SIAエグゼクティブフォーラム2016参加報告

スタッフィング業界の未来予測

2016年10月07日

米国アリゾナ州フェニックスで2016年2月22日から25日まで開催された「SIAエグゼクティブフォーラム」に参加した。25周年を迎えるフォーラムの出席者数は約1,200名。
その大多数が米国からの参加で、カナダ、英国、豪州、アルゼンチン、ドバイなどからの参加もあった。食事と休憩スペースを兼ねた展示場では、スタッフィング会社向けのサービス業者が展示ブースを設置しており、リンクトインやインディードをはじめとする採用テクノロジー、保険会社、マーケティング会社、銀行など104社がデモンストレーションや販促品を配布していた。

SIAとは
SIA(Staffing Industry Analysts)は1989年に設立された組織で、世界のスタッフィング事業(人材派遣、人材紹介、その他あらゆる種類の一時的労働力を提供・管理する事業)に関して調査分析しているグローバルアドバイザー。本社をカリフォルニア州に、複数のオフィスをロンドンに構えている。

SIAエグゼクティブフォーラム
SIAは毎年、スタッフィング会社のエグゼクティブを対象としたカンファレンスを米国と欧州で開催している。エグゼクティブたちは人脈作り、ベストプラクティスの共有、テクノロジー業者の物色などを目的として集まる。また、売買収先を求めて自社をアピールする場にもなっている。

リーダー論からAI活用案まで、変化に富んだ基調講演

item_trend_sia_vol01_01-300x202.pngバリー・エーシン社長(左端)とSIA創設者と過去のスタッフィングリーダーシップ賞受賞者たち

ゲストスピーカーによる基調講演は3つ。個々の強みを引き出すリーダーシップを提唱する本でベストセラー作家となったマーカス・バッキンガム氏、シンギュラリティ大学のAI・ロボット工学部共同議長ニール・ジェイコブスティン氏、そして意識的に時間の使い方を変えることで効果的・効率的なリーダーになる術を紹介したジェレミー・クビチェック氏。特にバッキンガム氏はユーモラスな話術で会場を沸かせた。エグゼクティブを囲むメンバーの選び方や人事考課の無意味さなどを説き、講演後の著書のサイン会には長蛇の列ができていた。

3日間にわたって実施されたフォーラムでは、42のセッションが実施された。セッションの内容は業界別パネルディスカッション(臨床科学、IT、事務、財務・経理など)や急成長中の会社による成功の秘訣、インディードによる調査を基にした最新の求職・求人活動の実態紹介、VMS(※1)、MSP(※2)、AI・ロボット、女性の昇進、採用難など多岐にわたった。その一部を紹介する。

2025年のスタッフィング業界
欲しいのはテクノロジーを駆使する医療系人材

SIA社長バリー・エーシン氏の基調講演は、スタッフィング業界の歴史を振り返り、現況、そして今後の予測を数字で紹介した。
派遣労働市場規模は1,160億ドル(2015年現在)、無期雇用者の紹介を含めたスタッフィング全体の市場規模は1,340億ドルであった(SIA調べ)。
SIAはヒューマンクラウド(別の名をギグ労働力、あるいはギグエコノミー)もウォッチしていく予定で、その市場規模はおよそ100億ドルと推測する。年間15~30%の成長を続けているため、スタッフィング業界にとっては脅威とも言えるが、今後M&Aによりヒューマンクラウドと従来のスタッフィング業界が絡み合い、チャンスになり得るという。

また、フォーラム出席者にアンケートを取り、10年後のスタッフィング市場についての見解を調査した。約2週間後に届いた集計結果とSIAの分析によると、2025年は次のことが予測される。

