Collaboration in the Gig Economy 2020 参加報告

2020年12月03日

毎年、秋に開催される、ギグエコノミーの最新トレンドと今後の動向を紹介するCollaboration in the Gig Economy。2020年は新型コロナウイルス・パンデミックの影響で、バーチャルでの開催となった。このコンファレンスは、スタッフィング・インダストリー・アナリスト(Staffing Industry Analysts、以下SIA) が主催しているもので、今回は「タレント・サプライチェーンの改革と最適化」というテーマを中心に、2020年9月17日から18日にかけて行われた。合計セッション数は約50、参加者数は約760名だった。

01. Asin写真-R.jpgSIA社長Barry Asin氏による基調スピーチ

コンファレンスは、例年通り、SIA社長Barry Asin氏の基調スピーチで始まり、ギグエコノミーの代表的企業のトップによるパネルディスカッションや、新興・破壊的テック、新しい仕事の世界、法律・コンプライアンス、コラボレーション事例の4つのトラックに分かれた同時進行セッション、そして恒例のギグエコノミー・シャークタンクなど、多種多様なアジェンダに従って進行した。

ここでは今回のコンファレンスで紹介されたギグエコノミーの現状をレポートする。

2020年は変革の年

Asin氏は、まず、2019年の米国ギグ市場が非常に好調であったと振り返った。米国の就業者の34%に相当する5,400万人がギグワーカーとして働き、市場規模は1.3兆ドルにまで達した。パンデミックによって、Randstad、ManpowerGroup、Adeccoといった総合派遣会社は打撃を受けたが、Fiverr、Freelance.com、Upworkといったタレント・プラットフォームは逆に業績を伸ばした(図表1)。コンティンジェント労働者を対象に行った過去の調査から、ギグを選ぶ理由のトップが働き方の柔軟性であることがわかっているが、これは非常事態で先行き不透明感の強いなか、多くの企業やワーカーが安定性よりも柔軟性を重視してフリーランサーという形態を選んだということなのかもしれない。

図表1 公共投資アナリストによる2020年総収益予測
08-01グラフ.jpg出所:Thomson ReutersおよびStaffing Industry Analysts

一方、ここ数年の間に飛躍的に業績を伸ばしてきたライドシェアのUberやLyftは、減益、規模縮小に追い込まれた。外出禁止令によって、外出する人、つまりライドシェア利用者が激減したことが最大の理由である。近年、ライドシェア業界への風当たりは強くなっている。たとえば、契約上フリーランサーとなっている運転手でも、一定の要件を満たすと、州法では、会社の労働者として扱われるという、2019年にカリフォルニア州で成立したAB5法への対応にライドシェア会社は苦慮していたが、そこに今回のパンデミックによる打撃で、まさにダブルパンチを受けた形である。AB5法と同様の法律は他州においても成立する可能性があり、フリーランサーを使用している企業はその動向を注視している。

また、Asin氏はこれまでの経済不況時に、Vendor Management System(VMS)とManaged Service Provider(MSP)の導入率が跳ね上がったことに言及し、今回もこれとよく似た状況が起こるのではないかと予想した(図表2)。

図表2 VMSとMSPの導入率

08-02グラフ.jpg

出所:Staffing Industry Analysts

リモートワークの拡大

2020年の雇用の場におけるトレンドの1つは、リモートワークの拡大であろう。今回のコンファレンスでも、各セッションでの議論の中心は、事前に設定されたテーマではなく、パンデミックへの対応とリモートワークであった。外出禁止令やソーシャルディスタンシングという緊急的施策によって、企業は、多くの労働者について、在宅勤務に切り替えざるを得なくなった。これは、派遣労働者についても同様で、米国では派遣労働者の50%程度がコロナ禍でリモートワークに切り替わったという。

02. リモートワークセッション-R.jpgセッション「パンデミック後の世界におけるリモートワーク」の模様

「パンデミック後の世界におけるリモートワーク」がテーマのセッションでは、スタッフィング会社、タレント・プラットフォーム、保険会社の代表らが、各社のリモートワークの状況を報告した。タレント・プラットフォームの大手Upworkでは、2020年以前から部分的にリモートワークを導入していたが、コロナ禍においては一部の地域で100%リモートワークに移行した。アウトソーシング・リクルーティングのAquentでも、以前は勤務時間の40~50%がリモートワークだったのを、パンデミック発生後は100%リモートワークに切り替えている。いずれも、コロナ前からリモートワークを導入していたため、100%リモートへの切り替えは比較的スムーズに進んだという。

