人事はどう選ぶ。アセスメントとHRテクノロジー

2022年06月22日

2022年4月6日と7日、世界の採用担当者が集うコンファレンス「EREデジタル」が開催された。講演者には、FordやTwitter、Amazonなどグローバル企業の採用部門のリーダーや、採用コンサルタントたちが名を連ねた。セッション数は15で、転職直後に採用プロセスを変革したリーダーの経験談や、採用期間短縮のための評価基準の提案、ポータブルスキルを重視しギャングメンバーを積極的に採用している企業の事例など、人材採用について多角的な視点で語られた。

本コラムでは、なかでも具体的なノウハウが共有されたセッション2つを紹介する。1つ目は、現在利用している採用アセスメント(以下アセスメント)の効果を検証する方法について、2つ目は、採用テクノロジーの導入時に、採用部門のリーダーが直面する課題や対応策についてのパネルディスカッションである。

組織の成果につながる人材を見出すアセスメントとは

Josh Allen氏Josh Allen氏

WalmartのJosh Allen氏(グローバル選考およびアセスメント戦略部長)は、「アセスメントを組織の成果と連結する」と題したセッションで、企業が使用しているアセスメントの妥当性を評価する方法を3段階に分けて説明した。企業は通常、アセスメントの結果から、候補者が入社後に活躍するかどうかを予測する。しかし、予測が間違っていた場合は、組織全体に影響が及ぶ。顧客の不満足を招いてビジネスの損失へつながったり、従業員が早期に離職して労務費が上昇したりするためである。そこで、組織の成果を予測するアセスメントを明らかにするための方法が多数共有された。ここではその概要を紹介する。

Allen氏は、研修効果を測定する「カークパトリックの4段階評価法」を応用して「採用アセスメント評価モデル」を作成した(図表1)。

図表1 採用アセスメント評価モデル

図表1 採用アセスメント評価モデル

レベル1は「反応」で、候補者体験を通じてアセスメントに対する反応を見る。アンケートで候補者の意見を直接聞く方法と、アセスメントへのリンクをクリックした候補者の割合や、アセスメントの完了率などのデータを確認する方法とがある。

レベル2の「知識」はアセスメントに該当しない。

レベル3は「行動」で、採用者の入社後の業績や行動の変化を確認する。たとえば、アセスメントの点数と、ひと月当たりの売り上げや勤続期間との相関関係を分析する。

レベル4は「結果」で、組織の成果とアセスメントの結果を結び付けて分析する。組織の成果には、収益や市場占有率などの財務的成果、従業員エンゲージメント、離職率、顧客ロイヤルティを示すNPS(ネットプロモータースコア)などがある。従業員を事業所や店舗、課などに分けて、「アセスメントの結果が良いグループは、組織の成果も高い」という相関を確認できれば、そのアセスメントは妥当といえる。

採用テクノロジー導入にまつわるリーダーの苦悩

左上:Lance Haun氏、右上:Kyle Lagunas氏、下:Carmen Hudson氏左上:Lance Haun氏、右上:Kyle Lagunas氏、下:Carmen Hudson氏

パネルディスカッション「優れたRFP(提案依頼書)で粗末な採用テクノロジーに終わりを告げる」では、General MotorsのKyle Lagunas氏(人材誘引、ソーシング&インサイト部長)とExtraHopのCarmen Hudson氏(人材獲得上級責任者)が、採用テクノロジーを導入する際の課題や見解を語った。モデレーターはThe Starr ConspiracyのLance Haun氏(マーケットインサイト担当副社長)が務めた。ラグーナス氏とハドソン氏は元コンサルタントで採用テクノロジーについての見識が高いが、社内に導入する当事者になってからは日が浅く、戸惑いもあるように感じた。

セッションの内容は、採用テクノロジーの導入における3つのステージに分類できた――①課題の洗い出し、②ベンダーの選定、③採用テクノロジー導入後である。

① 課題の洗い出し

Aptitude Researchの調査によると、人事責任者の78%は「現在の採用テクノロジーに満足している」が、採用担当者は48%と大きく下回る結果が出ており、導入を検討する際にユーザーである採用担当者の声が反映されていない様子がうかがえる。General Motorsでは、IT部署が社内のテクノロジー全体を管轄しているという。IT部署は3年先までの計画を描こうとするが、採用領域は変化が激しく、先を見越して動くのは難しい。Lagunas氏は、「立場によって優先事項や解決したい課題が異なるため、関係者それぞれの意見を集めることが大事だ」と主張する。ただ、採用部署の実務担当者や管理職は、RFPの形式や用語に馴染みがない。そのため、同氏は「スコアカードを用意して、『ソーシング』『面接』『レポーティング』などの項目ごとに点数をつけてもらい、自分たちの言葉で困りごとを挙げてもらうようにした。それをもとに、私が技術要件や機能要件をRFPの用語に『翻訳』している」と話した。

② ベンダーの選定

採用テクノロジーのベンダーが多数あるため、その中から自社に最適な製品を選定するのは困難である。製品を評価するレビューサイトは役に立つが、Lagunas氏は「誰がそのレビューを書いたのかも注視すべきだ」と助言する。「ユーザーの高評価を得るまでに、管理者側がどのぐらいの労力をかけたのかという情報も重視する」という。

Lagunas氏とHudson氏は、「ベンダーは競合と差別化するために、製品の機能をアピールするが、まずは自社にとっての必要機能だけを比較して検討することが重要」と声をそろえた。また、ほかの部署で使用している製品や予算の兼ね合いなどから、採用部署にとって最適なテクノロジーに決定するとは限らないという。

③ 採用テクノロジー導入後

テクノロジーを導入した後、採用担当者から「うまく機能しない」「これまでと同じ作業なのに、クリック数が増えた」などの不満が出ることがしばしばある。導入する製品を決定する際に、採用部署以外の部署の希望も考慮しているからである。ただ、採用担当者が製品の機能を理解できていない場合もあり、Hudson氏は「ベンダーに採用担当者向けの研修を何回か実施してもらい、皆が製品を最大限活用できるようにしている」という。さらに、「使いにくいのはテクノロジーのせいではなく、業務プロセスが悪いこともある。その場合、テクノロジーで解決することはできないので、業務プロセスを見直すことが先である」と述べた。

Lagunas氏もHudson氏も、コンサルタントとして培った専門知識を現職で活かしつつも、テクノロジー導入の複雑さについて実務担当者の理解を得るのに苦労しているようだった。彼らの経験をもとに、「ベンダーを選定する段階で、ITや採用、購買、HRBPなど関係者たちの意見を集め、また自分たちのニーズをオープンに伝えることが最も重要」というアドバイスでセッションが締めくくられた。

 

TEXT=石川ルチア

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