高速道路の自動運転は実現可能、社会受容性の醸成を

【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化 運輸編(後編)

2023年03月24日

「2024年問題」が目前に迫るなか、本質的な働き方改革や生産性向上が待ったなしの状況にある物流業界。後編では幹線輸送、支線配送、結節点(物流拠点)各パートの自動化・機械化の可能性と働き方の変化について予測する。

幹線輸送の自動化・機械化と働き方の進化

幹線輸送の自動化・機械化と働き方の進化幹線輸送の自動化に関しては国土交通省の「総合物流施策大綱」などでも触れられているとおり、トラック複数台による隊列走行や自動運転の実現に向けた取り組みが始まっている。2019年には1台で2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」による輸送が解禁され、運用がスタートした。隊列走行については経済産業省・国土交通省により2021年に新東名高速道路の遠州森町PA~浜松SA(約15km)において、後続車の運転席を実際に無人とした状態での3台のトラックによる後続車無人隊列走行技術を実現しており、高速道路に関しては2025年までには一部で実装可能な地点まで来つつある。有人の隊列走行についても、高速道路の専用道路の検討、安全性確保などの条件が揃い、5台連結程度になれば投資対効果が期待できるようになるだろう。一方で、ドライバーが完全に不要になる完全自動化は技術的な問題やインフラ上の課題などを踏まえると短期的な実現は困難だろうと考えられる。

長距離輸送のドライバーの働き方としては、例えば関東―関西のルートにおいて、途中に中継地点を設けることで荷物のリレー、折り返し運転が可能となれば、車中の泊まり込みや長時間拘束から解放される。隊列走行が実装され、自動運転の精度が上がれば、車内ではモニターでの後続車の監視や物流拠点との連絡業務などが中心になる。有人での自動運転が実現すれば、ドライバーはハンズオフ、アイズオフで運転業務からも解放され、車内で運送計画など別の作業が可能となる。隊列走行や自動運転は、高速道路など一部での運用に限られると見られ、なおかつ大きな投資が必要で普及に時間がかかるため、大手の事業者が先行し、支線配送事業者とのすみ分けが加速する。

働き方の進化のためには、荷姿の標準化も欠かせない。食品業界など部分的にでも荷姿の標準化が進めば、積載率が向上し、拠点での荷物の積み降ろしの大半は自動フォークリフトに任せられるようになることから、過酷な荷役作業からも解放されることが期待される。

支線配送の自動化・機械化と働き方の進化

支線配送の自動化・機械化と働き方の進化

■ 過疎地域ではドローンの監視役、都市部の大型施設では手渡し不要に

ラストワンマイル(1マイル=1.6km)と言われる支線配送は最も自動化が難しい。ドライバーが行っている荷台への荷物の積み込み作業については、支線配送においては荷姿がばらばらであるため、簡単に自動化することはできないだろう。先進的な拠点など一部においては、ロボットアームによる積み込みなどで部分的に作業負担が軽減されるところも出てくるかもしれない。

配送ルートの適正化などAIの活用でルートの設定精度を上げることで効率性を高めることは可能だろう。一般道における自動運転については特区など特定エリアにおいて低速での無人走行車両による配達がごく一部では実現するかもしれないが、ブレインオフのレベル4の自動運転技術が一般道で適用可能になるのはまだまだ先である。

客先での荷降ろしも自動化は難しい。最終的に車の荷台から1個ずつ荷物をピックアップして、エレベータがないマンションの個別住戸や小規模ビルの事務所に届けるのは極めてハードルが高い。都市圏の雑居ビルなどにおいて、人手を使わずに荷物を送り届けることは今後技術が発展しても困難だと予想される。将来的に、現状のように配達員が荷台を使って荷物を運搬する姿が生活圏で見られなくなる日は当分こないだろう。ただ、大規模マンションや大企業のオフィスビル、大型商業施設などの館内物流を整備することで、部分的に自動配送ロボットが稼働することはできる。そのロボットを特定の搬入スペースに置くだけで、各戸への配送はそれに任せることができ、不在配達を繰り返すことがなくなるだろう。

過疎地域での配達は今も配達員の不足や輸送効率の悪さが課題だが、ドローン配送や配送ロボットの実験が各地で始まっている。こうした地域では、いずれはドローン配達の適用区間が拡大し、配達員は管理センターでの監視作業がメインになる可能性がある。2030年以後になるが、運転の完全自動化が実現すれば、特定エリアでは運転手が不要となり、管理センターで監視するだけの世界が実現するかもしれない。

