世の中にLove&Peaceの輪を広げていく【Vol.3産業能率大学 高原ゼミ】

2022年12月21日

イケてるゼミ第3弾はマーケティングのゼミ。高原純一教授は、マーケティング会社を設立した実績を持ち、今も様々な企業の支援をしながら教鞭をとっている。そんな高原教授は「大学教員になるつもりなんてなかった」。しかし、ある機会に学生と交流し、その楽しさから、教員ポストへの誘いを受けたのだそう。そんな高原教授とゼミ生への取材は、初対面かつオンラインであったとは思えないほどフレンドリーな雰囲気。学生と高原教授とのオンライン越しのアイコンタクトまで感じられた。そんな取材を学生記者が渾身の記事に。じっくりとお読みいただきたい。

取材・文 栗原未夢(産業能率大学3年)
取材   篠崎海音(青山学院大学4年)
   正司豪 (早稲田大学大学院1年)
   山本瑠奈(文京学院大学2年)

 

Seminar Data
ゼミ概要:マーケティング授業や複数プロジェクトの実施を中心に、学生の自主性を尊重した活動内容。縦・横のつながりが非常に強いコミュニティで教授へのリスペクトも強い。
ゼミ教員:高原純一(たかはら じゅんいち)/産業能率大学経営学部教授/マーケティング、ブランディング、CRM(顧客関係管理)
ゼミ開設年:2015年
ゼミ構成員:2・3・4年生(各学年21~25名)で総勢60~70名程度
ゼミの位置づけ:必修
単位数:前後期2単位ずつ 通年4単位/ゼミ全体で12単位
卒業研究:あり(卒業書籍発行や卒業制作実施など)

ゼミナール研究会で行った高原ゼミへのインタビューの一コマゼミナール研究会で行った高原ゼミへのインタビューの一コマ
<高原教授とゼミ生の方々、ゼミナール研究会所属の学生記者およびオブザーバー>
1段目左から:篠崎海音、山本瑠奈、栗原未夢、豊田義博
2段目左から:高原純一教授、上野由佳、佐藤博之、川村美遥さん
3段目左から:正司豪、齋藤舞雪さん、戸田涼介さん

高原ゼミってどんなところ?

もし一言で表すとすれば、Love&Peace。すばり、この言葉に集約される。
読者の方々は、この言葉が生まれた時代背景をご存じだろうか。
筆者は恥ずかしながら、この記事を書き上げるまで知らずに日常の中で使っていた。
「Love&Peace」は1960年代に起きたベトナム戦争への反対運動のスローガンとして拡がっていったといわれている。
当時の人々は戦争の無慈悲さ、残酷さを目の当たりにし、愛と平和を取り戻すべく運動に参加した。とある偉大なミュージシャンは、自身の結婚式を「失われていく平和と人権を世間に訴えるためのパフォーマンスの場」として挙行した。

高原ゼミではこの「Love&Peace」をスローガンとして掲げていることを踏まえて、ご一読いただきたい。
高原ゼミは「おもしろいをデザインする」をコンセプトに、「世界が愛に満ち、平和になること」を目標に地域や企業とつながって活動を行っているゼミである。STPや顧客インサイトといったマーケティングの技法を実践に落とし込む場を設けており、現在は11のプロジェクトが進行中だ。
キャンパスのある自由が丘や高原教授との縁が深い徳島県上勝町でのプロジェクトは毎年、形を変えながら学生たちの手によって受け継がれていく。
高原ゼミは設立8年目を迎えたが、これまでには1期生全員がペンを握り、読書との向き合い方を綴った本の出版や、企画、醸造、販売まですべてプロデュースしたクラフトビールの制作など、オリジナリティ溢れる活動をしてきた。

「本と出版プロジェクト」オンライン配信イベントの一コマ「本と出版プロジェクト」オンライン配信イベントの一コマ

このコラムでは、インタビューを行う前から何度も連絡をさせていただき、本当に親切にしてくださった高原教授に加え、高原ゼミの卒業生である戸田さん、5期生のゼミ長である齋藤さん(現4年生)、6期生のゼミ長である川村さん(現3年生)の、計4名にお話を伺った。

自分らしくしてくれる魔法の言葉「Love&Peace」

高原ゼミのスローガンは「Love&Peace」。
前述したように、この言葉は複雑な社会情勢からの脱却を願った多くの人々の思いから生まれた。そして高原教授もまた、その一人であった。
教授は「私の専門であるマーケティングは、売る術ではなく人や企業、社会の課題を解決し、価値を創造する活動。活動を通じて関わった世の中の一部分から幸せが生まれていく」と教えてくださった。

