誰もが等しく「個性」をいかして戦力に そんな企業と社会をめざす

オイシックス・ラ・大地株式会社 DE&I委員会 事務局 HR本部 本部付 前田 有香氏/DE&I委員会 障がい者部会 HR本部 キャリア支援室 部会長 石井 一也氏

2025年03月13日

オイシックス・ラ・大地は、全社を挙げて障がい者雇用に力を入れ、2024年9月には法定雇用率を上回る3.0%を達成した。多様性を尊重し、公平性を担保しながら包摂性を高める「DE&I」を推進するソーシャルビジネス企業であり、数字だけでなく障がい者の採用や定着支援における取り組みも注目すべき点が多い。採用方針および雇用した障がい者のサポート体制について、DE&I委員会の前田氏と石井氏に話を聞いた。

基礎情報  合計52人(2025年1月時点)

精神障害-発達障害 23人
身体障害 11人
知的障害 19人

パート社員は障害の有無に関わらず同格。「その仕事を任せられるか」が尺度

オイシックス・ラ・大地は、有機野菜や特別栽培農産物、添加物を極力使わない加工食品など、安全性に配慮した食の宅配事業を展開する企業である。「Oisix」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3ブランドから成る会員制のサブスクリプションサービスを提供し、定期会員数は約46万7000人(2024年11月末)に上る。有機食材宅配のパイオニアとして知られるだけでなく、社会課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスに取り組む企業としても注目されている。

同社が掲げるのはフードロスや孤食など、食に関する社会課題の解決であるが、社会課題に敏感な企業体質から自然と多様性を尊重する風土も形成されている。障がい者雇用においても早くからパート採用を行っており、「障害の有無に関わらず、パート社員の仕事内容や待遇に差はない」と前田氏は語る。採用方針の筆頭にも「弊社で活躍できる方であれば障害の有無は問わない」と明記するほど、この点を重視している。

前田 有香氏前田 有香氏

したがって採用にあたっては障害者手帳の種別ではなく、「任せたい仕事を一定のレベル以上でこなせるか、ほかのメンバーと一緒に働くことができるか、また体調的に安定して勤務できるか、という点を確認しています」と前田氏は語る。「任せたい仕事」の部門は多岐にわたるが、最も障がい者が多い海老名ステーションでは、Oisixブランドの配送作業として、食材のピッキングや梱包資材のカット、箱詰めなどのライン業務を振り分けている。製造拠点ではミールキットに含まれるカット野菜を専用の機械で作ったり、袋詰めした野菜の中に金属片などが混入していないか探知機で調べたりする業務を任せている。ほかには施設の清掃作業などがあり、これらを担当するパート社員の中では結果的に、知的障害や精神障害、発達障害のある人が多く活躍している。

注目すべきはおのおのの作業がかなり可視化されていることである。「たとえばラインに流れる商品をピッキングして棚に入れる作業では、該当する棚に個数を記したランプが点くようになっていて、その数だけ入れてボタンを押すと、次のラインに移るシステムを構築しています」と前田氏は語る。配送センターにはスポットのアルバイトが入ることも多いため、もともとは誤配送を防ぐための仕組みづくりだったが、普遍的に誰もが働きやすい環境になった。「障害のある方だけでなく、日本語がさほど流暢ではない外国の方も活躍しています」(前田氏)。同社では外国籍の人材も増え続けており、海老名ステーションには国籍別で20数カ国のパート社員が働いている。

パート社員の評価制度を可視化しモチベーションを向上。正社員登用も視野に

採用にあたり、もう1つ意識しているのは長く安定的に働いてもらうことである。そのため、特別支援学校からの採用ルート以外は「支援機関が間に入ること」を必須の条件としている。これを前提にハローワークで募集をかけ、支援機関の職員と一緒に会社見学を行い、必ず実習を経験してもらったうえで採用の可否を判断するというフローである。仕事を任せられるかどうかも実習期間に見定める。「作業量が多く、スピードが求められるので、なかにはどうしても時間内に終えられない方もいる。働き甲斐をもって、長く活躍し続けていただきたいと考えているため、ご本人の特性を考慮したうえで成長や努力で補うのは難しいと判断した場合は、割とシビアに線を引いています」と前田氏。

もっとも、同社に採用された障がい者の定着率はかなり高く、これまで1年後で89.0%、3年経っても70.9%が活躍している。給与体系は先述のとおり障がい者もほかの社員も同じで、評価基準も同一であるため、リーダー的ポジションにランクアップする者もいる。「特に海老名では新しい評価制度の策定により、スキルと連動した昇格基準がより明確になりました。生産管理・教育・労務管理の3つの観点から、等級ごとに『指示通り作業ができるか』『作業者に指示が出せるか』といったスキル要件を設定しています。スキルを達成すると半期に1回、担当のリーダーから推薦があり、等級が上がると時給もこれだけ上がるなどすべて可視化されているので、皆さん『これができるように頑張ろう』とモチベーションが高まっています」(前田氏)

