UTOPIES Y世代のニーズに適合した理想郷の人事施策とは

2024年07月24日

ユトピー マリー・ビュル氏

従業員は法定5週間以外にも、さまざまな特別有休制度を利用できます。不可能と思われる次元での取り組みも、UTOPIESでは決してユートピア(理想郷)ではないのです

UTOPIES(※1)はフランスを代表するCSR(企業の社会的責任)系のコンサルタント会社で、パリを拠点としている。創業から30年を迎え、約60名のコンサルタントが在籍している。同社は経済的・社会的にポジティブな影響を与えるために、経営者の意識向上に注目し、CSRと持続可能な開発戦略を事業戦略に統合している。フランス国内だけでなく、海外とのプロジェクトも抱え、多くの大企業、中小企業、自治体と連携して活動している。

2014年には、フランス企業として初めて「B Corp(※2)」認証ラベルを取得し、過去2年間では従業員50人未満の企業を対象とした「働きがいのある会社」や「女性のための働きがいのある会社」でもランキングのトップ3に入るなど、注目されている。さらに、従業員のワーク・ライフ・バランスを改善するために革新的な休暇制度を導入し、ANDRH(フランス全国人事協会)のケア賞を受賞している。なぜこれほどまでに従業員の福利厚生にこだわるのだろうか。人事開発担当のマリー・ビュル氏にその真意についてお話を伺った。

年間労働日数制でさらにフレキシビリティが向上

マリー・ビュル氏

1993年にエリザベット・ラビル氏がUTOPIESを設立した際、顧客企業に対して自身を「実験台・モデル」として福利厚生や働き方の改革に取り組み、労働市場の向上を試みました。以降、新しい働き方の導入に注力してきました。現在、従業員60人中、全員がCDI(正規雇用契約)で雇用され、管理職のステータスを持っています。

UTOPIESでは、経験に関係なく全員をCDIで雇用し、かつ管理職のステータスを与えています。これ自体が、従業員の福利厚生の一部とみなされています。従業員の平均年齢は34歳で、80%が転職志向の高いY世代で構成されているため、彼らが望む働き方を理解し、リテンション率を向上させることが事業発展の鍵となります。Y世代は規則で縛られることを嫌う傾向があり、労働環境に対する要望が高いのです。

労働時間は、コンサルタントは週平均37.5時間に定められていますが、シニア・コンサルタント、マネジャー、ディレクターのクラスでは「年間労働日数制(forfait jours)」が適用されています。この制度は、年間の労働日数とそれに対する報酬を定める以外は、自由に働くことができます。この制度を採用したのは、責任のある役職では週の労働時間を定めるよりも、職業人としての熟成度を尊重し、自主的に判断して行動してもらうことが効果的だからです。余裕のある週は労働時間を軽減するなど、個々が責任を持ってフレキシブルに対応しています。

年20日間のワーケーションへの需要

UTOPIESでは、従業員が自主性を持って働いており、パンデミック以前からコンサルタントは週2回のテレワークが可能でした。企業合意ではなくテレワーク憲章に署名していました。2020年のパンデミック時に従業員が急増し、オフィススペースが足りなくなったため、パンデミック終了後も、引き続きフルテレワークが許容されていました。

しかし、2023年11月に同じ建物内に新しいオフィスをオープンし、オフィスを増床したことを機に、週3日の出勤ルールが導入されました。UTOPIESでは、チームワークは単なる仕事の方法ではなく、ビジネスのあらゆる側面に浸透しているコアバリューとみなされています。パンデミック中を含め、フルテレワークはチームワークの概念を崩すリスクがあったため、新たに週3日の出勤が義務付けられました。ただし、コンサルタントが顧客のオフィスなどに出向く場合はオフィス出勤と同様に扱われます。

自宅以外の第三の場所については、労災に関する規定により、事前に住所を知らせる必要があり、テレワークに適した場所であればどこからでもテレワークが可能です。また、パンデミック後に地方移住者が増えたことを受けて、UTOPIESでは地方移住後もフルテレワークで仕事を続けることができるようになりました。唯一のルールは1カ月に3日は本社への出社が必要です。パンデミック後は、受付などの出勤が必要な業務や研修生も週1回のテレワークが可能です。

