SIAエグゼクティブフォーラム2017参加報告(3)
マイクロソフトと何をする?新生リンクトインが取り組む戦略
第3回目は、リンクトインに着目する。2つのセッションの1つは、人材サービス業界の課題とそれに向けたリンクトインのソリューション。もう1つは、同社が新たに参入した臨時労働市場向けのサービス。マイクロソフトによる買収からわずか数カ月ということで詳細は不明確ながら、今後の可能性を踏まえた展望が共有された。
セッション1
マイクロソフト&リンクトインが形作る、採用の未来
リンクトインのミッション
世界のプロフェッショナルの生産性を高め、成功へとつないでいく
マイクロソフトのミッション
世界中のすべての人々とビジネスの持つ可能性を最大限に引き出すための支援をする
両社の事業において人間関係を重視している点が共通しており、買収の合理性を強調していた。リンクトインのメンバー約5億人のうち、1億500万人以上は活発に利用している。マイクロソフトオフィスの利用者12億人が対象となれば、ミッションに向かう進歩が加速する。例えば、誰もがレジュメ作成で利用するWordと統合すれば、求人求職活動がより豊かな体験となるという。
リンクトインのテクノロジーとデータ活用で
クライアント企業の貴重なアドバイザーに
かつてないほどに転職が活発化している。そして、求人をめぐる競争が激化している。1件の求人に多くの人材サービス会社が関わっている。テクノロジーを活用すれば価値の低い業務に費やす時間を削減し、リクルーターが価値の高い活動に従事する時間を作れる。一例を挙げればスケジューリング。リンクトインは、リクルーターが面接のスケジューリングを任せられるバーチャルアシスタントの開発に取り組んでいる。
クライアント企業には、自身でデータを収集する時間も手段もない。そこで、同サイトのデータを活用して人材サービス会社が機能的な専門知識を提供できれば、他社との差別化を図れる。例えば、リンクトインでは職種やスキルごとに各都市での需要と供給をグラフで確認できるようになっている(右図参照)。
さらに、現在最も需要が高いスキルや、これから需要が伸びるスキルもリンクトインのデータで確認できる。この情報を基に真っ先に人材のパイプラインを用意しておけば、市場で有利に立てる。
人材サービス業界は、「働く意義」を最も重視する業界の1つ
グローバル調査「Purpose At Work」によると、人材サービス業界は最も働く意義を重視する業界の1つである。上位5つの業界は政府・教育・非営利、メディアと芸能、専門家サービス、医療・製薬と人材サービスである。会社のミッションに同調する従業員は定着するだけでなく、会社のブランドを促進することがデータで示されている。人材サービス会社は、従業員を通して容易に人材を惹きつけられるようになり、クライアント企業への人材あっせんがより効果的になる。
セッション2
進化する仕事と、契約労働者経済で成功する方法
リンクトインは従来、ホワイトカラーで消極的な候補者をビジネスの対象としてきた。しかし、契約労働の時代となり、同社も臨時雇用を含む、あらゆるプロフェッショナルがより生産的になれるようにサポートするサービスを開始した。
仕事の本質が変化した4つの要因
同社のサーチ&スタッフィング部門長、アリッサ・マーウィン氏は、フリーランサー・契約労働者・ギグエコノミー市場の変化を駆り立てているトレンドを4つ特定し、それぞれの課題を投げかけた。
1. 多世代にわたる労働力
全員を満足させ続け、積極的に仕事に取り組ませ続けるにはどうすればよいのか?
各世代の人材の管理方法を、クライアント企業にどうアドバイスすべきか?
彼らがキャリアチェンジするあらゆる段階で後押しできるよう、関係を育むにはどうすればよいか?
2. 仕事の目的・意義の重要性
人材サービス会社は、求人の背後にある価値や意義をどのように候補者に伝えたらよいのか?
クライアント企業にはどのようにアドバイスすれば、彼らの目的・意義が明確に伝わるのだろうか?
3. テクノロジーの進歩
平均的な労働者は、5年ごとに新たなスキルを身に付けなければならない。
将来の仕事に備えて、学校は今から子供たちにどのような準備をさせたらよいのだろうか?
