
超放任スタイルで開花する“一流”とは?【Vol.12北海学園大学経営学部 佐藤ゼミ】
本連載の最終回となるイケてるゼミ第12弾は北海道から。地元の自治体や商工会議所、企業などとの本格的なプロジェクトを展開しているにもかかわらず、ゼミ担当教員は「何も手を出していない」という。どうしたら、そのようなことが実現しうるのか。
超放任スタイルのもとで、学生はどのような成長を遂げているのか。単身で取材に乗り込んだ学生記者の渾身のレポートをお届けする。
取材・文:木村美悠(北星学園大学3年)
【Seminar Data】
教員:佐藤大輔教授
専門分野:経営学
ゼミ開設年:2002年
構成員:2年生14名、3年生13名、4年生5名(2年次から4年次まで同一のゼミで活動)
ゼミの位置づけ:選択
単位数:4単位(各年毎)
卒業研究:2単位 卒業論文・卒業制作(4年次に書くかどうかを各自選択)
今回取材にご協力いただいた、佐藤ゼミの学生の皆さん
「思った通りの成果を出すことよりも、思ってもみなかったような成果を出すことの方が大事なんじゃないかと思うことがとても多い」。人生において初志貫徹の精神で目標を持ち続けるのも大切だが、現実にはその目標を達成できないこともあるだろう。しかし、その道の途中で予期しなかった成果を得る方が価値があるかもしれない。こう語ってくれたのは、北海学園大学経営学部の佐藤大輔教授。
対面での取材の前に、事前にフォームを利用して教授と学生へアンケートを行った。結果を確認すると、志望する理由の大半が、“活動を通して実践的な経験ができ自分自身が成長できると思ったから”というものだった。さらに、実際の活動は全員が期待していた以上だったという。学生からの評価がここまで高い佐藤ゼミ。このような結果になるのはたくさんの魅力が詰まっているからに違いない。
勉強を超えて研究へ
佐藤ゼミでは「“勉強”ではなく“研究”するゼミナール」というスローガンのもと実践的で多様なマーケティング活動を行っている。先に知識や理論を頭にインプットし、必要な時にそれらをアウトプットできるように学ぶ“勉強”をするのではない。多様なプロジェクトを通じて問題にぶつかっていき、問題解決のために必要に応じて知識や理論を使いながら探求していく“研究”をしてほしいという佐藤教授の思いが、このスローガンには込められている。
佐藤ゼミは1年生の10月のゼミ選考期間を経て、11月から始まる。北海学園大学は基本的に2年生からゼミが始まるため、この時期からゼミの活動が始まるのは佐藤ゼミだけだ。1年生は、プレゼミという名前のもと、経営学のゼミのためマーケティングや、組織の管理の仕方を学んだり、企業を例に挙げてどのようにしてアイデアを企業に提案するのかという一連のプロセスを学ぶワークショップを行ったりと、研修期間として知識を集中的に蓄積する。プレゼミの段階では、単位の認定はない。ゼミ生の一人であり現在3年生の岡本さんは当時を振り返って「1年生の後期はみんなと遊びたい時期だったが、佐藤ゼミだけ活動を行っていていきなり4年生とグループを組んで発表をしないといけなくて大変だった。だけど、先輩方もとても優しかったし今思うとよい経験だった」と胸の内を教えてくれた。1年生で知識を蓄積した後、2年生から本格的に実践に入っていく。
2年生以降のゼミ活動は、本ゼミとサブゼミのふたつに分けられている。本ゼミでは、個人でプロジェクトを立ち上げる活動を行っている。本格的に立ち上げるのは3年生からであり、2年生の1年では、次年度で個人プロジェクトを立ち上げるための年間計画を考える準備期間となっている。
