EDF 革新的スマートオフィス「Smart Side」、未来の働き方とオフィス設計とは
私たちは低炭素電力を生産する世界一の企業として、エネルギー効率が高く、デジタル技術を駆使した未来に誇れるスマートオフィスの構築を目指しています。企業は従業員のウェルビーイングに注力する必要があります
1946年に設立されたEDFは、2022年の連結売上高が1435億ユーロであり、全世界で17万人の従業員を擁する、フランスを代表する企業の1つとされている。国内外に4030万の顧客を抱え、低炭素電力を生産する世界一の企業としてその地位を確立し、国際的な事業展開を進めている。2023年には、マクロン政権の低炭素電力推進政策の一環として、政府が株式の100%を取得したことで、事実上の再国有化がなされているが、企業運営は以前と変わらないままである。
EDFは低炭素エネルギーの世界的リーダーとして、最先端技術の研究開発に注力し、革新的なソリューションとサービスを通じて、カーボンニュートラルなエネルギーの未来を築くための努力を続けている。2019年にはキャンパスタイプのスマートオフィス「Smart Side」をオープンし、従業員のウェルビーイングの向上とコラボレーティブなプロジェクトの遂行を軸に、フレキシブルで快適なワークスペースを従業員に提供している。
今回は「Smart Side」を訪問し、EDFの未来のオフィスを構想するワークプレイスのリーダーとして活躍するエルナンデス氏とデュベルネ氏に、EDFの「Future of Work(未来の仕事)」と「Future of Workplace(未来のワークプレイス)」に関するお話を伺った。EDFがイノベーションの最前線にあり続けるためには、どのように労働環境を適応させているのか、スマートオフィスの革新的な取り組みに注目したい。
EDFのスマートオフィス「Smart Side」の概要
パリ市、クリシー市、サン・トゥアン市の3つの市が接する地点に新設されたEDFのスマートオフィス「Smart Side」は2019年に完成しました。このオフィスはエネルギーコスト削減と革新的なワークスペースデザインを特徴としており、注目を浴びています。これまでパリ近郊に点在していたオフィスを1カ所に統合することで、チームコラボレーションの効率化を図っています。
この4万㎡のオフィススペースには、グループの5つの部門が集結し、約2300人の従業員が働いています。キャンパスタイプの建物は、多様なサイズのスペースを提供しており「光」「エネルギー」「持続可能性」「コラボレーション」に重点を置いた、先進的な職場環境を実現しています。
オフィススペースは、中央に設けられた緑豊かな中庭を囲む形で構成されており、ガラスを多用したウォークスルーロビーの設置により、透明性を高めています。照明は最低限度に抑えられているものの、曇りの日でも明るさを感じることができます。環境配慮型の「Smart Side」は「HQE Excellent」と「BREEAM Excellent」のラベル認定を受けています。
パンデミック後はハイブリッドワークが一般的となり、従来の個人デスクは徐々に廃止されました。従業員1人当たりのオフィス面積が縮小され、デスク周りもシンプルになっています。現在のオフィススペースでは、デスクエリアとコラボレーティブスペースの比率が4対6で、チームワークを重視する作業に適した環境を提供しています。インテリアも快適な素材を選択して差別化を図っています。
紙類などのリサイクルを徹底するため、個人のゴミ箱は撤去され、各階にゴミ収集スペースが設置されました。これにより、ゴミの仕分けが簡単に行えるようになり、オフィスコストの削減を可能にしました。エネルギー消費については、エネルギー効率の高い建物であるため、空調は冬季が最低で19度、夏季が最高で26度に設定されていますが、実際にとても快適に過ごすことができています。照明についても、できる限りエネルギーを節約するため、中央管理システムによって、従業員のプレゼンスが少ないスペースでは最低限の光量に調節されています。各スペースは感知センサーによって使用状況が把握され、利用状況の可視化に活用されています。こうしたデータは後に集計され、オフィススペースの最適化に役立てられています。
目的別に構成されたオフィススペース
「Smart Side」のオフィススペースをデザインする際、ユーザーエクスペリエンスに関する効率性とバランスを考慮することが最も重要なタスクでした。理想的なオフィススペースを作り上げるために、ユーザーの好みを慎重に調査しました。ノマド的な傾向を持つ従業員の数や、定着型を好む従業員の数などを把握した後、数人の従業員のプロトタイプを定義し、彼らの行動を分析してスペースデザインに反映させました。
6階建てのオフィスには、オープンオフィス、サイズの異なるミーティングルーム、プロジェクトエリアなど、従業員の活動に合わせたフレキシブルなコラボレーションゾーンが設けられています。明るいパステルカラーで組み合わされた多様なスペースがオープンエリアに広がっています。
