領域の再編が続く米国のHRテクノロジー市場(後編)

2022年01月14日

最新のHRテクノロジーマップ(2021年11月)各領域の傾向を、下記にまとめた。
主に、プログラマティック求人広告と採用マーケティングプラットフォーム、採用候補者管理(CRM)とアプリカント・トラッキング・システム(ATS)、フリーランスマネジメントシステム(FMS)とベンダーマネジメントシステム(VMS)など、異なる領域間で機能の融合が見られる。

ソーシング

キャリアアドバイス&コーチングとジョブサーチオーガナイザーは、ほとんど変化は見られず、また需要もあまり増加していない。ジョブボードなどの企業向けサービスが、キャリアコーチングのアドバイスやコミュニティの構築といった機能を備えている。

ソーシャルCV&レジュメ・ビルダーは、とくにマルチメディア履歴書を持つクリエイターやデザイナーにとって役立つツールである。最近では、自分のプロフィールやスキル、職歴をアピールするために、独自ドメイン(GitHubやカスタムドメインなどを通じて)を取得する求職者が増えている。

プログラマティック求人広告は、企業の採用機能の高度化とともに、活用が増えると見込まれている。しかし、同機能を追加する採用マーケティングプラットフォームが増えているため、この分野は将来的に消滅する可能性もある。

リファラルツールは、企業にとって非常に効果的なソーシング経路の1つである。しかし、リファラルツールに関するイノベーションは、期待するほどには進んでいない。最近では、ソーシャルコミュニケーションプラットフォームをリファラルツールとして活用し、自社の求人情報を拡散する企業が増えている。

クラウドソーシングは、主にコンペ形式で業務を受発注するプラットフォームであるが、テンポラリーレイバーマーケットプレイスと比べると、市場の拡大速度は遅い。コンペごとに審査を行う必要があるため、時間がかかり、受発注のプロセスに摩擦が生じる場合がある。

テンポラリーレイバーマーケットプレイス(臨時労働者紹介)は、パンデミック以降は、リモートワークに特化したプラットフォームが成功している。オンサイトで働くブルーカラー向けのプラットフォームは、2020年には非常に苦戦したが、2021年には回復が見られる。企業が時給制労働者の人材確保に苦戦する中、事業を拡大し、多額の出資を受けている。

e-スタッフィングは、デジタル化されたスタッフィング会社としての側面を強めている。スタッフィング会社と同じように、成功報酬型の料金モデルを導入している。

リクルーターマーケットプレイスは、以前は個人リクルーターに業務を受発注するクラウドソーシングプラットフォームに過ぎなかった。しかし最近は、ベンダーマネジメントシステム(VMS)に似た機能を担っている。リクルーターマーケットプレイスの普及で人材紹介料の透明性の向上と標準化が進み、ヘッドハンティングや人材紹介業に料金引き下げの影響を与える可能性がある。

エンゲージメント

採用候補者管理(CRM)は、アプリカント・トラッキング・システム(ATS)とCRMの両機能を備える一体型と、CRMに特化したものとの二極化が進んでいる。多くのサービス事業者がAIによるマッチング機能を追加している。また、社内モビリティを促進するタレントマネジメントシステムを付加した製品もある。

採用マーケティングプラットフォームは、一般的に、CRM、採用ブランディング、プログラマティック求人広告の機能を備えている。一方CRMも、候補者エンゲージメントと求人広告配信の2つの機能を備える採用マーケティングプラットフォームへと進化する事業者が増えるかもしれない。

採用ブランドマネジメントは、企業文化の透明性の向上や、バイアスのない情報提供などを促進する。採用難に直面する大手企業は、潜在層を惹きつけ、関係性を構築するための手段として、採用ブランドを強化するためのマーケティング予算の増額を検討しており、サービスのニーズが高まっている。

エンプロイヤーレビューは、市場の成熟が進み、サービス事業者は新たなイノベーションが求められている。女性向けのエンプロイヤーレビューのFairygodbossのように、ニッチ化が進むことが予想される。近年は、企業のDEI(多様性・公平性・包括性)への取り組みに対する求職者の関心が高まっていることから、同サービスの成長が見込まれている。

ジョブポストオプティマイゼーションは、企業の採用情報ページやジョブディスクリプション内のテキストをAIで分析する機能を備え、企業のダイバーシティ採用を促進している。職種やスキルプロフィールの急速な進化に対応するため、ジョブポストオプティマイゼーションの活用を検討する企業が増えている。