結節点(物流拠点)の自動化・機械化と働き方の進化

結節点の自動化・機械化と働き方の進化

■ 仕分けや梱包、移動などの作業は早期に自動化

物流施設は保管、荷役、梱包・包装などの機能を担っており、従来は保管の役割が大きかった。しかし、近年はEC市場の拡大、多品種・小ロット化などにより、荷物の積み降ろしや仕分けなど荷役機能の重要性が高まっている。こうした物流への需要の高まりを受けて、倉庫内の作業員も慢性的に不足している。EC運営者はフルフィルメント業務(受注、集荷、梱包、配送、販売、決済、返品、在庫管理、問い合わせ対応、顧客データ管理)をフルフィルメントセンターに一括で委託することで業務効率化を図っており、同種のセンターが拡大を続けていくだろう。米ウォルマートのようにリアル店舗自体を小さな「フルフィルメントセンター=物流拠点」として扱うケースもあり、ECサイトで受注した商品をリアル店舗で集荷して配送する店舗網も拡大している。

こうしたなか、大型物流施設においては、自動倉庫による保管に加え、仕分けや包装、搬送の自動化による省人化が進んでいる。物流の業界で働いている方々について見ると、倉庫の自動化が技術的に最も容易であり、省人化の早期の達成が可能だろう。2040年頃には今の業務の6~7割が自動化しているかもしれない。物流拠点における倉庫作業は、仕分け、梱包、移動などの単純作業については加速度的にロボットへの置き換えが進み、人の仕事は機械の管理やメンテナンス、さらなる自動化の計画などにシフトしていくだろう。

一方で、ここでもやはり積み込みや荷降ろしの作業の自動化には大きな障害が残っている。特に、ラストワンマイルに接続する多品種の荷物の積み込みについては自動化が難しい。AIによる荷物の内容の判断やロボットアームによる積載作業などの実験が始まっているが、実用化へのハードルはいまだに高い。

自動化・機械化実現への課題と働き方の未来

■ 全体最適と個別最適の線引きを明確に

自動化・機械化により、物流業界における働き方は変わっていくだろう。これまでドライバーが担っていた長時間の運転や荷役作業といったタスクは徐々にではあるが縮減していくことが期待される。支線配送は、都市部では大型施設への効率的な配送の実施、過疎地域ではドローンや配送ロボの集中管理が一部で行われると見られる。物流拠点では不定形な荷物の積み降ろしなど部分的に手作業が残るものの、仕分けやピッキング、移送の自動化は大きく進み、管制室などでのモニタリングが主業務となるだろう。

自動化・機械化による労働力の代替を阻む主な課題としては、①輸送手段の自動化に向けた技術開発や法整備、②積み替えを容易にし、積載効率を上げる荷姿(コンテナ・パレット)の標準化、③ラストワンマイルにおける荷物の受け渡し時などの社会受容性の問題がある。

技術開発については自動運転技術や通信の安定性などの課題は残るが、技術が時間とともに高度化していくことは間違いない。むしろ法制度や保険制度、どこまで自動化を許容するかという社会的認知の問題のほうが大きいかもしれない。荷姿の標準化は長年の課題である。経済産業省・国土交通省による「フィジカルインターネット実現会議」がロードマップを描くが、個別企業やグループ単位での進化が進むなかで、いかにこれらを取りまとめるかが難題となる。いわゆる全体最適と個別最適の線引きを明確にして各セクションのコンセンサスを得ることが重要である。

荷物の受け渡しの局面においては、荷物の置き配をどの程度認めるかといった点など消費者側の受容性の問題がむしろ大きいだろう。客側が地域の集配拠点へ足を延ばす工夫を行うなど、消費者の意識が変わってくれば配達作業の省人化は一気に進む。深刻な人手不足を迎えているなか、こういった課題は社会全体として考えていかなければならない。

総括するとドライバーの幹線輸送や物流拠点の業務は自動化が一定程度進むものの、ラストワンマイルにおける配達員の仕事の自動化はビジネスモデルや社会習慣の見直しも含めた検討が必要になる。長距離ドライバーの過酷な労働環境や倉庫内の単純作業を縮減することで、業界全体として持続可能な働き方を実現し、若者の参入が見込める状態になることを期待したい。

(執筆:高山淳、編集:坂本貴志

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