Métropole de Lyon 地方自治体として初めて、週休3日制導入へ向けた取り組み

2024年09月04日

ゼモルダ・ケリフィ氏とアンヌ=ソフィー・ペイレ=ロザ氏

週休3日制は、職員のワーク・ライフ・バランスを改善するだけでなく、環境保全の救世主にもなり得ることが期待されています
メトロポール・ド・リヨンは、フランス第2の経済圏であり、オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地方の中心に位置している。この地域は、首都のリヨン市を含む58のコミューンから成り、フランスの主要な経済的・文化的拠点となっている。

2021年時点の人口は約142万人で、面積は約534km²。ダイナミックで革新的な市政と美食の街としても有名である。2020年には、ヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)の議長が誕生し、エコロジー問題や持続可能な開発に重点を置く政策を推進している。これによりフランス第2の都市の統治に大きな変化がもたらされている。

また、メトロポール・ド・リヨンは、規模の大きい地方自治体として初めて、2023年9月に週休3日制をトライアル導入している。この取り組みは、約9600人の職員のワーク・ライフ・バランスの向上、労働生産性の改善、クオリティ・オブ・ライフの向上を目指しており、国外からも注目されている。

今回は週休3日制のトライアル導入から3カ月が経過したメトロポール・ド・リヨンを訪問し、副総裁のケリフィ氏と、担当責任者のペイレ=ロザ氏に、トライアルの現状についてお話を伺った。

環境問題と週休3日制

リヨン庁舎会議室

週休3日制は、ヨーロッパのさまざまな環境主義政党によって歴史的に支持されてきました。フランスでは主にヨーロッパ・エコロジー=緑の党(EELV)がオピニオンリーダーとなっています。週休3日制は、週の労働日数を短縮することで、労働者のワーク・ライフ・バランスを改善し、ストレスやメンタルヘルスの向上を促進するだけでなく、環境保護の観点からも多くの利点があります。

私たちの日々の通勤による二酸化炭素排出は、環境に大きな影響を与えているとされており、さまざまな調査でそのインパクトが実証されています。たとえば、2021年に発表された英国の研究によると、英国が週休3日制に移行した場合、年間二酸化炭素排出量は2025年までに1億2700万トン(21.3%)の削減につながるという結果が出ています。経済成長と消費だけでなく、持続可能な開発とウェルネスに重点を置いた経済への移行を社会に示すことで、より広範なビジョンを実現できるでしょう。

通勤に1時間以上かける職員は10%以上

リヨン駅

2020年の統一地方選挙で環境派が躍進し、緑の党は週休3日制を公約の1つとしました。リヨン市の環境派が勝利したことで、メトロポール・ド・リヨンはEELVの議長を選出しました。当初はパンデミック中であり、テレワークの普及に注力していましたが、2022年以降は、週休3日制の導入についての議論が自然な流れで浮上しました。

2021年に全職員に対して通勤時間に関するアンケート調査を実施した結果、日々の通勤に30分以上かけている職員は51%であり、1時間以上かけている職員は10%以上存在することが判明しました。また、多忙期には、週末も仕事に追われている感覚が抜けず、きちんとした休息を取れない人がいることも判明しました。特に幼い子供を持つ職員の中にはバーンアウトのケースが確認され、解決策が求められていました。

一方、パンデミック後、テレワークの利点を知った職員たちは、以前の働き方に戻ることを望みませんでした。アイスランドの週休3日制の成功例などから、週休3日制が職員にとって有効な選択肢であることが確信されました。労働時間の抜本的な短縮は、テクノロジーの進化とともに可能になっています。メトロポール・ド・リヨンは、規模の大きい地方自治体として初めて週休3日制のトライアルを実施し、職員と社会にとって重要な変革をもたらすことを目指しています。

トライアルの準備段階:4つのシナリオ

週休3日制トライアル実施のスケジュール

週休3日制トライアル実施のスケジュール

トライアル開始と参加者選定

トライアルを開始するために、まずボランティアを募りました。各部署から総勢1100人の職員が手を挙げましたが、その中から、既にパートタイマーで働く35人の職員(女性32人、男性3人)を含む300人が最終的にトライアル参加者となりました。業種別では、社会・福祉関連に従事する職員が最も多く、全体の約40%を占めています。その他の参加者は行政、会計、人事部門などです。男女比は女性が73.4%、男性が26.6%です。マネジャーは62人です。

トライアル期間と評価

トライアル期間は、2023年9月1日から2024年の夏までを予定しています。途中、スタートから6カ月後の2024年3月に一度評価を行い、トライアル終了後に本格的な評価作業を実施し、2024年9月1日に全面展開すべきかどうかを決定する予定です。

