可処分時間が乏しいのは誰か――データで見る生活者×労働者の時代③

2025年03月17日

2024年の日本の就業者数は過去最高を更新、6,781万人となった(※1)。人口減少が始まって15年以上経つが、労働需給ギャップの拡大による慢性的な働き手不足がその背景にあることは言うまでもない。「生活する人・消費する人の多くが同時に働く人でもある」社会になっていくことは、どんな変化を生むのだろうか。定量調査を分析し、現状把握と課題点の抽出を行う。

その②」では、生活ニーズの状況と、世帯構成、特に高齢1人暮らし世帯における生活ニーズの特徴を分析し、配達、医療、そして移動の3点でニーズが高い可能性を確認した。本稿「その③」では、人の自由時間、「可処分時間」について分析する。

分析に用いる調査は、リクルートワークス研究所「生活と仕事の調査2025」(※2)(以下、本調査)である。

可処分時間の状況

本調査では働いている日と働いていない日に分けて、1日の生活時間を調査している。このうち、1日の時間から、睡眠時間、就業時間、通勤時間、そして家事・育児・介護などの時間を除いた「自由時間」の状況に注目する。労働参加が進む日本社会において、この自由時間(自ら使い方を決められる時間、“可処分時間”)が圧迫されていく傾向があることは「その①」でも分析している。本調査を用いて可処分時間の実態を整理する。なお、当然ではあるが可処分時間は就業者で顕著に短い傾向にあるため、本稿では主として就業者について分析を行う。

まずは全体概況を整理する。図表1に1日の自由時間(働いている日)について本調査回答者の状況を示した。5~6時間未満の14.8%、6~7時間未満の15.0%を頂点とする出現率となっている。3時間未満9.2%、3~4時間未満9.4%と1日の自由時間が4時間未満と短い就業者も2割近く存在していた。

また、定年年齢の存在による日本の就業実態を鑑み、60歳未満に限定して集計した結果を図表2に示す。最も出現率が高いのが6~7時間未満(15.5%)であることは変わらないが、こちらでは自由時間が短い者の割合が増えており、3時間未満11.0%、3~4時間未満10.5%であった。

図表3では60歳未満就業者の自由時間を性別で集計した。最も多いのは男性では6~7時間未満(16.7%)、女性では5~6時間未満(14.8%)である。女性は自由時間が4時間未満の短い者が多く、他方で10時間以上と長い者も多いなど、分散が大きい多様な状況にある。
 
図表1 1日の自由時間(就業者、働いている日)(%)
 図表1 1日の自由時間(就業者、働いている日)(%)の図
注:回答者のうち、「0時間」回答者を異常値として除外、14時間以上の回答者を外れ値(回答上限1.03%に該当)として除外している。このため、合計が100%にならない。また、ロジックチェックの観点で1日の仕事時間が16時間以上の者を集計対象から除外した

図表2 1日の自由時間(就業者、働いている日、60歳未満)(%)
 
図表2 1日の自由時間(就業者、働いている日、60歳未満)(%)の図
図表3 1日の自由時間(就業者、働いている日、60歳未満)(性別)(%)
図表3 1日の自由時間(就業者、働いている日、60歳未満)(性別)(%)の図

可処分時間(自由時間)が短い者の1日の生活における課題感

この働いている日の可処分時間で回答者を「4時間未満」「4~6時間未満」「6~8時間未満」「8時間以上」の4区分に分け、その生活に関するニーズを分析した。本調査では「もし、自由時間が3時間あるのであればどんなことに使いたいか」と聞いており、ここからどんな時間が足りていないと感じるのかを現在の自由時間の状況と比較し検討することができる(※3)。

結果を図表4に示した。60分自由時間が増えた場合に何に何分使いたいか、を表している。現在の可処分時間水準の長短を問わず、最も多いのは「睡眠の時間」であり、可処分時間「4時間未満」で18.6分、「8時間以上」で20.4分である。続いて「1人で休息する時間」が多い。この2項目は可処分時間水準によって差異はほとんど見られないが、他方、可処分時間水準によって大きな違いがあるのは、「家事、育児、介護の時間」と「家族や同居者、友人と団らんする時間」である。「家事、育児、介護の時間」は可処分時間水準が短いほど長く求めており、「4時間未満」で5.4分、「8時間以上」では1.6分と、3倍以上の差となっている。「家族や同居者、友人と団らんする時間」も同様の傾向があった。つまり、60歳未満の就業者において、可処分時間が短くなることは、自分や周りの人に使う時間、特に「家事、育児、介護」や「家族や同居者、友人と団らんする時間」の不十分さにつながっている。可処分時間が短くなることは「自分や周りの人への時間が足りていない」と感じる者が増加するファクターとなりうる。自身の生活のメンテナンスや、さまざまな相談などを行う時間に不足感を感じているのだ。

