「自分にないものを持っている人」との出会いが大学生活に与えた学びと彩り

2023年09月12日

学生自身が日本中から魅力的なゼミを探し、取材し、記事にして発信する学生記者プロジェクト。2022年度の第1期活動は、5本の記事が世に出るに至った。初めての試みであり、試行錯誤の連続だった一年間。その活動全般を振り返り、総括する記事を書きたいと第1期の最若手メンバーが手をあげてくれた。渾身の想いのこもった記事を、ぜひお読みいただきたい。

文:山本瑠奈(文京学院大学)

【メンバー紹介】
メンバー紹介

イラスト:矢野綾乃
※学年は2022年度のもの

ゼミナール研究会 学生記者とは?

ゼミナール研究会では、学生記者として学生自身がゼミナールを取材するという活動をしている。学生なりの視点や考え方で記事にし、発信する。学生が主体となり学び、学生が成長するゼミナールとはどういうものなのかを学んでいく場でもある。

第1期学生記者メンバーは、

「チームときめき」 ※学年は2022年度のもの

  • 文京学院大学 経営学部 2年 山本瑠奈
  • 産業能率大学 情報マネジメント学部3年 栗原未夢
  • 青山学院大学 教育人間科学部 4年 篠﨑海音
  • 早稲田大学大学院 人間科学研究科 1年 正司豪

「チームPioneerWic」※学年は2022年度のもの

  • 東京女子大学 現代教養学部 3年 佐藤千優
  • 東京女子大学 現代教養学部 3年 谷本智海
  • 湘南工科大学 工学部 3年 矢野綾乃

の計7人で構成され、活動していた。

この活動では、取材するゼミナールを自分自身で探し出す。チームごとにその基準は異なり、私も所属していた 「チームときめき」 では、ゼミナールに所属している学生自身がそのゼミナールでの学びにときめきを感じているか、そして私たちがそのゼミナールでの学びにときめきを感じたか、そんな基準でゼミナール探しを行っていた。

一方 「チームPioneerWic」 では、インスタグラムでフォロワーへ向けてアンケートを行ったり、知人から情報を集めたりして、イケてるゼミナールを探していた。
自分たちが「イケてると感じるゼミナール探し」から行う、これもこの活動の醍醐味である。

私は、文京学院大学経営学部に通い、経営学やマーケティングについて学んでいる。文京学院大学では2年次からゼミナールが始まる。「一生の財産 それはゼミナールから」というスローガンがある通り、ゼミナールの活動に力を入れていて、実際に企業と連携して研究を進めたり、全国規模の発表大会で成果発表などを行ったりしている。その中で私は馬渡一浩先生のゼミナールに所属し、ブランディングや広告戦略について学んでいる。

馬渡ゼミナールは、高校生のときに大学のパンフレットで見つけ、専攻内容や馬渡先生の経歴に興味を持ち、「ここのゼミで学びたい!馬渡ゼミに絶対入るぞ」と決めていた。
そして入学してから馬渡先生とお会いし、直接その思いを伝え、入ゼミすることができた。私の「ときめきを感じたゼミナール探し」は高校生のときにもう始まっていたのかもしれない。

馬渡先生が元々ゼミナール研究会に所属していることもあり、先生からゼミ生に向けて研究会の活動の説明があった。私自身、ゼミナールでの学習の内容が専門的かつ自由であるという点と、学生が主体的に学ぶことができるゼミナールでの学びに興味があったため、参加することを決めた。また、自分の言葉で人に何かを伝えたい。将来はそんな仕事に関わりたいという思いもあり、自分の言葉で自分の記事を書く、という活動に希望を持って参加した。

ここから1年間の学生記者の活動を振り返っていく。
学生記者の活動が始まった当初から学生記者の私たちに提示されていた、活動の最終ゴールがある。

  • ゴールその① “イケてるゼミ”を探し出そう。
  • ゴールその② “いい話”を聴き出そう。
  • ゴールその③ “伝わる記事”を創り上げよう。

この3つである。活動の前半はこれらについて学ぶ“座学”があった。活動は全てオンラインで行われ、前半の座学中心の学びと後半のグループワーク中心の学びがあった。

座学が中心の学びでは、そもそもゼミナールとはどんなものなのか、外部の方をお呼びしてお話をしていただいた。また、ゼミナールの先生からの話やゼミ生の話を聞き、メンバーそれぞれが実際に記事を書いてみる、模擬記事作成体験をした。グループワークが中心の学びでは、チームに分かれてから、チームそれぞれの構想を考える時間が設けられたほか、ディスカッションなどが行われた。

1年間の活動が一段落した2023年3月30日に、学生記者1期生とゼミナール研究会のメンバー、そして、4月から新たに活動を始める2期生が初めて対面で集まり、これまでの活動を振り返っての座談会が行われた。