トライアル目標

トライアル開始時に、下記の4つの目標を掲げました。
  • 新しい労働組織の可能性を検証する。
  • 週休3日制導入に最も有効なシナリオを特定する。
  • サポート制度を開発し、試行錯誤と調整を行う。
  • モニタリング指標を用いてインパクトを測定し、全面導入の可能性を判断する。導入する場合はどのような方法で導入するかを分析する。

週35時間労働制

フランスでは、パートタイムで働く職員を除いて、地方自治体の職員は週35時間労働制(1日7時間、年間1607時間)を守らなければなりません。週休3日制を導入する場合、1日の労働時間を延長する以外に方法はありません。また、年間5週間の法定休暇も遵守する必要があります。以上の背景を踏まえて、下記の4つの時間配分シナリオを策定しました。

週35時間労働制4つのシナリオ

※1 母親と父親が交代で子供の面倒をみる交互養育の場合、子供の面倒をみる担当の週は32時間、担当でない週は40時間とする交互方式。
※2 週4日労働に加えて、たとえば金曜日の午前中に4時間だけ働く形。

テレワークは週2日から週1日へ

トライアル参加者は、所属する部署の職員数や業種内容などを考慮して、最適なシナリオを選択しました。たとえば、受付を管理する部署では、市民へのサービス提供を維持する必要があるため、全職員が同じタイムテーブルで就業することはできません。週休3日制を導入するにあたっては、チームワークを保持しつつ、テレワークとオフィス出勤を組み合わせることにしました。

3日目の休暇の設定は、トライアル期間中に、所属部署との話し合いを通じて事前に決定されます。急な休暇(子供の病気など)を取る場合などの例外措置は認められています。また、トライアル開始後に曜日を変更したり、トライアルを中止したりする要望にも柔軟に対応しています。ただし、マネジャーの判断により新たなトライアル参加者を受け入れることができるのは特定の場合のみです。

トライアル参加者全員に同じモニタリング指標が適用されます。さらに、部署の機能変化を詳細に分析するため、評価対象はトライアル参加者だけでなく、直属の上司や同僚も含まれます。週休3日制は、既に実施されているテレワークと同様、職員の職業的成熟度に基づいて実施されています。具体的な出社・退社時間の細かな管理ではなく、実績に基づいて評価されるべきだと考えています。

トライアル実施から3カ月経過した現況

ゼモルダ・ケリフィ氏

トライアル参加者が最も多く選択したシナリオは、シナリオ2(日々の労働時間が9時間、週36時間)で、300人中173人が選びました。次に多いのは、シナリオ3の週4日と週5日勤務を交互で行うパターンで、100人(33.7%)が選択しています。3日目の休日に選ばれた曜日の内訳は、金曜日が192人(64.6%)、水曜日が61人(20.6%)、月曜日が39人(13.1%)です。

現在はトライアル開始から3カ月後で評価するには早いです。しかし、毎月行われるトライアル参加者と所属部署のマネジャーとの報告会では、ワーク・ライフ・バランスの改善が確実に進んでいると報告されています。1日の労働時間が7時間から9時間に延長されたことに対する懸念はありましたが、実際に不満を訴える職員はほとんどいませんでした。もちろん、受付などの現場勤務とオフィス勤務では、この2時間の差が大きいことは理解しています。

ワーク・ライフ・バランスの促進だけでなく、週休3日制は男女平等にも寄与しています。メトロポール・ド・リヨンでは、週の勤務日を減らしたり時短の曜日を設けたりしてフルタイムの80%または90%で働くパートタイム職員が約1000人いますが、その大半は幼い子を持つ女性職員です。週休3日制の導入により、彼女らは減らしていた勤務日や時短の曜日を休日に割り当てることで勤務日数を維持したままフルタイム勤務に移行できるようになります。

社会福祉部門で働く女性職員の具体的な例を挙げると、彼女はもともと水曜日には働いていなかったため、雇用契約はフルタイムの80%でした。しかし、週休3日制のトライアルを通じて、1日の労働時間は延長され、引き続き水曜日の休日を保持しながら、給与は100%に引き上げられました。週休3日制は公的部門の男女平等への取り組みに貢献していることが実証されています。

また、公共部門でも生産性について話すことはタブーではないと考えています。週休3日制の導入により、職員は余暇を充実させ、適切な休息を取ることができ、その結果、生産性の向上が予想されています。さらに、労働時間の延長により、窓口サービスの受付時間の延長が検討されており、リヨン都市圏の住民にとってもサービス向上が期待されています。

取材・TEXT田中美紀(客員研究員)、村田弘美(グローバルセンター長)
PHOTO=小田光(photographer)

関連する記事