
仕事の時間が増えると何が起こるか――データで見る生活者×労働者の時代①
2024年の日本の就業者数は過去最高を更新、6,781万人となった(※1)。人口減少が始まって15年以上経つが、労働需給ギャップの拡大による慢性的な働き手不足がその背景にあることは言うまでもない。結果、性別・年齢を問わず労働参加率が上がっていくことで、人はたくさんの役割を同時に担うことになる。「生活する人・消費する人の多くが同時に働く人でもある」社会になっていくことは、どんな変化を生むのだろうか。この問題意識から実施された定量調査を分析し、現状把握と課題点の抽出を行う。
役割の多重化
生活者と労働者の両面を持つ現代の社会人を捉えるために、私たちリクルートワークス研究所は「生活と仕事の調査2025」(※2)(以下、本調査)を実施した。その結果から、多くの人が「生活も仕事も」となっていくこれからの社会のポイントを明らかにしていこう。
まず、本調査の記述統計量を整理しておく(図表1)。性別・年齢階級・就業状態で人口動態割り付けを実施のうえ、回答のロジックチェックを実施した結果、サンプルサイズは4,268である。居住地および最終学歴も表記した。図表2には就業者のみの記述統計量として就業・雇用形態や在職企業規模を示した。
図表1 記述統計量(%)
まず、本調査の記述統計量を整理しておく(図表1)。性別・年齢階級・就業状態で人口動態割り付けを実施のうえ、回答のロジックチェックを実施した結果、サンプルサイズは4,268である。居住地および最終学歴も表記した。図表2には就業者のみの記述統計量として就業・雇用形態や在職企業規模を示した。
図表1 記述統計量(%)

図表2 記述統計量(就業者)(%)

注:就業者のサンプルサイズは3,033。ただし、「雇用形態」(被雇用者)では2,669である。週労働時間については一日の仕事時間が30分未満の者と16時間以上の者を異常値として除外(概ね上下0.5%の出現率)
本調査を分析していく。まず、普段どんなことをしているか(生活の中での役割)について聞いた。本業・副業の仕事や、家事・育児・介護、町内会や自治会などの地域コミュニティ、趣味や娯楽などに関するグループへの参画などについて聞いている(図表3)。全体の結果としては、最も多いのが、「賃金を伴う仕事(主な仕事)」および「日常的な家事」でともに60.5%、次にぐっと割合が下がって「日常的な育児」11.8%、「趣味や娯楽に関わる団体・グループの運営・維持に関わる活動」10.1%が高い。日本における二大役割は就業と家事であることがわかる。なお、役割が0個という回答者は全体の5.0%、1個が37.8%、2個が30.1%、3個以上は27.2%であった。
多くの人が生活の中で何かしらの役割を持っていたが、二つ以上持つ人の割合について、性別・年代別で整理したのが図表4である。男性(49.7%)より女性(64.4%)が高いこと、30代(65.1%)・40代(65.8%)が高いことなど傾向がみられるが、どの性別・年代でも半数近く、またはそれ以上の人々が生活の中で仕事と家庭、家庭と地域、地域と趣味など二つ以上の役割を持っている。
なお、この仕事と家庭という二大役割のうちの「仕事」に注目した場合に、労働時間が長くなっていくと、生活における役割の数が減少していく傾向がみられた(図表5)。24時間という時間をどう使うのかという点において、仕事とほかの役割とのトレードオフ関係が見て取れる。
図表3 自身の普段の役割(複数回答・%)
本調査を分析していく。まず、普段どんなことをしているか(生活の中での役割)について聞いた。本業・副業の仕事や、家事・育児・介護、町内会や自治会などの地域コミュニティ、趣味や娯楽などに関するグループへの参画などについて聞いている(図表3)。全体の結果としては、最も多いのが、「賃金を伴う仕事(主な仕事)」および「日常的な家事」でともに60.5%、次にぐっと割合が下がって「日常的な育児」11.8%、「趣味や娯楽に関わる団体・グループの運営・維持に関わる活動」10.1%が高い。日本における二大役割は就業と家事であることがわかる。なお、役割が0個という回答者は全体の5.0%、1個が37.8%、2個が30.1%、3個以上は27.2%であった。
多くの人が生活の中で何かしらの役割を持っていたが、二つ以上持つ人の割合について、性別・年代別で整理したのが図表4である。男性(49.7%)より女性(64.4%)が高いこと、30代(65.1%)・40代(65.8%)が高いことなど傾向がみられるが、どの性別・年代でも半数近く、またはそれ以上の人々が生活の中で仕事と家庭、家庭と地域、地域と趣味など二つ以上の役割を持っている。
なお、この仕事と家庭という二大役割のうちの「仕事」に注目した場合に、労働時間が長くなっていくと、生活における役割の数が減少していく傾向がみられた(図表5)。24時間という時間をどう使うのかという点において、仕事とほかの役割とのトレードオフ関係が見て取れる。
図表3 自身の普段の役割(複数回答・%)

