働く人の健康を考える

2024年10月23日

健康を守るとは

人生の中で多くの時間を占めることになる「働く」という営みにおいて、心身の健康を確保すること、そして確保しながら働くことは、その基盤となるものである。『健康は、全ての働く人にとって共通して大切であり、どのような働き方をするにしても、第一に考えられるべきこと』という考え方には、誰にも異論はないであろう。

一方で、働くという営みは、否応なく、世の中の変化、固く言えば経済社会の変化に影響を受けて変遷していく。産業における就業者の構成(2023年の第三次産業の就業者が約74%)(※1)や、いわゆる正規・非正規労働者の構成(2023年の非正規雇用労働者の割合が約37%)(※2)の移り変わりをみても、そのことは明らかである。

こうした働くという営みが流転していく中で、働く人を守る手段としては、職場でのリスク管理と共に、

『健康診断を受けて、しっかり健康管理をして、健康を守る』

ことが基本に据えられ、長年のこの取り組みの徹底が、働く人の健康を守るうえで一定の成果を得てきたと言える。

「働く」をめぐって起こっていること

働く人の絶対数の減少、働く人の求める働き方の多様化、働くことへの意識の変化、働く現場でのデジタル技術の導入・拡充など、これまでも言われてはいたが、コロナ禍を経てこうした動きが働く人にも、社会にも強く認識されてきている。

2019年の働き方改革から5年が経過し、個人をベースにした労働時間の上限規制が全面施行に至っているが、この間にも、職場という「場所」にいかない働き方や、複数の仕事を掛け持ちして働くことが許容されるなど、人の「働く」をめぐっては沢山の動きが出てきている。

こうした変化と多様化の中で、働く人の健康への意識は、職種等によって差異はあるが、全体として自身の健康確保は自分で行っていくべきではないかという意識が強まっている(図1参照)。また、企業においても、労働供給が制約される中、人材の採用と定着のための、健康への対応を含めた、各企業独自の働き方改革が必要不可欠となっている。

働き方や働くことへの意識の多様化が進み、これまでのように「平均的な労働者像」をベースにして、一律の健康確保手段を講じていくことが万能ではなくなっており、健康を守りながら働いていくためには、企業と働く人個人の対話・協力がより一層求められる状況になってきていると言えよう。

図1 今後の健康確保の主体者

今後の健康確保の主体者の図出典:厚生労働省 新しい時代の働き方に関する研究会 労働者の働き方・ニーズに関する調査(令和5年6月)より

専門家への素朴な質問を投げかける研究会

リクルートワークス研究所では、こうした変化と多様化の中で、これまでと同様の考え方・手法で健康確保が図られていくべきなのか、そしてどうしたら働く人が安心して働くことができるのかなど、一般的で素朴な疑問に対する処方箋を得るべく、学識専門家等から構成される、『「新時代の多様な個人を起点とした健康確保」に係る研究会』(シン・健康研究会、図2参照)を6月に設置した。

第1回のシン・健康研究会においては、委員に対し7つの質問(図3参照)を投げかけ、これらに対する考えや思いを開陳いただきながら、

・    健康や働くことの意味
・    個人と組織のマッチングや予防の重要性
・    産業医の役割や保健師、コメディカルの活用
・    健康情報の管理や企業の責任範囲

について、活発な議論が展開されたところである。

図2 シン・健康研究会の概要
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図3 シン・健康研究会「Seven Questions」
シン・健康研究会7つの質問の図

これからの探求

シン・健康研究会は、第1回の開催以降、既に5回開催され、9月にはこれまでの議論をまとめた中間整理がなされており、次回の本コラムでご紹介する予定である。また、年末の取りまとめに向けて探求を続けていく中で、働く人の健康を真ん中において活躍する、有識者・専門家との議論についても、掲載していく予定である。

本研究会では、人間は画一・単純ではない生き物であることを基本に、予測しがたい未来図を想像し、制度の在り方を更地からみた絵図を描き、働く人の健康について探求していきたい。

(※1)厚生労働省雇用政策研究会資料によると、2023年の第三次産業の就業者の占める割合は、73.7%となっている(第一次、第二次及び第三次産業の就業者の合計に占める割合)。
(※2)厚生労働省「『非正規雇用』の現状と課題」によれば、2023年の非正規雇用労働者の割合は、37.1%となっている(正規雇用労働者と非正規雇用労働者の合計に占める割合)。

松原 哲也

1996年労働省(現厚生労働省)入省後、労働条件、働き方、雇用分野を中心に、各部署政策立案を担当。
愛媛県庁、在英国日本国大使館、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部などの勤務経験を経て、職業安定局で労働市場政策、労働基準局で労働条件政策を統括。
2023年10月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。
専門分野は、労働市場、労働条件、人事管理など、HR分野全般

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