座談会で1期生がインタビューを受けている様子 その1

座談会で1期生がインタビューを受けている様子 その2

座談会で1期生がインタビューを受けている様子
今だから言える「あの時本当はこう思っていた」などの「笑」撃発言が飛び出した

ゼミナール研究会メンバーの集合写真(1期生と2期生)

座談会での1期生と2期生、ゼミナール研究会メンバーの集合写真
(ポーズは山本考案のゼミナール研究会のZ!!ポーズ)

この中では、以下のことについて1期生が順に話した。

  1. 学生記者に応募したきっかけ、経緯
  2. 1年前、学生記者を始める前までを振り返って
  3. 活動の前半、「勉強の時間」・ゼミ探しの時間を振り返って
  4. チームに分かれてから
  5. 活動を経て感じたこと、得られたこと

5つの質問から、それぞれ全員が異なった理由やきっかけでゼミナール研究会に参加し、活動を通して感じていたことや考えていたことも全員異なっていたことが分かった。

実際に記事を書くことを楽しみにゼミナール研究会に入ったメンバーは、“活動の前半、「勉強の時間」・ゼミ探しの時間を振り返って”の質問に対してこう言っていた。「学校の授業とは違うものを期待していたけど、座学をしていた時間は学校の授業みたいで退屈だった!(笑)」

一方で、ゼミナール活動がないメンバーは、「ゼミナールってどんなものか分からなかったから、座学が楽しかった」という発言もあった。
また、「初めに自己紹介をし合ってお互いに相手を紹介し合うのも、グループワークが多くあったのも楽しかった!」という楽しかったエピソードも出てきた。

そんな、“ちょっと退屈な座学”や“楽しいグループワーク”、はたまた実際の取材といった“スーパー実践型の学び”を行った学生記者が書いた記事は現在までに5つ掲載されている。

Vol.1湘南工科大学XRコース

夢を仮想現実で叶える。アイディアが溢れ出す学習コミュニティの生み出し方
湘南工科大学XRコースのみなさん

左:湘南工科大学(神奈川県藤沢市)
右:谷本智海、矢野綾乃

Vol.2関西学院大学経済学部小林ゼミ

ディベートで負けない「コバゼミ」ってなんやねん!?
関西学院大学経済学部小林ゼミのみなさん

前列左から:佐藤千優、小林伸生教授、谷本智海
後列左から:作本育海さん、北奥優芽さん、和田彩希さん、家城来美さん、齋木菜桜さん、中野悠紀さん、得津克将さん

Vol.3産業能率大学高原ゼミ

世の中にLove&Peaceの輪を広げていく
産業能率大学高原ゼミのみなさん

Vol.4東京女子大学現代教養学部篠﨑ゼミ

大手出版社と共同で開発した「方言チャート」の裏側とは!?
東京女子大学現代教養学部篠﨑ゼミのみなさん

上段左から:矢野綾乃、谷本智海、小林千紘さん
下段左から:佐藤千優、野辺有桜さん

Vol.5立教大学経営学部舘野ゼミ

創造的で遊び心のある「未来のリーダー」を育てる
立教大学経営学部舘野ゼミのみなさん上段左から:李彩那さん、舘野泰一准教授、阿野苑弥さん、山本綾音さん、岩崎理子さん、鵜飼美里さん、上野由佳
下段左から:山本瑠奈、篠﨑海音、正司豪

学生記者自らゼミナールの担当教員に連絡したり、友人伝いで連絡を取ってもらったり、取材のアポイントメントから、取材の内容や進め方についても学生記者が考え提案し、行った。

他大学の人と関わる“スーパー実践型の学び”で学生記者が得られたこと

「学生記者」の活動が始まったのはコロナ禍で世間のいろいろなことが制限され、大学の授業もオンラインが主流だった頃である。大学生活をキャンパスで過ごせず、授業もオンラインで行われる。このことは私たち学生の大学生活に大きな影響を与えた。通常であれば委員会やサークルに所属し、一緒に物事に取り組む仲間ができるが、それもできなかった。同じ授業を受けている学生と雑談をし、友達ができる、なんてことも起こらない。大学に入り、せっかくいろんな人と関わることができるはずなのに、部屋に1人、先生の話をパソコンから聞き、課題をする。そんな閉ざされた大学生活を送る中で、何かに一緒に取り組む仲間、真剣な話やくだらない話をして笑い合える友達が、この「ゼミナール研究会」でできた。

この活動の面白さには、ゼミナールを取材し記事を書く、だけではないものがある。他大学の学生と関わることができるというところにもこの活動の面白さがある。普通の大学生活を送っていても、他大学の人とゼミナールを取材し記事にすることなんてない、この活動ではそんな特別なことができた。

ゼミナール研究会で学んだのは、自分にないものを持っている仲間と関わることで自分の人生をちょっと、変えることができる。それまでの自分の人生に深みが出る、ということであった。