3年生の活動例としてはミニチュアの販売を行ったり、子ども食堂を行ったりしている。ミニチュアの販売は、活動者の地元の商工会議所や地元企業の協力を得たビジネス活動である。内容としては、ミニチュア作りのスクール運営や、企業の記念品としての一点物のミニチュアの作成・販売などを行っている。子ども食堂では、NPOの活動に参加しながら、連携して子供たち自身が自分の住む地域をより深く知り、理解するためのイベントを独自に企画、実施した。取り組み内容の詳細をまとめた記事を紹介していただいたので、ぜひご覧いただきたい。https://note.com/nana761/n/n208a33d2821b
他にも、郊外の地元の子供たちに進路の選択肢をもっと広げてあげたいという思いから、地元のシャッター街を活性化させるために市と連携して魅力発信を行うなど、学生自身でプロジェクトを立ち上げており活動が個性的で幅広い。本ゼミの背景には佐藤教授の「グループワークだけでなく、一人でプロジェクトを動かすことも大切だ」という思いが込められている。佐藤教授は本ゼミの活動内容を学生に自由に決めさせている。
サブゼミでは、グループ活動をメインとした活動を本ゼミと並行して行っている。サブゼミは、4つのプロジェクトごとに分かれており、主に2、3年生が一緒になってグループ活動をしている。現在は、“美唄市とのプロ連携ジェクト”“北海道の「食」プロジェクト”“knowth”“労金自治労プロジェクト”の4つのプロジェクトで活動している。
ゼミといえば毎週決まった曜日に授業があり、その時間の中で活動していくのが一般的だ。しかし、佐藤ゼミは、本ゼミ、サブゼミと多様なプロジェクトが動いているにもかかわらず、授業時間に集まることは1年で2、3回しかないという。この2、3回は成果発表の機会にあてられている。
なぜ、このような超放任スタイルのもとで複数の実践的なプロジェクトを並行して動かせているのだろうか。佐藤ゼミについての下調べの段階でサブゼミに関心があったため、今回の取材では“北海道の「食」プロジェクト”と“knowth”を担当している学生たちに協力をお願いした。それぞれがどのような活動をしているか詳しく紹介したい。
学生と北海道の共同作業
まず、“北海道の「食」プロジェクト”(食プロ)についてお話を伺った。近年北海道北広島市に誕生したエスコンフィールドHOKKAIDOと、市を交えて、北広島市で生産されている「赤毛米」の魅力を発信する連携プロジェクトである。
食プロで扱っている「赤毛米」が生まれたのは、今から150年前。寒冷地である北海道では米農作に苦労していたことが発端である。その中で、寒さに強い稲を作るために改良を重ねた結果、「赤毛米」という名のお米が北海道北広島市で初めて誕生した。現在北海道を代表する品種となった「ゆめぴりか」と「ななつぼし」はこの赤毛米の子孫である。しかし、「赤毛米」は今日に至るまでに1度絶滅してしまっており、現在作っている農家はたったの2軒しかない。そのような状況にあったため、北広島市では赤毛米を特産品にしようと復活させ、現在は佐藤ゼミの学生たちと商品の開発・販売を通じて認知度の向上を図り魅力を発信する取り組みが行われている。このプロジェクトは、北広島市役所から、寒地稲作が成功してから150年の節目を迎えるにあたり、北海学園大学の学生と一緒に何かできないかというお話をいただいたことがきっかけだそうだ。
食プロが発足してから3年の間に、せんべい、だんご、チップスと改良を重ねてさまざまな商品を開発し、イベントを開催して販売している。赤毛米せんべいを作った際には、この活動をアピールするため、北海学園大学のオープンキャンパスに来校した高校生にせんべいを販売した。そして、購入した高校生にアンケートを実施し、アンケートに回答するとエスコンフィールドの観戦チケットがもらえる、という仕組みにした。これにより、学校は活動の広報を行い、佐藤ゼミは調査を実施できるという、すべての関係者にメリットがある形でPR活動を展開した。
赤毛米商品の販売の様子
赤毛米チップス(右上)赤毛米団子(右下)
納得のいく就活を学生自身がサポート
