OffiShall ハイブリッドワーク時代における、スマートワークの最前線とは

2024年09月18日

オドレイ・バルビエ=リトヴァック氏

Offishallのプラットフォームは、ニューノーマル時代のデメリットを逆手に取り、革新的なプロジェクトを遂行する企業の『スマートワーク』を、シンプルな方法で支援しています

Offishallは2020年に設立されたパリを拠点とするスタートアップである。チームコラボレーションとリモートワークの最適化を目的にしたプラットフォームを提供している。オンラインでのコミュニケーションから、物理的なリソース(会議室、ワークスペースなど)のリアルタイム管理まで、Offishallは多岐にわたる機能を提供している。

パンデミックの影響で急速に広まったテレワークと、その後のハイブリッドワークは新しい働き方のスタンダードとなった。ニューノーマル時代には、オフィスの形態も大きく変化している。従業員はオフィス以外でも、自宅、コワーキングスペース、クライアントのオフィス、出張先、カフェなどで仕事をする選択肢が増えた。企業は、分散したチームのコラボレーションを円滑に進めるために、業務の効率化などの新たな課題に対応する必要が出てきた。

Offishallはパリ9区にあったオフィスを完全に閉鎖し、全社員がフルリモートでチームコラボレーションを行うというチャレンジをしている。ニューノーマル時代をリードする女性起業家で、Offishallの創業者でもあるバルビエ=リトヴァック氏に、Offishallの設立背景、革新的な機能、物理的なオフィスがない状況での経営における工夫や苦労についてお話を伺った。

女性起業家が変えるフランスのテック市場

オドレイ・バルビエ=リトヴァック氏

Offishallを設立する前、私はコワーキングスペースのWeWorkでフランスと南ヨーロッパを担当するゼネラル・マネジャーとして働いていました。仕事柄、毎週のように出張で世界中を飛び回っていました。しかし、2020年にパンデミックが発生し、私を含む社員全員がフルリモートワークを余儀なくされました。従来のオフィス環境では、上司が部下を直接指導することができましたが、リモートワークではこの直接的なコミュニケーションが欠如し、従業員の勤務状況や能力を把握し、評価することが難しくなりました。その結果、これまでとは異なる形のリーダーシップが求められました。当時の調査によれば、管理職はチームのワークプレイス管理に週6時間以上を費やしていました。私自身も、部下の管理に大半の時間を割かれ、実務に専念する余裕がありませんでした。

世界的なロックダウンは、言葉で表現できないほどの衝撃をもたらしました。今回は公衆衛生に起因するパンデミックでしたが、戦争や環境破壊による災害など、これまでどおりに仕事ができなくなる可能性は無限にあります。そのような時代だからこそ、チームコラボレーションの重要性を再認識しました。当時、Teamsなどのオンラインコラボレーションは既に普及していましたが、リモートマネジメント機能はまだ不十分でした。私はそこに需要を見極め、プラットフォームの構築に取り組みました。

2021年10月、初の資金調達ラウンドで100万ユーロを調達しました。35人の投資家のうち、6割の21人が女性投資家であることは、スタートアップの資金調達において、重要なマイルストーンです。メディアでも注目され、女性起業家に向けた勇気を与えるメッセージとなりました。

リモートマネジメントで6時間の節約

Offishallは、透明性の高い、パーソナライズされた使いやすいソリューションを提供することを目指しています。従来の管理アプリとは異なり、Offishallは「シンプル、楽しい、リーズナブル」をモットーに、絵文字やキャラクターなどの要素を活用して、ユーザーのワーク・ライフを楽しくするフレームを重視しています。

弊社はオフィスを持たないため、従業員はフランス国内のどこかでテレワークしています。リアルタイムでチームの活動状況が把握できるため、スケジューリングが簡単です。たとえば、今日の私のスケジュールを見てみましょう。午前中にクライアントとのミーティングがあったため、コワーキングスペースの会議室は「Offishall」を通じて予約し、その情報をクライアントとチームで共有します。また、今日のランチタイムは弊社のCTOと直接話すため、レストランのテーブル予約と、近隣のパーキングも「Offishall」で手配しました。現在は、東京からパリにいらしている方々からのインタビューに応じており、プラットフォーム上では、2時間は電話などの対応ができない設定になっています。15時にはオンラインで全体ミーティングが予定されていますが、このインタビューの終了時間が少し延びたことを即座に全員に共有し、開始時間を30分遅らせることができます。

「Offishall」を活用することで、チームメンバーはテレワークを行っている場所や、空いている会議室、フレックスオフィスで利用可能なデスクなどのリソースをリアルタイムで管理でき、リモート・マネジメントにかかる時間を平均6時間から数分に短縮することを可能にしました。データ分析を通じて、各業種や従業員ごとに最適化されたリモートワークを実現できます。

大手企業などでよく使われるイントラネットは便利ですが、構築に時間がかかり、また経費がかさむ重いシステムです。Offishallはアプリをダウンロードするだけで、さまざまな機能を一度に可視化できるシンプルで簡単なシステムです。具体的な機能を説明します。

基本ツール

  • 共同スペースと勤務状況の管理
  • ダッシュボード
  • イベント管理
  • マネジャーツール
  • 従業員サービス(駐車場、備品、カフェテリアなど)の作成と管理
  • オンボーディング&アカウントマネジャー用のツール

