販売代理店の人材育成をAIがサポートし、業務効率化と生産性向上を実現(アフラック生命保険)
【Vol.6】アフラック生命保険
がん保険のパイオニアとして知られるアフラック生命保険(以下、アフラック)は、2020年にDX戦略(DX@Aflac)を策定し、施策の1つとして2022年からクラウド型デジタルサービスプラットフォーム「ADaaS/Aflac Digital as a Service(以下、ADaaS)」を提供している。これはリアルとデジタルを融合し、すべての顧客接点において一貫性を持った体験価値を提供するため、効果的・効率的な営業活動をサポートするデジタルサービスの総称で、「募集人育成AI」「営業サポートAI」といったサービスで販売代理店の人材育成のサポートにも力を入れる。これらAIによるサービス開発の中心となった藤島大輔氏、照後大樹氏らに、導入の狙いや生産性向上の成果について話を聞いた。
DX戦略の中で販売代理店の業務効率化、生産性向上を支援する
アフラックではアソシエイツ(販売代理店)制度を採用しており、全国8073店(2021年度末時点)の販売代理店を中心に、がん保険をはじめ医療保険、就労所得保障保険、死亡保険などの保険商品を販売している。従来、同社の保険営業は対面でのコミュニケーションが中心だったが、コロナ禍により対面での接点機会が限られるなかで、より生産性を上げるためにデジタルテクノロジーの活用が不可欠となっていた。同社が進めるDX戦略においても販売代理店の業務効率化、生産性向上の支援を重要なテーマと位置付けている。
「当社のDX戦略『DX@Aflac』における取り組みの1つであるADaaSは、販売代理店、顧客、ビジネスパートナー向けに提供している各種のデジタルサービスの総称で、以前から提供していたサービスも含め以下のようなラインナップとなっています」(照後氏)
※試験的に一部の販売代理店を対象とするサービスもある
募集人育成に必要なロールプレイングの相手役をAIが代替
上記のサービスのうち、販売代理店における募集人(保険商品を販売する人のこと) の人材育成をサポートするのが「募集人育成AI」「営業サポートAI」である。「募集人育成AI」は、新人向けトレーニングや新商品の理解促進を目的に、人対人で行ってきたロールプレイングの相手役をAIが代替するものである。
従来の募集人育成プログラムでは、教育部門で作成した基本的なロールプレイングのスクリプトを基に、各支社で販売代理店に対して、または販売代理店内の先輩募集人が新人募集人に対してロールプレイングを含む研修を実施していた。そうした場で生まれた、より効果的な営業話法を全国に展開するため、スクリプトをアップデートしていく。そのようにして繰り返しロールプレイングを行うことから、「研修のたびに場所・時間・人員の確保にかなりの労力が割かれていた」と藤島氏は言う。
同社の「募集人育成AI」は、新人が身につけるべき基本的な対応、新商品紹介で確実に伝えてほしいキーワードなどを音声認識で自動的にチェックする。ロールプレイング後のフィードバックでは顧客対応時に不足していたキーワードがテキストで明示されるため、本人も改善点が理解しやすい。情報を効率的にインプットするe-ラーニングと、アウトプットするロールプレイングを継続して行うことで、顧客対応の技術が一定以上のレベルに保たれ、生産性向上に寄与していると同社では見ている。
「『募集人育成AI』によって各支社および販売代理店でのロールプレイングに関する負担は大幅に軽減されました。募集人は自身の販売代理店事務所などで、自己完結型のロールプレイングを行えるようになっています」(藤島氏)
サービス開始後の調査によれば、「募集人育成AI」による研修を完了した募集人は、未完了の募集人より成約件数が約1.3〜1.5倍上回っていたという。
「当社には営業部、支社を合わせると141もの営業拠点があり、新商品の理解度や上司からの指導内容に濃淡があったことは否めません。それが現在では『募集人育成AI』により拠点間の差は改善されています。ただ、同AIはベーシックな知識や顧客対応の養成が目的で、経験豊富な募集人にはやや物足りない内容と思われます。今後は上級者向けのエッセンスをどれだけ盛り込めるかも検討する必要があると考えています」(藤島氏)
営業場面での顧客対応をAIが評価してアドバイスする
もう1つのAIサポートである「営業サポートAI」は、試験段階のため一部の販売代理店に提供しているサービスで、募集人が安定した営業成果を生めるように営業スキルの育成を支援する。