人生にまで影響を与える運命的な出会いがあった

学生記者としてゼミナールを取材することで、ただ取材して記事にしたという過程と結果を生み出しただけではなく、メンバー自身の人生に影響を与えた。

メンバーの1人である篠﨑さんは、取材内容やそこに至るまでの過程での学びが、自分自身の大学生活を見直すきっかけ、大きな転機になったという。篠﨑さんは、ゼミナール研究会に参加する前は思い描いていたキャンパスライフと現実とのギャップに戸惑いながら学校生活を過ごしていたという。大学生活のいろいろなことに対し義務感で動いていたが、ゼミナール研究会に参加し、活動をする中で、「自分がときめきを感じたゼミナール」「ゼミ生たちがゼミナールでの学びにときめきを感じながら学習していると感じるゼミナール」を見つけた。篠﨑さんは自身が書いた記事の中で、舘野ゼミは「プレイフルに学ぶ」「遊びながらその中で学ぶ」という全員の主体性から成っていると書いている。

篠﨑さんにとって取材先の舘野ゼミとの出合いは運命的なものであったと感じている。思い描いていたキャンパスライフと現実とのギャップに戸惑いながら過ごしていたときの自分では考えられないような、学びに対して貪欲で、楽しんで学んでいる、そんなゼミナールを取材したことが、篠﨑さんに大きな影響と転機をもたらした。「自分の好きに本気になる」を学べたと言っていた。

ゼミの様子 その1
ゼミの様子 その2

ゼミナールを取材するだけではない、その中にある価値

まとめとして、この活動を通して私たちメンバーは、大きな学びとこの活動の価値を見つけることができた。コロナ禍で閉ざされた学びの環境から自分で一歩踏み出すことで自分自身に影響を与える人との出会いがあったこと。大学を飛び出して学外での活動に1人で挑戦したこと。大学も年齢も違う、それぞれ学んでいることも全く違う、そんな人たちとの出会いが自分自身の考え方に大きな影響を与えた。

そしてこの活動の価値。この活動は、学生が学生目線で他大学のゼミナールを取材し、記事にするという内容である。記事の書き方や、自分の考えを自分の言葉で人に伝わるように文章を書く力も身につけられる。だが、それだけではなく、この活動の真の意味であり価値は、人とのつながりであると私は考える。

ゼミナール研究会に参加して出会った学生記者のメンバー、社会人、取材を通して出会ったゼミナールの先生、そのゼミ生。本当に多くの人と出会った。その出会いの全てがメンバーそれぞれにいろんな形で影響し、意味のある、価値のある出会いとなっている。ゼミナール研究会には、ゼミナールを取材するだけではない価値がある、と私は考える。自分にないものを持っている人との出会いが、学生生活に大きな学びと彩りを与えた。

最後に、私自身の1年間の活動を振り返って。

私は最終的にゼミナールを取材し記事にすることはできなかった。イケてるゼミナールを探し、「ときめきを感じたゼミ」への取材を実行することができなかった。私は、専門的な分野について学生自身が楽しみながら学んでいるゼミナールを探していた。その中で、その研究領域の専門性や自分が興味を持った分野について学生自身がそれぞれ研究しているようないくつかのゼミナールにアプローチしたが、結局取材を実行することができなかった。

しかし、グループメンバー2人の取材に同行し、それぞれサポート役と書記として参加した。それぞれの取材から学んだことは、取材までの過程の準備段階の大切さ、また取材の中で“会話”を心がけることである。

取材までの過程では、そのゼミナールをよく知ることが一番重要であると感じた。そのゼミナールの専攻は何かをはじめ、どんな取り組みをしているのか、どんな形で研究をしているのか、さらに、ゼミナールの専攻と自分との接点や共通点を探すことも重要であると感じた。それが、取材の中での“会話”につながる。YESかNOで終わってしまう質問ではなく、聞きたいことを漏れなく聞き、その上でナチュラルに相手の言葉で話してもらうための会話が大切であった。

そしてこの1年間の経験は、私にとって「言葉で人に何かを伝えたい」という思いを強くするものであった。自分の言葉で人に何かを伝えたい、というこの活動に参加した理由でもあるこの気持ちがより強くなった。記事は書けなくても、活動の中で、自分の言葉で自分の考えを話したり伝えたりすることが多かった。中でも、その伝えたい相手が他大学の他学年の学生や社会人であったり、他大学の教授であったりしたため、ミーティングの中でも、自分の言葉で自分の考えを伝える力が身につけられた。

最後に、この活動を通して学んだ取材の仕方や文章を書く力はこれからの人生の力になる。そして、活動を通して出会えた人とのつながりや、得られた価値観や考え方は糧になる。学生記者の活動は、私たちの人生に大きなものをもたらした。

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