インテグレーションツール

  • ユーザープロビジョニングの自動化(Microsoft Entra、Active Directory、Google Cloud Identity、Oktaなど)
  • HR情報管理システム(HRIS)との統合(Lucca、Bodetなど)
  • メールアプリケーション(Slack、Microsoft Teams)
  • カレンダー統合(ドメイン全体または個人でGoogleカレンダーなど)

プラットフォームの利用料金は、たとえば、ユーザー数が30人までの場合、サービスが限定された無料オプションがあります。このプランは、基本ツールのみを利用でき、インテグレーションツールは利用できません。ユーザー数が30人を超える場合、2つの有料オプションがあります。月額プランは1ユーザー当たり月額2ユーロで、ユーザープロビジョニングの自動化機能以外のインテグレーションツールの利用が可能です。ユーザープロビジョニングの自動化機能を備えたフルプランの料金は、ケースバイケースで算出されています。顧客には、流通、食品、リテール、保険、金融などさまざまな業種の企業が名を連ねています。

未来の働き方に適合した、フランス初の保険「Offishall Care」をローンチ

オドレイ・バルビエ=リトヴァック氏

2023年1月、Offishallは保険会社のアリアンツと共同で、フランス初のサービスとなるリモートワーク専用の保険「Offishall Care」をローンチしました。背景には、テレワークの増加に伴い、毎年1100万件のテレワーク中の家庭内事故が発生しているという現状があります。テレワーク中のリスクは、オフィスで働く従業員と同様にカバーされるべきだと、従業員側からの要求の高まりに応えたものでした。

オフィスは厳格な規定を守り、労災対応を行っていますが、自宅でのテレワークは労働のために設計されていないため、一概に適用できるルールは存在しません。たとえば、あるテレワーカーが18時に仕事を終え、18時01分に心臓発作を起こした場合では、これまでは、18時以降は通常の労働時間外であり、「業務遂行性」を満たさないため、労災とは認められませんでした。しかし、テレワーカーが普段から時間にとらわれずフレキシブルに働いている場合、18時01分も労働時間内として考慮されるべきです。未来の働き方とは、時間に縛られずに働けることも意味します。

Offishall Careはテレワークによって生じる事故の法的なギャップを埋めることを目的として誕生しました。もし事故が通常のテレワーク時間帯に起きた場合も、その原因や、細かな事情を申告する必要がなく、労災として認定されるべきだと考えました。リモートワーク中の従業員が、自宅、休暇中、第三の場所、コワーキングスペース、公共交通機関、公共の場所など、どこにいても、何をしていても、リモートワーク中に発生する事故をカバーします。

また、テレワーク中に自宅で子供が怪我をしたため、翌日会社を休む必要がある場合も同様に補償対象になります。

Offishall Careはパッケージになっており、テレワーク中の事故の補償だけでなく、テレワークによる心理的な問題へのサポート、栄養カウンセリングとスポーツコーチ、15歳未満の子供の託児サービスなども含まれています。費用は被保険者1人当たり月額2.50ユーロで、身体的傷害の補償は被害者1人につき最高100万ユーロです。さらに、収入の損失や在宅介護スタッフ、特殊な医療輸送が必要な場合もカバーされます。

オフィス完全撤廃から考える、オフィスの意味とは

オドレイ・バルビエ=リトヴァック氏

Offishallではオフィスを撤廃し、従業員はフルテレワークを行っています。この決定は、パンデミック後に多くの従業員から挙がった、パリ以外の都市や国で働きたいという希望を叶えるためでした。また、コスト削減の観点からも固定オフィスの撤廃を決定しました。しかし、固定オフィスを撤去してしばらくすると、特に国外で働く従業員たちから、「やっぱりオフィスが欲しい」という声が上がりました。彼らは同僚と集まる場所が重要であり、グループとしての共生感を感じる必要があると考えていたのです。オフィスは企業の物理的なシンボルであり、企業文化、価値観、ブランドイメージを体現し、従業員の帰属意識を高める空間となっています。

オンラインショッピングの発展にもかかわらず、路面店はなくならず、むしろ需要は増えています。客はオンラインでは得られない体験を求めて路面店に足を運びます。香水の香りを嗅いでみたり、洋服の素材を手で触れてみたり。試着をするだけでなく、ブランドの世界観を目で見て肌で感じるためにも、路面店は重要です。ブランド側もこうした需要に応えるため、試食や商品のコスメを使ったメイクのサービスなど、新たなサービスを提供しています。要するに、ユーザーエクスペリエンスに対する基準が変化しているのです。オフィスも同様に、チームコラボレーションやチームビルディングのために重要な場所となっています。

Offishallでは従業員の要望を考慮し、チームビルディングのために年に5回、全従業員を集めてセミナーを開催しています。場所はフランスですが、都度異なる場所で行われています。セミナーは2日間にわたり、仕事よりも一緒に過ごす時間に焦点を当てています。料理を作ったり、スポーツをしたりしながら、チームの一体感を高めています。セミナーの開催日は、地方に住むシングルパパで、幼い子供2人を両親の手助けもなく1人で育てている従業員が、スケジュールを調整しやすいように配慮されています。このように、オフィスを持たない企業でも定期的に集まり、一緒に時間を過ごすことは重要です。

※所属は取材当時のものです

取材・TEXT田中美紀(客員研究員)、村田弘美(グローバルセンター長)
PHOTO=小田光(photographer)

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