オンラインイベントプラットフォームは、比較的新しい領域である。リモートワークやハイブリッド型の働き方の浸透によって、企業のニーズが高まっている。多くの採用プラットフォームが簡易なイベント管理機能を備えているため、オンラインイベントプラットフォームのサービス事業者は、企業に自社のブランド名による採用イベントの開催・管理機能を提供することで差別化を図っている。

選考

行動アセスメントは、候補者や従業員の性格特性を把握したいという企業の関心が高い。2021年6月のPymetricsとHiredScoreの提携により、アセスメントとマッチングのデータを同じダッシュボードで管理できるようになった。将来的に、候補者の評価と入社後のパフォーマンスや活躍について高度な予測ができるようになると予想される。

スキルアセスメントは、コーディングテストのサービスが最も多く、ゲーム体験を求職者に提供している。テストにおける不正行為の増加を受けて、生体情報を利用した視線追跡やその他の不正行為防止の仕組みを取り入れているサービス事業者もある。大手サービス事業者は、ソーシングから選考までの採用プロセスをサポートしている。

ビデオ面接は、HireVueによる会話型チャットボット大手のAllyOの買収で、製品の機能向上が見込まれる。また、面接採点機能の開発でイノベーションが見られる。バイアスの危険性を危惧する企業は、認知能力テストの代替として、Modern Hireの面接の自動採点モジュールに注目している。

身元照会とリファレンスチェックは、細分化とコモディティ化、自動化が進んでいる。Searchlight.aiによるソフトスキルの測定機能とリファレンスチェックの統合や、Veremarkによるバックエンド改良のためのブロックチェーンの活用など各社でサービスの進化が見られる。

労働市場インテリジェンスプラットフォームは、国や地域別の求人数および職種別人口、給与、求める能力やスキルといった職業情報や人材の需給情報に関するデータを提供する専門ツールである。より戦略的かつ分析的なアプローチを採用活動に取り入れたい企業の間で利用が増えている。

マッチングシステムは、AIの進化や、機械学習および自然言語処理の普及に伴い、より高度化している。最近では、従業員を社内公募の求人とマッチングし、社内の流動化を促進するタレントマネジメント製品へと進化している。

採用

デプロイメントシステムは、買収が相次いでいる。AviontéやBullhornといった人材派遣会社向けのATSが、デプロイメントシステムのWorkNとSirenumをそれぞれ買収した。多くの人材派遣会社が、デジタルトランスフォーメーションの一環としてデプロイメントシステムを試験的に導入している。

ダイレクトソーシングプラットフォームは、業務委託会社やスタッフィング会社などを介さずに、企業がフリーランサーといった外部人材から成る自社独自のプライベート人材プールを構築できる。非伝統的な働き方がますます重要となり、今後同プラットフォームの活用が進むと見込まれる。

フリーランスマネジメントシステム(FMS)ベンダーマネジメントシステム(VMS)では、Shortlist(FMS)がスタッフィング会社の管理機能を構築したり、BeelineやSAP Fieldglass(いずれもVMS)がFMSに類似する機能を追加するなど、両分野は融合しつつある。VMSは、新しいクラウド型プラットフォームができ、PRO UnlimitedやBeelineのようなマーケットリーダーは、自社製品の近代化とモジュール化を進めている。

今後の見通し

米国の労働市場は人材不足や退職者の増加の問題が深刻化し、人材の確保と従業員の離職防止が大きな課題となっているため、採用戦略や従業員エンゲージメントを見直す企業が増えている。飲食や小売店では、時給制の労働者の確保に苦戦している。このような背景を反映して、潜在層のソーシングツール、従業員エンゲージメントプラットフォーム、時給制の求人に特化したプラットフォームのニーズが高まっており、今後の成長が見込まれる。
企業は、複数のベンダーとの契約交渉の手間やシステムの連携にかかる費用を削減するため、社内のシステムを整理・縮小している。今後M&Aなど業界の再編が加速し、現在の39領域あるサービス分野はさらに減少する可能性がある。

図 HRテクノロジーマップ

HRテクノロジーマップ(Ver.10)出所:TTL "Talent Acquisition Technology Ecosystem 10(2021.11)"を基に作成(2021.12)
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