<2025年のスタッフィング市場>

  • 米国のスタッフィング市場の成長率が過去20年間平均3.0%ずつであったことを踏まえると、市場価値は推定1,830億ドルになる
  • 最も採用が困難になっているであろうスキルや業界は、医療系(医師や看護師だけでなく、遠隔治療、IoT、ロボット、クラウドベースの電子カルテなど新たなテクノロジーに精通した医療従事者を含む)
  • ITの定義が拡大し、テクノロジーが仕事や私生活により広く深く入り込むことを考慮すると、ITスタッフィングは今後40年間以上成長を続ける

正社員まで一括管理へ
進化し続ける労働力ソリューション

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人材調達・管理に関するサービスは年々複雑化しており、さまざまな領域がある。エーシン氏はそれを俯瞰的に見て分類した「労働力ソリューションエコシステム」(図1)について解説した。

人材関連サービスには大きく分けて「無期雇用を前提としたもの」と「一時的労働力に関するもの」の2種類ある。どちらの領域も、以前は顧客企業1社に対してあらゆる業者が分散的にサービスを提供していたが、顧客企業は特定の業者のみを優先して利用し始め(Preferred Supplier/Agency)、次第にMSPやRPO(※3)に採用や管理を一手に任せるようになった。時代はトータルタレントマネジメント(TTM)へと移り変わってきている。TTMとは、顧客企業に従事している労働力を総合的に管理する人材管理モデル。正社員と臨時労働者のソーシング、採用、管理を一手に引き受ける(図2)。トータルタレントアクイジション(TTA)ともいう。

"使う"から"見守る"へ
AI・ロボット工学

AI・ロボット工学の権威であるニール・ジェイコブスティン氏が、最新の発明とスタッフィング業界におけるその活用事例を紹介し、今後の人間・仕事への影響に対する自身の所見を共有した。同氏がまとめた、人事におけるAIの価値は次のとおり。

1. AI+人間+良いビジネスプロセスによって人的資源の生産性を増加させる
2. 臨時労働者や社員候補者の特定をきめ細かく、明確に、根拠に基づいたものにする
3. AIやロボット、クラウドによる労働力の拡大
4. 人間による偏った意見ではなく、深層学習アルゴリズムによるデータ分析を通してアセスメントを改善

会場外にある休憩スペース

フォーラムではヒューマンクラウド事業を代表する4社によるセッションがあった。そのうちの1社、WorkFusionは、ロボット工学をクラウドソーシングに利用して、人間とソフトウェアのパートナーシップを構築している、という。同社は、データ入力のような人智を必要としない反復作業を自動化する「ロボット工学オートメーション」と、人間の意思決定の仕方を学習して真似する「認知のオートメーション」を組み合わせて、処理プロセスを効率化するサービスを提供している。つまり、優秀な仕事をする人間がソフトウェアおよび機械を訓練すると、次第に仕事の大部分を機械が行うことになり、人間は問題が起きたときに正すためにそばに待機するだけでよくなる。精度の高まったソフトウェアはクラウド上のフリーランサーたちに研修機会を与え、結果、顧客企業に大規模なオンライン労働力を提供することができる。

エグゼクティブフォーラムを通して見えてきたのは、1)TTMモデルというスタッフィング市場の視野・視座の変化や、2)AI・ロボット工学の進化により、スタッフィング会社は"人材の提供"から"ソリューションの提供"へと、コンサルタント的な役割を担うようになることであった。また、SIAのリサーチャーやスタッフィング企業のエグゼクティブと交流することで、業界のトレンドや、使用しているソフトウェアに対する評価など、生の声を聞けたことは貴重な機会だった。

※1 Vendor Management System。企業が派遣会社や時には人材紹介会社を通して自社で勤務している労働者を管理するための、ウェブベースのアプリケーション。勤怠管理や請求書作成といった機能を搭載
※2 Managed Service Provider。クライアント企業で勤務する非正規労働者を現場で継続的に管理・監督するサービス
※3 Recruitment Process Outsourcing。採用プロセスの全てあるいは一部を外部に委託すること。RPO会社はクライアント企業の採用部署の代理として(主に正社員の)採用を請け負う