授業で学んだ知識や技術を、世界や社会を見据えて活動できる環境を高原教授は作りだしている。
齋藤さん曰く、高原ゼミは「やりたいことをやらせてもらえる環境」だという。続けて、それには高原教授が持つ「相手の見えない部分を想像できる力」が大きく関わっているのではないか、と教えてくれた。
否定されることなく、学生一人ひとりの思いから生まれた活動は、少しずつ世の中を幸せにしているに違いない。
そんな高原ゼミの飲み会での掛け声は「Love&Peace」なんだそう。
「ゼミ生からはかっこわるい、と言われてしまう。だが、かっこわるいほど自分を自由にしてくれる。これ以上の掛け声はないと思う」と教授は笑って教えてくれた。
続けて「ゼミナールが大好き。ゼミ生が大好き。とにかく本気で本当に面白い、Love&Peaceな学生が集まってくれた」と心から嬉しそうに学生への思いを語ってくれた。
愛と平和。今も再び、均衡が崩れつつある世の中で、この言葉の持つ意味が大きくなっていくのではないか。
これはゼミ生という輪から広げていく世の中への呼びかけだと筆者は感じた。

ゼミ運営を通じて問いかける本の価値

前述でも触れているが、高原教授はゼミ生によって執筆された書籍『ぼくとわたしと本のこと』(センジュ出版)(※1)の制作を、ゼミの1期生が4年生になった年に決めた。
経歴の長い教授でもやったことがないようなことを行うことに不安はなかったのだろうか。
すると、高原教授は「『本』が陥っている現状に対してアンチテーゼを唱え、本に触れない学生だからこそ本と向き合ってほしい」という思いがあったから制作を決めた、と教えてくださった。

続けて「読書を通じて得られる経験や思いを大切にしてほしい。そして文字に起こす時、本から受け取った温度感を学生の言葉で伝えてくれるのではないか」と考えたそう。
ただゼミ生からは本を書くことに対して、あまりよい反応は得られなかったのだという。
しかし、書き進めていく中で、ゼミ生同士で文章を見せ合う機会を設けた際には、全員が自主的に文章を書き直したことがあったという。
教授は「他の学生の文章がよく見えたのだと思う。だが、学生らしい自由な文章からうかがえる本の面白さがあるので、直す前の方がよかったりした」と、制作時のエピソードを語ってくださった。

ゼミでの学び方は無限大

ここ数年は大学に通うことすらままならない学生も多くいる中で、充実したゼミ活動は行えたのだろうか。
コロナ禍の中でゼミ活動を行ってきた齋藤さんは「提案できずに終わったプロジェクトがほとんど。形として残るものはほとんどなかった」と語った。
筆者もコロナ禍の影響を受け、ゼミ活動を制限されたことが何度もある。

計画が頓挫してしまうことが多くあった中で、齋藤さんたちは常に提案を考え、実行に移す準備をしていたという。
そしてその中で実現に至ったのがクラフトビールの月額プランであった。徳島県上勝町に拠点を構えるブルワリ―の「RISE&WIN Brewing Co.」(※2)と提携し、限定ビールや限定グッズを定期購買できるサービスを考案したという。ゼミの5・6期生合同でテーマに沿って議論を重ねて生まれたアイデアは現在も形を変えて受け継がれている。
齋藤さんは「みんなでやっていく過程が高原ゼミなので、一つ、みんなで何かをやれた経験があって本当によかった」と語った。

<カミカツ・インターンシップにおけるマインドフルネス体験><カミカツ・インターンシップにおけるマインドフルネス体験>

また、戸田さんは、ゼミを運営していくことも一つのプロジェクトだった、と語ってくれた。「ゼミ生によってプロジェクトへのモチベーションはバラバラなことは当然。そこで自分がみんなを巻き込んでいくためにどのように行動すべきか考えたことが一番の学びだった」。
そう聞き、筆者も自身のゼミナール活動を振り返った時に感じた、「モチベーションの違うゼミ生とプロジェクトを進めていくことに不満はなかったのか」を伺った。
すると戸田さんは自身が3年生の春休み頃、ゼミがバラバラになりかけたことがあったことを教えてくれた。「やらせてもらえる環境があるおかげで、想定よりもプロジェクトが早く進み、みんなの心が追い付かなくなってしまった」。

そこで解決のカギとなったのが、戸田さんともう一人のゼミ生で行った、ゼミ生一人ひとりとのお酒の場での語り合いだったという。「20人くらいとお酒の場を設けたら、お金がすぐになくなってしまった。そこで高原先生にお金を貸していただけないかと尋ねた(笑)」なんて少し照れながらも教えてくれた。
それに対し高原先生は「ゼミ生の中で異変があればすぐに気づくが、あえて声をかけるといったことはしない。(戸田さんのように)様子が違うと気づいた学生がアクションを起こしてくれる、そういった学生たちが集まってくれるゼミだと思う」と語った。

「高原ゼミに入らなければ手に入らなかったもの」

大学生にとってゼミは自身の生活を構成するほんの一部分にすぎない。サークルやアルバイト、大学外活動など自分の日常を振り返ってゼミナールをどのように位置づけているのか。
川村さんは「大学生活=ゼミ。本当に濃い時間を過ごしている。ゼミ長として頑張りすぎる必要もなく、みんなで頑張っていける」と答えてくれた。
続けて齋藤さんも「生き方の基盤になった」と大学生活に占めるゼミへの思いを語ってくれた。「プロジェクトや人との関わりを通じて『自分の中で判断の基準を持つ』ことと『好奇心』を大事にしていきたいと感じた。自分の今後を決めた大事な場所」と熱い胸の内を教えてくれた。