週3日のテレワークに加えて、年間で計20日(4週間)のテレワークが可能です。たとえば、夏季休暇に2週間南仏に滞在する際、有給休暇に2週間のテレワークを追加するなどして「ワーケーション」として活用することができます。こうした「ワーケーション」の需要は、仕事とプライベートの両面で充実を求めるY世代に特に高まっています。


ユトピーのオフィス

法定休暇に2カ月追加した父親の育児休暇

UTOPIESの有給休暇制度は賞を受賞するほど、その寛大さと適応性が特徴的で、多くの企業のモデルケースとなっています。従業員が十分な休息を取ることで満足度が高まり、高い満足度はパフォーマンス向上につながります。ここでもワーク・ライフ・バランスの概念がコアバリューとなっています。UTOPIESでは、フランスの法定基準である年次有給休暇の5週間を大幅に上回る特別休暇を提供しています。さらに、結婚、妊娠・育児、忌引休暇などの法定休暇に加えて、ほかに類を見ない特別休暇制度が用意されています。

たとえば、RTT(※3)は、法定の5週間以外に、週の労働時間が定められているコンサルタントは年15日、年間労働日数制の管理職は年19日のRTTを取得できます。フランスの平均RTT日数は年8日ですので、UTOPIESの制度は非常に優れています。RTT取得例として、夏季休暇時期の8月に3日、それ以外の時期では最低でも月1日の取得が想定されています。

特別休暇について、親になるY世代が従業員の大半を占めるUTOPIESでは、育児休暇は特に重要視されています。法定の育児休暇以外に、給与の100%が保証された特別休暇があり、母親には2週間、父親には2カ月間の追加休暇が可能です。父親に対する2カ月追加休暇は、男女平等の観点から提供されています。母親は国が保証する3カ月の育児休暇を取得できますが、父親は28日間のみです。この「差」を埋めることが目的でした。

UTOPIESでは、特に男性の育児休暇取得を促進しています。積極的で例外的な育児休暇を提案する企業を認定するラベルの策定に参加するなどし、従業員のワーク・ライフ・バランスを改善し、親を包括的に支援する企業文化を促進するために法定休暇以上の子育て支援策を実施している企業を認定するものです。PMA(生殖補助医療)休暇については、医療機関でのアポイント4回について休暇が取得できます。女性従業員の流産・死産休暇は3日間、パートナーが流産・死産を経験した場合、男性従業員は1日取得できます。また、女性従業員がUTOPIESの社員である場合、男性従業員にも3日間の休暇が認められています。

さらに、未就園児の託児休暇は、6歳未満の子供を持つ親は子供1人につき年1日取得できます。育孫休暇も年に1日認められています。看護休暇は、14歳以下の子供1人につき、年に2日まで取得できます。生理休暇も日本の例に倣って導入されており、UTOPIESでは年に2日まで取得できます。更年期の閉経における休暇も生理休暇と同様に考慮されています。

証明書の提出が一切必要ない特別有給休暇制度

介護休暇は、障害者や高齢者、または自立できない人をサポートするために、従業員は介護休暇を1年に2日まで取得できます。サポートが必要な人は家族でなくても申請できます。たとえば、友人の医療施設への付き添いのために半日を申請することも可能です。また、終末期ケアと家族連帯休暇もあります。この休暇は期間が限定されておらず、2週間でも3週間でも必要な期間を取得できます。実際に家族の最期を見送った従業員の例があり、収入の心配をせずに大切な時を過ごせるというのはとても重要です。

クリエイティビティ休暇は、年に1日の取得が可能で、アーティスティックな活動に充てることができます。たとえば、演劇をする従業員が劇団活動で休暇を取得したことがあります。さらに、学校で教鞭活動などを行う場合は教職休暇として年に1日を取得でき、市民コミットメント休暇として献血などの活動にも年に1日取得できます。アソシエーションでのボランティア活動に充てる連帯休暇も年に2日取得できます。

これらの特別休暇は半日から申請でき、証明書の提出は一切必要ありません。労使間の信頼関係に基づいています。

最後に、サバティカル休暇があります。勤続年数が2年以上の従業員を対象に、4年毎に1回、最長で1年間の休暇を取得できます。復帰後は以前と同じ仕事に戻ることができますが、休暇期間に多くを学んだ従業員は、社内異動制度を利用して別の職種を希望することがあります。サバティカル休暇は有給ではありませんが、法定休暇、RTT、その他の有給休暇と組み合わせて取得し、補完しています。現在1年間のサバティカル休暇を取得している従業員は、海外の環境保護団体でボランティア活動を行っています。こうした活動が今後の職業人生に大きなインパクトを与えることは間違いありません。