これまでは同じ販売代理店の先輩や上司が顧客対応の場に同行・同席し、各募集人の営業スキルを直接確認した後にフィードバックを行うのが一般的だった。しかし、現在は指導する人員が不足しているうえ業務の忙しさなどにより、新人および若手の営業スキル育成、継続的な営業の質の維持に苦慮するケースも多くなっているという。
そのような経験豊富な指導人員の不足を補うため、営業現場での募集人の対応を評価し、改善点をフィードバックする目的で「営業サポートAI」が開発された。募集人は事前に顧客の了承を得て、スマートフォンでお互いの会話を録音する。AIはその会話を音声認識でテキスト化して分析し、顧客対応が終わった後で「顧客より募集人が一方的に話しすぎている」「もっとこのような話をしたほうが良い」などと本人にアドバイスする。
「先輩や上司などの指導層にも、募集人が顧客とやり取りした会話内容のテキストは共有されるため、『事前に準備した内容がちゃんと入っているな』といった適切な評価が可能になります。必要に応じて募集人とミーティングの時間を設けて、営業に対する本人の感想と指導者の評価をすり合わせるなど、AIと人との2つの視点からアドバイスできるのがメリットです」(藤島氏)
また、オンライン営業の際にも「営業サポートAI」を使用することが可能で、募集人のパソコン画面にAIからのメッセージをリアルタイムに表示できる。例えば顧客との会話で皮膚や粘膜などの上皮内新生物の話題になったときは、悪性新生物との違いについて表示したり、会話の内容から顧客に話したほうがいい情報を提供したりと、ベテランの担当者のアドバイスを受ける感覚に近い。
「人材不足を補う目的で始めたAIサービスですが、将来的には経験豊かな募集人の話を録音して分析し、それを何十人分も蓄積して何らかの共通項が導き出せれば、ベテランの方にとってもベンチマークとして参考になるのではと期待しています」(藤島氏)
同社のこうしたAIサービスは、マーケティング部門の藤島氏とITデジタル部門の照後氏など、多様な専門性を持つメンバーで機能横断的なチームを組み、課題意識を共有しながらアジャイル形式で企画・開発を進めているのも同社の特徴と言える。
顧客が気軽に訪問できるようオンラインの店舗サービスも開発中
ADaaSには直接顧客にアプローチするデジタルサービスも含まれる。その1つが「デジタルほけんショップ」で、これは一部の販売代理店などを対象にしたクローズドベータテストの段階である。
同ショップのサービス開発はアフラックが担うが、運営は基本的に販売代理店が行う予定で、いわばデジタル上の代理店店舗となる。顧客はまずいずれかの「デジタルほけんショップ」を選んで訪ねる。入店すると保険商品をはじめ、お金や生活に関する各種情報を得ることができる。詳しく話を聞くにはオンラインまたは来店しての面談となるが、中井氏は「『デジタルほけんショップ』は顧客との新たな接点を作ることが目的です。比較的若い層が気軽にアクセスできる店舗という位置付けです」と話す。
「保険の相談で、店舗を訪ねたり営業担当に会ったりするのはハードルが高いと感じる方も、まずは、いつでも利用できるデジタルの店舗で情報が得られることを知っていただければと思っています。現在のところオンラインで完結できる契約は一部にとどまっていますが、将来的には『デジタルほけんショップ』内でチャットや音声でコミュニケーションができ、オンライン相談から保険の契約完了まで行えるよう、様々な検証を行っていきたいと思っています」(中井氏)
現状、インターネット通販的なアプローチにせず、オンライン相談の予約窓口という形をとっているのは、お客さま一人ひとりのニーズをお聞きしたうえで、必要な保障についてご提案させていただくことを大切にしているからだという。情報収集や比較検討はネット上で行っても、最後の一押しはやはり営業に「推して」もらうことが契約に直結するケースが多い。
同社のDX戦略では、一方的にリアルからデジタルへのシフトを目指すものではない。リアルとデジタルを融合し、すべての顧客に対し、一貫性を持った体験価値を提供することを目的としている。リアルでの安心感や納得感とデジタルの利便性というそれぞれの強みを結びつけ、「リアルの業務の生産性をデジタルサービスが向上させるなど一体不可分なもの」(藤島氏)と捉えて積極的に活用することが、育成する側・される側それぞれの負担を軽減し、人材不足に対応していく手段の1つと言えるだろう。