こうした状況は大きなリスクである。例えば、「同居する家族・親族」「同居していない家族・親族」は、差し迫った困りごとが生じた場合の最大の相談相手であることがある(図表5)。そうした生活上の差し迫った困りごとの相談先となりうる人への時間が乏しいことで、“頼り先がない”という状況を生み出しかねない(なお、1人暮らし世帯でも「同居していない家族・親族」が最大の相談相手である)。

図表4 自由時間が1時間あった場合に行いたいこと(現在の可処分時間水準別、就業者、60歳未満)(分)
図表4 自由時間が1時間あった場合に行いたいこと(現在の可処分時間水準別、就業者、60歳未満)(分)の図
図表5 “差し迫った困りごと”の相談相手(複数回答)(%)
図表5 “差し迫った困りごと”の相談相手(複数回答)(%)の図

注:「あなたが日々の生活で差し迫った困りごとがあった際に頼ることができる人や組織を全て選んでください。“日々の生活で差し迫った困りごと”とは、高熱が出て家事ができない、住宅に蜂の巣ができた、同居者が大けがをした等の状況をイメージしてください」と聞いた

可処分時間が乏しい人はどこにいるのか

次に、可処分時間が乏しい人はどういった人が多いのかを集計しておく。図表6は、働いている日の1日の可処分時間(自由時間)が4時間未満の就業者の割合である。

順に見ていこう。「性別」では女性がやや高く21.4%、男性は17.2%である。女性の家事、育児、介護時間が長いことが影響していると考えられる。「年齢階級」では40~49歳の28.0%をピークに高齢者ほど低い。これは高齢者の就業時間が短い傾向と関係しているだろう。「居住地」では大都市部がやや高く20.0%、地方部は17.9%である。大都市部のほうが通勤時間がやや長いことなどが関係している可能性がある。

「世帯構成」では世帯人員が増えるほど割合が増える。1人暮らしでは10.5%、これが4人以上では28.3%となっている。1人暮らし世帯に年齢階級別で比較的割合が低かった若年層と高齢層が多いことや、後述する育児の必要性などが関係していると考えられる。「週労働時間」では、当然ではあるが、労働時間が長いほうが可処分時間が短い者の割合が高い。ただ、週労働時間20時間から50時間未満水準に大きな差はない。20時間未満と20時間から45時間未満の間に一つ目の境界線があり、そして週労働時間が50時間を超えたところで一気に可処分時間が短い者が顕在化する二つ目の境界線がある。最後に、「15歳以下の子どもの同居有無」も大きなインパクトがあり、「なし」では13.0%の一方、「あり」では実に45.5%にのぼる。可処分時間を巡る問題の主題の一つが育児世代支援にあることは明確である。

図表6の結果を踏まえて簡略にまとめれば、可処分時間が短い割合が多いのは「女性、30-49歳、大都市部居住者で、4人以上世帯に住む、フルタイム以上で就業し、15歳以下の子どもと同居している」者である。

図表6 1日の可処分時間が4時間未満の人の割合(就業者)
図表6 1日の可処分時間が4時間未満の人の割合(就業者)の図
1日は24時間であり、これは世界の万人に平等である。しかし、自分が自由にできる可処分時間は公平ではない。可処分時間は性別や年齢階級、世帯構成、就業状況などによって大きく変化するものであり、そしてその短さは自らの生活に使える時間や周りの人のために使える時間を奪っていく。就業者数が過去最高を継続的に更新し、就業率が高まり続ける現代日本において、可処分時間を確保するための支援は生活者×労働者の時代の新たな課題なのである。

(※1)総務省「労働力調査」2024年(令和6年)平均結果
(※2)2025年1月に実施。実査は2025年1月10日~14日。サンプルサイズ4,268。調査対象は20~79歳の日本在住者。総務省「国勢調査」および「労働力調査」に基づき、性別・年代別・就業状況別に人口動態割付を実施したうえで回答を回収している
(※3)「あなたの1日に使える“自由時間”が3時間増えることをイメージしてください。あなたはその時間をどのように使いたいですか。以下のそれぞれについて時間を増やす割合で教えてください。※“自由時間”とは、仕事や家事・育児・介護、睡眠などをしていない、自分の自由に使える時間のことです」と聞いた

執筆:古屋星斗

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