SIAエグゼクティブフォーラム2017参加報告(2)

新興企業が描く、既存のモデルを超えるIoT時代の人材ビジネスとは

2017年06月09日

第2回目は、特徴的な人材ビジネスを展開する3社によるパネルディスカッションを紹介する。
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この3社はなぜ「破壊的」なのか?
従来の人材サービス会社との違いは何か?

Ravature
提携大学でクライアント企業向けに人材を「製造」する、インド式ビジネスモデル

2020年までに200~220万件のIT関連職の求人があると予測されている。高給のテクノロジー職に就きたい人は無数にいるが、求人と人材のスキルは必ずしも一致しない。そのスキルギャップを埋めるのがRavatureのビジネスモデルだ。質の高い労働力を作るには、企業も大学教育に参加し、即戦力を育てなければならない。「これが人材サービス業の本質だと考える」とCOOバラス氏は言う。

大学とのパートナーシップは3段階ある。
1. Ravatureは、米国で上位1%にあたる700校の学生を卒業後にクライアント企業へ就職させるというパートナーシップを結んでいる
2. Ravatureと覚書を交わしている150校超の大学の学生は、同社のオンラインプログラムと短期集中型講座を受講している
3. プレミア・パートナーシップを結んだ大学とは、学生が卒業すると同時にRavatureのプログラムに進む約束をしている

item_trend_sia2017-2_column_trend10_photo01.jpg左から、ジョン・ナーセン氏(司会)、アシュウィン・バラス氏、マイケル・カーンズ氏とジェイコブ・ローゼンブルーム氏

Ravatureプログラムの修了生は、クライアント企業に就職する。契約社員として雇用され、数カ月後に正社員に転換する。在学中にトレーニングされているため、入社後すぐに経験年数2~3年の従業員と同等の仕事をするという。クライアント企業は採用と研修にかかるコストを20%節約できる。

大学と学生からは料金を徴収しないため、プログラムに受け入れる学生を精選できる。ポジション20件に対し、4日間で400件の応募があったという。クライアント企業は採用する学生数にかかわらず、一律の料金をRavatureに支払う。料金は地域により異なることがある。

Ravatureが課す条件は、
1. クライアント企業はRavature経由で採用した社員全員に同額の給与を支払うこと
2. 学生とクライアント企業は、2年間の研修にコミットすること
初年度の離職率はわずか4%未満だという。

Ravatureの事業は米国内のみで、人材の99%は米国民。配属できる人材の定員は1,500人だが、数年後には5,000人に拡大できる見込みだ。同社のビジネスモデルはインドで一般的な方式だが、インドでは最近新卒採用が著しく減っているという。「スリランカやベトナムでも、同様のコンセプトを応用できる」とバラス氏は述べた。

Toptal
審査を通過するフリーランサーはわずか2%。その後も人事考課と査定でクオリティを維持

世界100カ国に4,000人のフリーランサー・ネットワークを持ち、現地で日々優秀な人材と関係を構築している。登録者からのリファラルが中心。クライアント企業は、近所に住む平凡な人材ではなく、世界の裏側にいる適材を必要としている。
Toptalが取り組む課題もスキル不足。

item_trend_sia2017-2_column_trend10_photo02_2.jpg昼食の様子

新規登録には厳しい審査と試験を実施するため、数週間かかる。審査を通過する人材は2%に満たない。
コミュニケーション能力(言語、マナー、協調性)と技術的なスキル要件があり、その後、定期的に人事考課や査定がある。登録者の1/3は米国在住で、残りは主に欧州と南米にいる。魅力的な求人を提供できなければフリーランサーは他所で働いてしまうことが、同社に良いプレッシャーを与えている。

クライアント企業には、求める人材と同じ領域の専門家を担当者にして、コンサルティングに近いサービスを提供している。例えば財務職の求人には、リクルーターや営業職ではなく、クライアントの課題を理解できる財務の専門家を付ける。クライアントが採用したフリーランサーに満足しなければ料金は発生しない。

