、採用する側が変化に対応することが求められる。たとえば、フレキシブルな就労環境の維持や福利厚生の充実、そして、採用過程の透明性などである。また、ソーサー個人も現状に満足せずに常に学び続け、積極的に資格認定を受けるなど自己啓発に取り組む必要があるとFouts氏は強調している。
大量自主退職による労働市場の逼迫によって、人材を探すというソーサーの仕事は難しくなっているが、ソーサーが進化を続けていけば、厳しい競争の中で生き残り、勝ち抜くことができると同氏はエールを送った。
LinkedInだけに固執せず、複数のソーシングチャンネルを使いこなせ
初日の基調スピーチ、Balazs Paroczay氏による「なぜソーサーはLinkedInから脱皮するべきなのか」は、今回のコンファレンスの中で筆者が最も勉強になったセッションである。
LinkedInは米国で人気の高いビジネス系SNSで、そのユーザー数は8億人と非常に規模が大きい。人が多い分だけ情報も多く、そのために逆に使い勝手が悪くなるということがある。Paroczay氏は2つのケーススタディを紹介して、LinkedIn以外のソーシングチャンネルも使う必要性を説いた。
1つ目のケーススタディは、「Appleに所属するAI・MLソフトウェアエンジニアの候補者を探す」というミッションである。Paroczay氏が最初にLinkedInで検索をかけると、43人がヒットした。次に、AmazingHiringというソーシングチャンネルでまったく同じキーワードで検索をかけると59人がヒットした。そしてhireEZでも同様に検索すると148人がヒットし、LinkedInよりもAmazingHiringやhireEZのほうが多くの候補者が見つかるという結果になった。
2つ目のケーススタディは、「LinkedIn、AmazingHiring、hireEZ、GitHubという4つのチャンネルで同じ条件の検索をかけて、検索結果のそれぞれ上位150人を比較する」という実験だった。4社それぞれが提示した150人のうち、何人が重複して複数のプラットフォームに挙げられるかを検証するのが目的である。結果は、わずか2人という予想外のものだった。セッション中、ストリーミング画面の左にあるチャットボードでは驚きの声が続々と上がっていた。
2つの事例は、それぞれのソーシングチャンネルの保有するデータが異なっていることと、検索技術そのものが異なることを表わしている。そのため、ソーシングチャンネルによって挙げられてくる候補者や候補者の順位も違ってくるのである。したがって、ソーシングにあたってはLinkedInだけでなく他のソーシングチャンネルも使うのが重要だというParoczay氏の言葉には説得力があった。
2022年に注目すべきツール
ソースコンでは毎回、新しいツールが発表されるが、今回も多くのスピーカーがお薦めのツールを共有していた。その中で、チャットボード上の「ツール人気投票」で評価の高かったものと、南アフリカ発信の新しいツールを紹介する。
1.SeekOut
SeekOutは2016年にサービスを開始した、さまざまな検索方法が使えるサーチアグリゲーターである。フィルターの設定が容易で、候補者を絞りたい時には、特定の職種を除くことができる。サーチ結果はブーリアンや、他のアプリケーションにエクスポートできる。2022年4月時点で、保有するパブリック・プロフィールは7億人以上、そのうちエキスパート・プロフィールは9,600万人、デベロッパー・プロフィールは2,900万人と膨大である。しかし、一番の特徴は、ダイバーシティ・ハイアリングの機能を備えている点であろう。
SeekOutのダイバーシティ・ハイアリング機能では、ジェンダーや人種のフィルター、候補者の氏名、写真、学歴、SNSリンク、給与データといった無意識の偏見のフィルターがあり、採用チームのダイバーシティ目標に応じて設定を変えられる。また、リクルーティング戦略に効果的な、タレントプールのダイバーシティ分析も可能である。SeekOutを推す声が非常に高かったのも納得である。
2.Zindi
同時進行セッションの「他の人ができないインターネットをフル活用した候補者探し」で、スピーカーの南アフリカ在住リクルーティングトレーナーVanessa Raath氏が紹介したのがZindiである。
Zindiは創業2018年のスタートアップで、南アフリカを拠点とするデータサイエンス・プラットフォームである。ZindiはAIを活用したコンサルティングとソリューションを行うほか、マシンラーニングに力を入れ、データサイエンティストがアップスキルできる環境を提供している。
Microsoft、Google、IBMなどの巨大企業、南アフリカ政府やユニセフといった公共機関がZindiを利用している。また、2022年5月現在、4万人を超えるメンバーが同社のマシンラーニングを活用している。
アフリカではデータサイエンスはまだ浸透しておらず、現在のところ同社のマシンラーニングを利用する人の多くは学生やキャリアの浅い社会人であるが、Zindiは今後100万人規模のコミュニティに拡大して、若者のキャリア形成と就職活動を総合的に支援するツールにしたいと考えているという。
挑戦的なワークショップと課題
今回のソースコン・デジタルでは、ワークショップというセッションが新たに設けられた。筆者は、準備されていた5つのテーマの中から、「貴社のソーシング・ワークフローを最適化する」(スピーカーはMatcHRのAdriaan Kolff氏)に参加した。Kolff氏のワークショップでは、指示に従って、参加者が実際にContactOut、Zapier、Integromat、Bouncer、Lemlistという5つのアプリケーションでアカウントを作成し、それぞれをGoogle Spreadsheet上でコネクトし、最後に自分のLinkedInアカウントからKolff氏にEメールを送るというのがミッションだった。セッションの時間は40分弱と短く、そのような短時間にすべての手順を終えることができるのだろうかと疑問に思ったが、やはり途中で脱落する人が多く、ミッションをクリアしたのはわずか1人だった。ソースコンでは他のコンファレンスにはない刺激的なセッションを組み込むことがあり、新鮮な驚きを覚えることが少なくない。ただ今回のワークショップについては、時間の制約や参加者の準備などを考慮すると、改善が必要なのではないかと感じた。
TEXT=Keiko Kayla Oka (客員研究員)