続いて、“knowth”の活動についてお話を伺った。このプロジェクトは、「納得のいく就職がしたい!」という道内の就活生に道内企業の魅力の分析・発信を通じて、企業のリアルを知ってもらうことを目的とし、昨年発足したプロジェクトだ。道内の中小企業へ取材に赴き、企業の魅力を分析し、ソーシャルメディアで発信している。Instagramでは画像・動画を作成し投稿、noteでは記事の執筆を行い、その魅力を発信している。今年度は、一から自分たちで企業を調べて、アポイントを取り、取材を行っている。そのため、実際に足を運びやすい札幌市内の企業が多いそうだ。
knowthの活動の背景には、道内企業の人材不足問題がある。昨年の道内の新規大学卒業就職者のうち3人に2人は道内企業を選ぶにもかかわらず、北海道を拠点としている中小企業の人材不足はますます加速している。knowthは、情報訴求の不足が現在の状況の原因であると分析した。そのため、学生が企業の魅力を徹底的に分析し、その情報を就活生に発信することで、企業と就活生の両方にとって有益となるような改善を図るプロジェクトを立ち上げた。
企業との打ち合わせの様子
実践がもたらす経験値
下調べや事前アンケートで得た情報をもとに詳しく話を伺って、改めて私は、なぜこのような大きなプロジェクトをいくつも並行して動かすことができるのかが気になった。佐藤教授のサポートの上に成り立っているのかと思い、教授に質問をしてみたが、「サブゼミについては、何も手を出していない」という驚きの返答が返ってきた。また、学生への事前アンケートでゼミへの主体的な参加度を聞いてみたが、ほぼ全員が主体的に参加していると回答してくれていた。これらをあわせて考えてみると、佐藤ゼミの学生は自分たちで率先して動けている人が多いからなのだと気づいた。
そこで私は、ゼミ生の皆さんに「なぜ、全員が自分から主体的に動こうと思えるのか」という問いかけをしてみた。3年生の岡本さんは「先生がすごくて、やっていることとか人柄とか。やったら身になるっていうのは先生を見ててわかるし、先輩たちもそう活動してきて、いい企業に入ったり、結果を残したりしているのを見てきた。なにかやったらいい方向に向く、自分の身になると信じている」と話してくれた。同じく3年生の永井さんは「私の性格的に、自分の興味あることはすごく突き詰めるタイプで、実際いまやっている個人プロジェクトも、サブゼミのプロジェクトも自分がやりたくて始めた」と答えてくれた。学生それぞれが、ゼミでの経験が必ず自分自身の成長につながると信じていた。
また「ゼミでの活動が、就職活動に役立った経験はあるのか」という問いかけもしてみた。すると、岡本さんは「普段から自分たちの意見をまとめて、発表したりみんなで質問を出して詰め合ったりする機会が多いから、インターンの時は堂々と発表できて、詰められても怖くなかった。質問も出せるようになるし、人と話すのにも慣れるので面接でも自信を持って話すことができる」と、自分自身の経験から成長したと感じる部分を教えてくれた。また、3年生の森重さんは「今までのゼミ活動を通して、就職活動に限らず、意味や理由をもって堂々と自分の経験を語れるようになった」とゼミでの活動の経験値を聞かせてくれた。佐藤ゼミの学生たちは、学年関係なく上下の人たちや、企業で働く社会人と関わる機会がたくさんあるからこそ、人と話すことに慣れる。そういった経験を通して、自分自身がやってきた活動に自信を持っているように感じた。
佐藤教授は教授っぽくない⁉
ゼミの学生たちから「友達のお父さんみたい」と親しまれている佐藤大輔教授。そんな先生に大学教授になろうと思ったきっかけを聞いてみると、「最初から大学教授になりたいわけじゃなかった。そもそも大学教授がどんな仕事かよくわからなかったから、目指しようがなかった」と答えてくれた。ではなぜ、大学教授になったのだろうか。そして、現在も最前線で学生を育てているのにはどんな思いがあるのだろうか。