Toptalの存在意義は、世界中の人のキャリアとチャンスについての視座を変えることだと同社VP of Enterpriseカーンズ氏は言う。「正しいビジネスモデルで人材コミュニティをサポートする。彼らは合致する仕事を見つけられ、自身のキャリアや求めるものを獲得する方法について、新しい見方ができる。求めるものはお金かも知れないし、柔軟性、プロジェクト、あるいは伸ばしたいスキルかも知れない。世界中から人材を発掘するシステムは、まだ人にも企業にも有利に働いていない。当社の手法、テクノロジー、プラットフォームや人材とニーズのマッチングは革命的だ」と同氏は続けた。

Emprego Ligado
ブラジルで、モバイルのみで完結する新たな人材ビジネスを開拓

ブラジルをはじめとする新興市場は、これまで「その他の地域」と呼ばれ、人材サービス業界でさほど注目されてこなかった。しかし、ブラジルの低技能職の人材紹介は年間4,600万件と、米国と欧州の数倍にあたる。Emprego Ligadoは、新興国でビジネスを開拓している「破壊的な」企業だ。

クライアントは国内の主要な小売店で、低技能・ブルーカラーの人材との連絡は完全に携帯電話のショートメッセージ経由だ。南米の中層~下層階級ではスマホ浸透率がまだ低いため、レジュメを提出するための漸進的なウェブアプリケーションを開発した。

ブラジルにおける従来のジョブボードは求職者に課金するモデルで、月々15~30ドルを課金していた。職種別も少なくマッチングもコンテンツの質も悪かった。また、従来の人材サービス会社が徴収する紹介料は1カ月分あるいは60%だが、Emprego Ligadoでは、その1/3から1/6と安価である。

CEOローゼンブルーム氏がこのビジネスを選択した理由は2つ。
1. 人材と投資を集めやすい 南米などの新興市場ではチャンスや平等といったものは限られているため、簡単な仕事を地元で即時に提供するというミッションは支持される
2. マッチングが容易 低技能職が主体で、仕事と求職者の位置情報のみのマッチングで済む

先進国ではすでにベストプラクティスが確立されている。新興国は競合が少なく、より面白い成長ができる市場となる。

3社が考える人材サービス業界のトレンドと今後

バラス氏(Ravature)「テクノロジー業界のトレンドは2つ。1つ目は、アウトソーシングよりも自社でプロジェクトを完結しようとするクライアント企業が増えている。コントラクターよりも正社員を雇いたがっている。
2つ目は、人材サービス会社の規模によって二極化している。大手は、買収や有機的な成長を通して安定した地位を築いている。小規模企業も順調だ。しかし、中規模の企業は行き詰っており、成長している企業は数少ない。その主な理由はテクノロジーの変化だと思う。5年後にはIoTが主流になっているだろう。それに備えておかなければならない。クラウドやIoT技術を持つ会社と競争するのは非常に大変になる」

 

item_trend_sia2017-2_column_trend10_photo03.jpg対岸から見た会場

カーンズ氏(Toptal)
「人材を見つけて何年も雇用するよりも、必要に応じて規模を拡大縮小し、人材をリサイクル利用する。もう1つのトレンドは、ウーバー、Airbnbといった消費者向けギグエコノミーの台頭。クライアント企業の多くは、"狭い選択肢にこだわる必要はない。新たなコンセプトを取り入れよう"と目を向け始めた」

ローゼンブルーム氏(Emprego Ligado)
「2つある。1つ目は、世界中の人がSNSやスマートフォンを利用しており、大都市で仕事が見つからないという言い訳はできない。その人がどんな仕事をしたいかが問題だ。2つ目は、クライアントがモバイル戦略やビッグデータ、AIについて議論するスピードが増している。私たちは、クライアントがテクノロジーに対応する際に役立つ存在でなければならない。 今後は、人事もデータ分析や予測解析が求められる」

上記3社はそれぞれ、クライアント企業が必要とする適切な人材がいなければ「製造」する、あるいは世界中から調達する、はたまた人材ビジネスが未成熟の市場で活動するなど、領域を絞って社会に新しい解決策を示した「破壊的な」人材サービス会社であり、三社三様の視点が興味深かった。

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