従業員に人気のある部屋は「バブル(泡)ルーム」で、3〜4人で作業するための比較的小さなスペースです。完全防音なので、活発なディスカッションが繰り広げられています。「隠れ家」と呼ばれる個人用の小さな作業スペースは、誰にも邪魔されずに集中したいときや、オープンエリアで他人の目に晒されたくない場合に利用されています。
各スペースは、騒音レベルで色分けされており、青は静かな「サイレントスペース」を示しています。一方、オレンジは「コラボレーティブスペース」であり、音が許容されているエリアです。従業員はその日の作業や気分に応じてスペースを移動します。ワークスペースに対する従業員の要望はますます複雑化しており、インテリアの供給先も、CSR、持続可能な開発、安全性などを重視するサプライヤーを選定する必要がありました。
コラボレーションと連携を重視したエスプリは、レストランやカフェテリアのデザインにも反映されています。従業員同士の交流やつながりを促進する設計をもとに、大きな中庭を囲むように作られており、交流を育むためのさまざまな工夫が施されています。たとえば、ケータリングエリアのレイアウトは、流動的でダイナミックなコミュニティを生み出せるように工夫されています。また、これらのスペースでも「光」が中心的な役割を果たしており、さまざまなグリーンがデザインに組み込まれています。さらに、中庭を見渡せるパティオでは、天気の良い日に食事や休憩を楽しむことができます。
ワークスペースと働き方の未来予想図とは
多くのワークプレイスのリーダーたちも、未来のオフィスの姿について常に考えています。しかし、私たちが最近経験したパンデミックのような出来事を予測することは不可能です。現代は不確実で急速に変化する時代であり、仕事とオフィスの未来を想像することはますます難しくなっています。
ただし、現時点で言えることは、働き方が柔軟になり、個人の作業が自動化される一方で、最新のテクノロジーを活用したコラボレーション作業が増えるでしょう。企業は従業員のウェルビーイングに注力する必要があります。また、サイバーセキュリティの問題は今後のオフィスデザインにも影響を与えるでしょう。
公衆衛生危機や気象災害など不安要素が多い時代に、人々がどのような働き方を望むのかを予測することは難しいです。テレワークがさらに進んでオフィスが完全に廃止される可能性もあれば、テレワークが浸透しきって今度は従業員がフルオフィス出勤を望むようになる可能性もあります。
遠隔地でのコラボレーションもツールの進歩により容易になっています。しかし、対面作業に勝るものはありません。チームの結束を強化し、アイデアの迅速な交換やクリエイティブな提案を促進するためには対面での作業が非常に有効です。フィードバックの即時性や、言葉では伝えられない非言語的コミュニケーションの利点もあります。EDFでは地方に移住する従業員も増えていますが、フルテレワークではなく、定期的にオフィス出勤しています。
産業セクターにおける管理職のジレンマ
EDFでは、1万7000人以上の管理職が、従来の週35時間労働制の例外的措置である「年間労働日数制(forfait jours)」を適用しており、年間217の労働日が規定されています。この制度により、1週間の労働時間ではなく、年間の労働日数に応じて給与が定められています。また、EDFでは現在週3日のテレワークが可能です。
週休3日制についても議論はありますが、テレワークと週休3日制を同時に導入するのは難しいと考えています。イノベーションを促進し、企業文化を保持するためには、チームコラボレーションが重要であり、フィジカル的な集まりが必須です。もしオフィス勤務を4日にするなら、週休3日制を導入することも考慮できるかもしれません。
私のチームでは、テレワークでできる作業と、集まって行う作業を事前に決めています。火曜日と金曜日には合同ミーティングを開催し、どちらかの日には必ずチーム全員が集まるようにしています。ほかのチームでは異なる組織構造があるかもしれませんが、全員集合日については民主的に決定しています。統計的には火曜日と木曜日にオフィス出勤が最も多くなっています。
一方で、発電所などで働く現場の職員はテレワークができません。また、現場の職員は規定が多いため、働き方がフレキシビリティに欠けることもあります。
EDFは国有企業で伝統的な企業とされています。テレワークの導入により、リモート・マネジメントの課題が浮上しています。リモートワーク環境で部下を管理するためには、特定のスキルが求められており、リーダーシップの適応が必要です。オープンオフィスで、コラボレーションに重点を置いた「Smart Side」に移転した際、以前の個人オフィスからの変化を受け入れることが難しかった管理職もいましたが、マイノリティの意見に耳を傾けることはとても大切です。
取材・TEXT=田中美紀(客員研究員)、村田弘美(グローバルセンター長)
PHOTO=小田光(photographer)