バブル時代に東京の私立大学生であった佐藤教授。「東京のおしゃれな大学生みたいなものを謳歌することが命だった(笑)」と語り、あだ名でチャラ男と呼ばれてしまうほど大学生活を満喫していた。当時はビジネスや研究に興味があり、自分自身でビジネスをやりたい、自己表現として経営者になりたいと思っていたという。しかし、大学を卒業してすぐに社会に出て活躍できる自信があるかといわれたら、何かピンと来ない。その感覚のなかで就職活動をするのはタイミングが早すぎると思い、神戸大学大学院の経営学研究科に進学した。「正直なところ、博士課程まで進んだのは大学教員の方が就職するうえで、いろんな職業よりも上だ!という認識があった風潮に流されたから」と仰っていた。「その場しのぎの結果が大学教授だった」という佐藤教授の言葉は、私にはとても驚きの回答だった。しかし、当時の風潮に流されただけで、現在も大学教授を続けられているとは到底思えない。佐藤教授の胸の内には「経営学は実践の学問であるがゆえに、実際に役に立って状況を変えていくことができる。こういった“実践に役立つ知見”というものに興味がある。そうした知見を探求するために研究をし、活動をしたい」という思いがあると聞いた。だからこそ、現在も大学教授として、学生の教育に携わっているのだと話を聞いて感じた。
そういった思いの中、学生にはどんな人材になってほしいのか尋ねた。すると、「一流になってほしい」という言葉が返ってきた。ここでの“一流”とは決して選民意識から来たものではない。佐藤教授が思う一流とは、クリエイティブなアイデアを出せて、それが人々の生活を豊かにする好循環を作れる人だ。食べたいものを自分で選んで食べるのと同じように、プロジェクトでも自分たちで考えて行動しようと思ってもらいたい。そして今後、本当に自分がやりたいことを見つけたときに突破力があってほしい。超放任環境で育てることで、自分たちで花を咲かせられる人材を社会に輩出し、活躍してもらいたいというのが佐藤教授の思いだ。
自らの選択を正解に導く
佐藤教授は「置かれたところで咲きなさい」という言葉を大切にしていると、取材を通して私に教えてくれた。この言葉は、ゼミ生たちがゼミ活動を通して、試行錯誤して与えられた使命に対してどう花を咲かせられるかがとても大切だという気持ちを込めて、学生にも伝えているそうだ。常に新しいことにチャレンジするということを人生で大切にしているという佐藤教授。インタビューの中で、教授の思う“生きる”とは「唯一自分しかできないことをやることだと思う」と教えてくれた。他者に何かしたいからやっている、というよりも自分が何者でどんな人間で、どんな人生が待っているかというのを知りたい。だからこそ、「自分らしさとか、自分だからこそできることを表現していきたいと思うし、自分ってこういう人間なんだと発見していくのが面白い」のだという。こういった思いを持つ指導者のもとで育っていく佐藤ゼミの学生だからこそ、自分から主体的に活動できる人材に花開いているのだと実感した。強い信念を持って活動することで、個々が主体的に参加するのが当たり前だという環境を作っていた。このゼミからは、新しい挑戦を繰り返していろいろな経験を得た人材が自信を持って世の中に旅立っている。私が思う「イケてるゼミ」とは、まさに佐藤ゼミのようなゼミだ。そんな佐藤ゼミの今後の活躍を見守りながら、私も一緒に成長していきたい。
【Student’s Eye】
取材の際、佐藤教授も学生の皆さんもとても温かく迎え入れてくれて、楽しみながらお話を聞くことができました。私自身が、人生観として大切にしている「新しい挑戦とたくさんの経験をする」ということを、佐藤ゼミでは積極的に実践しており、とても感銘を受けました。実践的な経験を積むことで、自分自身が成長でき、自信につながるのだと確信が持てました。こういった経験は人生においての選択肢を広げるものであると、取材を通して改めて実感し、とても充実した時間を過ごすことができました。