そして最後に戸田さんは、社会人となり高原ゼミのありがたみを感じる場面が多くあると教えてくれた。「ゼミのプロジェクトの進め方やリーダーシップ経験が役立っている。Love&Peaceという考え方を社会に出る前に知ることができただけで気持ちが楽になる。働くうえでいろんな考えを教えてもらった場所」だと感じたそう。
お話を伺ったゼミ生の方々は、それぞれゼミで過ごしてきた時間も密度も異なるにもかかわらず、ゼミをかけがえのないものと位置づけた。マスクなしに気兼ねなく、学友と歯を見せて笑いあう日常生活を送れずとも、Love&Peaceの精神のもとでつながった高原ゼミ生は変わらず学びを深め、学生生活を鮮やかに彩っていると筆者は感じた。

「よい種となって社会に出てほしい」

最後に、高原教授にゼミ運営を通じて大学生を輩出していくことについて問うと、「ゼミは授業で学んだテクニックを実践で落とし込む場である。だが複雑に変わり続ける社会を正確に捉えられるようになることはむずかしい」と語った。続けて「ゼミは種が蒔かれる場所。だからゼミにいる間は花を咲かせなくていい。良い種となればいい」との熱い思いも。

そのためにはどんな学生が入ってくれたらいいのか、どんな日々を過ごしていけばいいのか、常に自問自答をしているという教授に向けて学生たちは真剣なまなざしを送る。
続けて高原教授は「やりたい気持ちに溢れていて面白い時間を過ごしてくれる人たちと関われていることに感謝。社会に出たら面白いと思えることはなかなかないかもしれないが、必死になって面白いと思える今を作ってほしい。そうすればきっと面白い社会になる」と社会への展望を語った。

<「明日の授業プロジェクト」での活動終了後に撮られたゼミ生集合写真><「明日の授業プロジェクト」での活動終了後に撮られたゼミ生集合写真>

筆者はイケてるゼミ探しの際、「大学生活の中でゼミ活動に重きを置いており、やりたい気持ちに溢れた学生が多く所属するゼミ」を軸として探していた。
特にコロナ禍に直面しているからこそ、限られた学びの場としてゼミに所属することに意欲的な学生が多いことは、共に互いを高め合い必ず成長できる環境があるイケてるゼミだと考えたからだ。
その中で知人から紹介を受けた高原ゼミは私の求めるイケてるゼミ、そのものであった。
取材の中で見せてくれた4名の笑顔からは、これまでの活動を通じて築いてきた深い絆の一部が垣間見えた。
これからも世の中に面白いをプラスしていく高原ゼミの今後を見守っていきたい。

【Student’s Eyes】
■高原ゼミとは「ゼミ生一人ひとりが大きな花を咲かせるための土壌」だとわかりました。「面白そう」「やってみたい」というゼミ生の持つ希望の種が、温かみに溢れる高原先生や先輩、同期に支えられることで、自分の中の可能性を広げてくれる、そんな場所だと取材を通じて感じました。(栗原)
■ゼミ生の方から、自身の就活中に高原ゼミみたいな会社で働きたいというぶれない軸があった、といった発言があり、それがとても印象的でした。ゼミがただの必修科目で終わってしまうのではなく、自身のキャリア選択や生きるうえでの指針にさえなりうる魅力が、高原ゼミにはあると感じました。(篠崎)
■ゼミの研究をしている大学院生として、特に高原先生のゼミ全体を取りまとめる力の高さを感じました。ゼミ以外の授業とゼミ活動の間に断絶がありますが、前者を経営に関する理論の場、後者をLove&Peaceをコンセプトに実践の場として捉えた自由闊達なゼミ運営が印象に残りました。(正司)
■縦横のしっかりとしたつながりを活かした実践の場があることで「自分事として考える力」が身につくゼミだと感じました。意見を否定されない環境や一人ひとりがゼミのことを自分事として考える意識があることで、結果、自分という人間を成長させられる人間関係ができあがるのだと思いました。(山本)

 

(※1)『ぼくとわたしと本のこと』 高原純一+SUN KNOWS センジュ出版 2019年
高原純一教授ゼミの学生21名が本や本を取り巻く環境に対してどう感じているのかを綴った一冊です。等身大のゼミ生が赤裸々に綴るエピソードの数々は本と関わってきたすべての人々に通ずるものがあります。ぜひ、ご一読くださいませ。
センジュ出版 URL https://senju-pub.com/
(※2) RISE&WIN Brewing Co.
徳島県上勝町に拠点を置くブルワリーです。日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言を行った上勝町だからこそ生まれるビールを生産しています。高原ゼミではそんな「カミカツビール」の知名度向上やマーケティング活動を行っています。クラフトビールにご興味のある方はぜひ。
RISE&WIN Brewing Co. URL https://kamikatz.jp/

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