一方、医療保険会社CareFirstは少し事情が違った。これまで社員のほぼ全員が、月曜日から金曜日の9時から17時まで、という伝統的な働き方をしていたが、新型コロナウイルスの影響が出始めた2020年3月から、各地域で急遽100%リモートワークに切り替えざるを得なくなった。リモートワーク導入当初は、テクニカル上やコミュニケーション上の問題が出て、会社も社員も戸惑うことが多かったという。しかし、徐々に社員がリモート環境で働くことに慣れ、また、会社がパンデミックを機に、コンティンジェント労働力プログラムを導入して、多様な労働者の採用を開始した結果、働き方の柔軟性が大幅に向上し、会社全体のダイバーシティも高まった。同社では少なくとも2021年までは、100%リモートワークを継続する予定である。タレント・プラットフォームの大手Upworkでは、2020年以前から部分的にリモートワークを導入していたが、コロナ禍においては一部の地域で100%リモートワークに移行した。アウトソーシング・リクルーティングのAquentでも、以前は勤務時間の40~50%がリモートワークだったのを、パンデミック発生後は100%リモートワークに切り替えている。いずれも、コロナ前からリモートワークを導入していたため、100%リモートへの切り替えは比較的スムーズに進んだという。

リモートワークには、ワークライフバランスと柔軟性の向上、欠勤率の改善のほか、通勤等にかかるコスト削減といった利点があると一般的にいわれているが、米国ではこれまで、業績管理やコミュニケーションの問題、そしてリモートワークのためのテクノロジー導入にかかるコストなどがネックとなって、先送りにしてきた企業が少なくなかった。しかし、パンデミックによって、リモートワークを導入せざるを得なくなった結果、その利点を再認識した企業が多く、コロナ後もリモートワークを継続するところが少なくないと考えられる。

ギグエコノミーにおけるデジタル・トランスフォーメーション

03. 未来のテックセッション-R.jpgセッション「未来のテックがギグエコノミーに出合う」の模様

デジタル・トランスフォーメーションに関する議論は多くのセッションで交わされたが、データソリューション会社のTentialやタレント・データを扱うBrightfieldが参加したセッション「未来のテックがギグエコノミーに出合う」では、ブロックチェーン・テクノロジーの導入によって、データ分析の重要性が高まる一方、インターネット上のプライバシー保護やセキュリティの在り方が変わる、という見解が強調された。また、パンデミックによって業務の効率化のニーズが高まり、それがオートメーション化の加速につながるという指摘もあった。

最後の基調パネルディスカッション「デジタル・トランスフォーメーションとタレント・サプライチェーン」では、参加者全員がデジタル・トランスフォーメーションの目的を明確にするべきだという意見で一致した。産業派遣大手TrueBlueの代表は、多くの会社は、デジタル・トランスフォーメーションをコスト削減のための作戦ととらえているが、小規模事業者の競争が激しい業界では、それ以外に、売上を伸ばし、クライアントに対する価値を生み出すための戦略としてもとらえるべきであると述べた。スタッフィング業界のソフトウェア開発リーダーであるBullhornのCEOも、TrueBlueの意見に賛同しながら、デジタル・トランスフォーメーションの導入を希望する企業の多くは、その理由や目的が明確ではないと指摘し、デジタル・トランスフォーメーションを、テクノロジーを活用したビジネス・トランスフォーメーションととらえるべきだと述べた。

また、大手総合派遣会社Adecco Groupのデジタルパートーナーシップ・グローバル責任者は、ハイボリュームなスタッフィングの分野ではオートメーションを導入すると同時に、各市場と地域の状況に応じて、デジタル・トランスフォーメーションを進めていると話した。

SIA社長Asin氏の話では、HRテクノロジーへの関心は、投資の観点からみても、依然として高いという。2019年、ベンチャーキャピタルによるHRテクノロジーへの投資は、過去最高額を記録したが、2020年もコロナ禍にありながら、取引件数は前年とほぼ同程度を維持している(図表3)。投資を後押ししているのは、低い金利とタレント・アクイジションの分野への高い関心で、この傾向は今後も続きそうだ。

図表3 ベンチャーキャピタルによるHRテクノロジーへの投資

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出所:Staffing Industry AnalystsおよびHRWins

TEXT=Keiko Kayla Oka(客員研究員)

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