私たちは共同責任を負っている。
4. 働き方の変化
世界のHRリーダーに調査したところ、ビジネスを変えている一番のけん引役は、「リモートワークを可能にするテクノロジー」だと回答した人が44%いた。
人々はキャリアを再定義し、求人や教育へのアクセスを見直し、さまざまな職務の魅力が変わっている。
企業は変化のスピードを加速しており、高技能労働者を短期間採用することへの関心がこれまで以上に高い。つまり、フリーランサー、臨時労働者などの非正規労働者が会社の戦略的職務の中心に組み入れられることになる。高まる需要を受け、労働者は従来とは異なる働き方に抵抗感がなくなっている。一方で、企業が契約労働者を見つけるのはより難しくなっている。典型的なフルタイムのプロフェッショナルと契約労働者は見分けがつかないからだ。では、どのように彼らを特定できるのか?
リンクトインで契約労働者を特定できる
昨秋、「オープンタレント(※)」という機能を立ち上げた。ユーザーは、「転職に興味がある」というボタンをオンにすると、プロフィルにその旨が反映され、リクルーターだけに公開される。
ユーザーが希望する雇用形態(フルタイム、パートタイムか契約)を収集することで、リンクトインは契約労働者の母集団を特定できるようになった。
リンクトインの利用率が高い職種はITとエンジニアだが、「契約の仕事に興味がある」という意思を示した人の36%はマネジャー以上のレベルで、その50%がVP(Vice President)レベル以上だった。つまり、これまで私たちが思っていた以上に、契約労働者は多様なのだ。
業界別に見ると、IT、医療と高等教育分野で契約労働に対する関心が高かった。一見契約労働とは無縁に思える業界にも、興味を持つ熟練労働者がリンクトインで特定できた。他に特徴的だったのは、過去1年間で契約労働へと切り替わった労働者の68%が、業界も変えていることである。また、彼らの10人に1人が、この12カ月間の間に引っ越しをしており、契約労働者も新しいチャンスのためならば引っ越しを厭わないことが明らかになった。
リンクトインで取り組み始めた3つの事柄
1. オープンタレント
ユーザーが興味のある仕事について具体的に示せば、リンクトインはそれに合う機会とのマッチングを提供する。このサービスは急成長中。
2. データ
ユーザーが契約労働に興味を示す前に彼らのモチベーションを理解するためのデータ。契約労働に興味があるタイプの人材を特定する予測モデルを改善中。
3. リクルーターのその他のニーズに応える
採用にかかる期間の短縮、返信までの時間の短縮、契約労働に興味がある人材へのより幅広いリーチなど。
始めたばかりの取り組みだが、契約労働に興味を持つユーザーをすでに500万人以上特定できている。彼らの返信率は平均よりもはるかに高く、メール経由の連絡よりもはるかに早く返信がある。
質疑応答
質疑応答では、「アマゾンのようにバーチャルスタッフィング業を始めるという噂は本当か?人材サービス会社の競争相手になるのか?」「買収後も独立性は保てているのか?」など今後の方向性への関心が高いことがうかがえた。リンクトインは今後も直接的な人材あっせんに関わる計画はなく、マイクロソフトとは対等な関係にあるという回答だった。
本コラムでは3回を通して、人材サービス業界の課題を俯瞰的に考察したセッション、ニッチな新興企業によるセッションと、マイクロソフトに買収された直後のリンクトインによるセッションを紹介した。他には、最先端のテクノロジーを活用する人材ビジネス会社によるセッションもあり、フォーラムの内容は多岐にわたっていた。次の1年も、急速に変化する流れを掴んで新たな人材ビジネスを切り開いて業界をけん引する企業、「Dare to Lead」に当たる企業が出現するか、注目される。
※オープン・タレント(キャンディデートとも呼ばれる)では、現在の雇用主へ求職活動が漏れないよう徹底的に管理されており、ユーザーのステータスは、異なる会社のリクルーターしか見られない。同機能で収集するユーザーの情報は、興味のある仕事の種類(肩書、経験年数、領域など)、引っ越し可・不可、引っ越してもよいと思う都市、就業開始可能日、希望する雇用形態(フルタイム、パートタイム、契約)。実際に積極的に求職中のユーザーに限定するため、「新しい仕事に興味がある」というステータスは90日後に自動的に切れる設定となっている。
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