マリー・ビュル氏

UTOPIESでは、さまざまな特別休暇の完全な取得を積極的に奨励しています。特別休暇が用意されていても、従業員が休暇申請を躊躇するようなプレッシャーを感じると意味がありません。UTOPIESはユートピア(理想郷)ではありませんが、金銭的負担が大きいと思われる次元での取り組みは、投資のリターンがあることが証明されており、双方にとってウィンウィンの関係を構築することが可能です。

UTOPIESでは、エコ通勤を推進しており、モビリティ援助が提供されています。通勤費は半額サポートされます。レンタル自転車(Vélib')は100%カバーされています。個人所有の自転車の場合は、修理代として年間50ユーロが支給されます。さらに、文化・スポーツ活動の援助として年間300ユーロまで支払われ、従業員のウェルネス向上と健康管理の観点から、週に2回の無料ヨガレッスン、オフィスで2週間に1度、指圧マッサージを受けることができます。2022年には全従業員が会社の経費負担で人間ドックを受けました。現在は新入社員に対して健康診断を含めた人間ドックの実施を検討中です。

社内調査によると、UTOPIESで働く従業員はワーク・ライフ・バランスが大幅に改善されたと感じており、十分な休息時間はストレスを軽減し、生産性と創造性を高めることが証明されています。従業員のエンゲージメントも高く、仕事へのモチベーションも高いことが特徴です。

女性の管理職登用推進の取り組みなど

UTOPIESは、女性の活躍推進を重視しています。設立者は女性であり、現在も経営陣の7人中6人が女性です。従業員も女性が50人、男性が17人と、女性が圧倒的に多い状況です。この人員構成は、スキルと経験を重視した自然な採用の結果であり女性の雇用を優先したものではありません。女性管理職の登用は、企業の姿勢を社会に示す重要な要素であり、男女間の機会均等を推進する積極的な方針を提案しています。UTOPIESはさまざまな憲章に署名し、インクルージョンと多様性を促進する取り組みに力を入れています。

また、フラットな組織構造も特徴です。従業員間のオープンなコミュニケーションが奨励され、異なる部署からの相互貢献が求められています。プロジェクトはコラボレーティブに設計され、チームの結束とイノベーションの促進、個人の成功よりも集団の成果を重視し、チームへの帰属意識を高めています。

UTOPIESでは、コラボレーティブなプロジェクトを成功に導くためのワークスペースが設計されています。オープンスペース、フレキシブルなミーティングルーム、休憩スペースは、自発的な交流やブレーンストーミングを促進するように工夫されています。リモートワークやハイブリッドワークにおいても、流動的なコミュニケーションを維持するために先進的なテクノロジーやコラボレーションツールも導入しています。

また、チームワーク力の構築に焦点を当てた研修やワークショップを多く開催しています。具体的には、チームビルディング研修として、全従業員が出席するセミナーが年に2回開催されます。チームメンバーのみのセミナーと、マネジャーとディレクター向けのセミナーも年に1回ずつ行われています。毎年9月には全従業員参加のスポーツ大会が開催されています。クリスマスパーティーは、従業員同士のクリスマスパーティーと、従業員の家族も含めたパーティーが1度ずつ行われています。1月にはエピファニーを祝うパーティーが盛大に行われ、顧客も招かれています。これらのイベントや研修は、従業員同士の連携を強化し、協力とコミュニケーションを促進しています。

(※1)現在は職業訓練に特化したコンサルタント事務所のAlternegoと合併している
(※2)社会や環境に対する高い基準を満たし、公益性の高い優良企業の認証ラベル。認証を受けた企業は、単に利益を追求するだけでなく、環境と社会的な影響を積極的に考慮に入れて運営されていることを示す。認証を取得するためには、厳格な評価プロセスを通過し、その企業の運営が総合的な社会的責任を果たすことを証明する必要がある
(※3)週35時間労働代休

取材・TEXT田中美紀(客員研究員)、村田弘美(グローバルセンター長)
PHOTO=小田光(photographer)

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