現状はパート雇用のみだが、「長く働くにはやはり正社員が安心という方もいるし、契約更新の時期になると心配する方も見られるため、今後は正社員の登用も視野に入れて制度設計に取り組んでいきたい」と前田氏は語る。また、新たに障がい者を採用したい領域として、近年引く手あまたの「データサイエンティスト」に関心を持っている。きっかけは前田氏がデータサイエンティストを専門に育成する就労移行支援事業所を見学したことで、「想像以上にコミュニケーションが円滑で、関心のあることへの集中力が高い特性があることから、少々ケアが必要でも逸材が採用できそうです。データサイエンティストは今後人材としてもニーズが高くなる見込みであり、障がい者雇用の職域拡大につながりそうだと大きな可能性を感じています」と期待を寄せている。

有志が参加する部会を立ち上げ、フラットな立場で障がい者をサポート

同社の障がい者の定着率が高いのは、採用方針の明確化や業務の標準化、モチベーションアップを促す評価制度などに加え、サポート体制の充実によるところも大きい。支援機関との連携や職場の担当者によるサポートとともに、独自の取り組みとして「障がい者部会」がある。同社では「働く人すべての違いを尊重し、一人ひとりがやりがいを持って働けるカルチャーをつくる」という考えから、2年前にDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)委員会を立ち上げた。現在、その中に障がい者部会とLGBTQ+部会が設置されている。

障がい者部会の役割は、部会メンバーによる障がい者社員への支援である。月に1回程度、職場を訪ねて「定着支援面談」を行うほか、本社オフィスでランチ会を開いて交流を深めている。メンバーは基本的に挙手制で有志を募るが、「日常業務で障害のある方と関わる社員だけでなく、事業部の社員やデザイナーなど、多彩な部署から参加してくれた」とHR本部の石井氏は振り返る。身内に障がい者がいたり、かねて個人的な関心事だったりと、参加動機はさまざまだが、ほとんどのメンバーは障害や面談に関する資格や専門知識を持っていない。「以前は、現場を管理している社員が障がい者雇用も兼務して対応していましたが、雇用者が増えるに従いボトルネックが生じるようになりました。だったら挙手制により多くの業務部門からメンバーを集め、ダブルミッションとして本来の業務に負担にならない範囲で取り組んでいこうと発足しました」(石井氏)。障がい者の職場には日常的に対応する担当者が別にいるため、定着支援面談は、普段、担当者に言いにくいことなどをフラットに聞き出す場と位置付けている。メンバーたちも手探りながら協力し合ってヒアリング力を磨くほか、障害者職業生活相談員の研修などに積極的に参加してスキルアップに努めている。また、相談内容を1人で抱え込まずにメンバー間で対応方法を相談し合えるよう、定着支援面談を2~3人体制で行うといった工夫も施している。

石井 一也氏石井 一也氏

面談のヒアリング項目は、あらかじめ部会メンバーで擦り合わせ、記録も積み重ねていくため、面接官が変わっても情報はきちんと引き継がれる。またヒアリングした内容はその都度現場にフィードバックして改善につなげている。「フラットな関係性で打ち解けて話せるせいか、かえって詳しく聞き出せるようです。たとえば一人暮らしの方に『普段の食事はどうしているの』と聞くと、『ちゃんと食べています』とは答えるものの、掘り下げるとコンビニなどの簡単な食事で済ませているケースが結構あるとわかりました」と石井氏は語る。もちろんこうした情報は職場の担当者にも共有するが、「長く勤めていただくためにも、全社的に生活面でも食のサポートができないかと、現在、部会で模索しているところです」と石井氏。1つの策として最近、主菜と副菜が簡単に作れる商品のミールキットを使った料理教室を開催した。今後、障がい者が使いやすいようにアレンジすることで、同社の社員のみならず、利用層の拡大とともに広く障がい者の健康を支える活動ができればと考えている。

同社が障がい者雇用を始めたきっかけは、海老名ステーションの近隣にある特別支援学校の働きかけによるもので、全社的に取り組んだのは2018年の経営統合からである。「海老名ステーションはとにかく歴史が長いので障害のある方は戦力だという認識が浸透しており、一緒に働くことがすっかり当たり前の日常になっていました。周りに愛される天真爛漫な社員も多く、活躍人材になっていると歓迎する文化も根付いたようです。全社的な取り組みが進んだのは、そうした素地もあるかと思います」と石井氏。さらに遡ると、特別支援学校の生徒を受け入れたトップの考え方も気になるが、「元から多様な人々をオープンに受け入れる社長の姿勢が企業カラーの源になっています。『活躍している人は誰もが格好よい』と素直に思っています」(石井氏)。かつて叫ばれた「一億総活躍」より、はるかに響く言葉であろう。

TEXT=稲田真木子

*オイシックス・ラ・大地の表記ルールに則り「障がい者」と表記しています。

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