図表4 生活の中での役割を二つ以上持つ人の割合

注:就業者で役割が「0」という回答者を除外している
図表5 週労働時間と役割の数
図表5 週労働時間と役割の数

注:就業者に対する分析
仕事の時間が増えると何が起こるか
性別・年齢問わず、いろいろな役割を同時に担う人が多数派となっている。冒頭で触れたとおり、労働参加率の上昇によって日本社会においては仕事をするという役割を担う人が特に増えている。そこで、仕事をする時間が増えるとその代わりとしてどんな時間が減っているのか確認しておこう。
本調査においては一日の生活時間について詳細な回答を得ている。結果の全体像を図表6に示す。各種調査でも明らかになっているとおり、就業者かどうかを問わず、女性の「家事、育児、介護」時間は男性よりも顕著に長く、「仕事」においてはその逆である。また、働いていない日の「自由時間」は女性が短く、その分が「家事、育児、介護」時間に充てられている。
図表6 一日の時間の使い方(時間)
図表6 一日の時間の使い方(時間)

注:調査では○時間○分という形式で「働いている日」と「働いていない日」に分けて平均的な時間の使い方について回答を得ている。分は30分単位で聞いた
近年、女性の正規雇用者が継続的に増加する状況(※4)が顕著になっている。労働供給制約のなか、パートタイムで働く人により長い時間働いてもらうなど、短時間就業者の仕事の時間が増えていく可能性が示唆される。こうした可能性を踏まえて、図表7に仕事時間が1時間(60分)増えた際に、ほかの時間がどれだけ減っているかを分析した。
近年、女性の正規雇用者が継続的に増加する状況(※4)が顕著になっている。労働供給制約のなか、パートタイムで働く人により長い時間働いてもらうなど、短時間就業者の仕事の時間が増えていく可能性が示唆される。こうした可能性を踏まえて、図表7に仕事時間が1時間(60分)増えた際に、ほかの時間がどれだけ減っているかを分析した。
週労働時間が20時間未満から40時間未満(パートタイム就業からフルタイム就業を想定)では、「自由時間」が34.2分減少し、続いて「家事、育児、介護」の時間が28.8分減少している。また、併せて週労働時間が40時間から50時間未満(フルタイムワーカーが残業をより多くした場合を想定)になった場合を分析したが、こちらも「自由時間」が41.1分減少、「家事、育児、介護」の時間が10.8分減っていた。他方で、「睡眠」や「通勤」の時間は、仕事の時間の長短とはあまり関係がなかった。
もちろん、性別での違いが大きい。男性では仕事時間の長短は「家事、育児、介護」の時間の長短にほとんど影響していない(例えば、男性正規社員は週労働時間40時間水準で一日1.59時間、50時間水準で一日1.70時間。女性では同40時間水準で一日2.80時間、50時間水準で一日1.80時間)。
このため、女性に限定した分析結果も示しておく(図表8)。20時間未満から40時間水準へと週労働時間が増加した場合には、60分の仕事時間の増加に対して、「自由時間」が33.5分減少、「家事、育児、介護」が30.0分減少している。女性が1時間多く働くことは、それだけ生活上の支援ニーズが高まることと直結しているのだ。
図表7 仕事時間が1時間増えると、何の時間がどれだけ減るか(分)

注:週労働時間について、20時間未満~40時間未満、40時間~50時間未満の回答者を比較した
図表8 仕事時間が1時間増えると、何の時間がどれだけ減るか(分)
女性就業者において20時間未満から40時間水準へと週労働時間が増加した場合

就業率を高めることが、人の役割を増やしていく。特に、これまで短時間就業だった者の就業時間が伸びていくなかで生活上の支援需要を加速度的に高めること、それが新たな労働需要を生むことに留意しなくてはならない。
(※1)総務省「労働力調査」2024年(令和6年)平均結果
(※2)2025年1月に実施。実査は2025年1月10日~14日。サンプルサイズ4,268。調査対象は20~79歳の日本在住者。総務省「国勢調査」および「労働力調査」に基づき、性別・年代別・就業状態別に人口動態割付を実施したうえで回答を回収している
(※3) 仕事時間が30分未満の者と16時間以上の者を異常値として除外、また睡眠時間が3時間未満と13時間以上の者を異常値として除外した。概ね上下0.5%の出現率であった
(※4)総務省「労働力調査」によれば、2024年までの10年間で正規社員は264万人増加し、2003年以来21年ぶりに非正規社員の数を上回っている(2024年上半期)
執筆:古屋星斗