世界で求められる採用テクノロジー ~人事部が非正規労働者を採用・管理~

2018年01月10日

海外の人事部では、どのようなHRテクノロジーを求めているのだろうか?世界的に人材不足感が蔓延するなか、最も注目されている領域は「採用」、特に有能な人材の確保を可能にするソリューションだろう。Talent Tech Labs(TTL)が世界の人事リーダー189名に実施した調査「2017 State of Talent Acquisition Technology)」では、企業は雇用主としてのブランドイメージを上げ、他社で働く優秀な人材を特定して引き抜くソリューションを重視していることがよく表れていた。

まもなく非正規社員も人事部の管理下に置かれる

契約労働やフリーランスといった一時的な労働形態を好むプロフェッショナルの増加を受け、世界の人事リーダーは、人事部が従業員に加えて非正規労働者の採用と管理も行うことになると予測する。

これまで、非正規労働者は会社の短期的な人材ニーズを満たす要員として、Procurementと呼ばれる調達部の担当領域だった。しかし、スキル不足が深刻になり、今後は人事部の中でも特にタレント・アクイジション(人材獲得、Talent Acquisition以下TA)リーダーが会社で必要な労働力を総合的に判断し、長期的な計画を作成して人材を調達するようになる。すると、一時的な労働者を見つけるための「臨時労働者紹介マーケットプレイス」や、彼らを管理する「ベンダーマネジメントシステム(VMS)」といったソリューションが大きく成長するとTTLは見ている。

最も革新的なのは「雇用主ブランディング」を高めるツール

企業が過去2年間に導入した採用テクノロジーの中で最も革新的だと評価したのは、「雇用主ブランディング(Employer Branding)」ツールだった(33%)。このツールを導入しているのは全体の半数程度というなか、3割の支持を得ており効果が高いことがうかがえる。一方、旬な領域といえる「チャットボットとAIによる拡張処理(Chat Bots/AI Enhanced Processing)」は、11%が革新的だと感じていた。まだ導入していない企業が多いこともあるが、開発初期段階のため効果を実感できるほどには進歩していないようだ、とTTLは分析している。

今後の期待を集める「ソーシングとタレント特定」ソリューション

今後投資と開発が最も進むだろうと人事リーダーが考える領域は、「ソーシングとタレント特定(Sourcing/Talent Identification)」ソリューションだった(45%)。ソーシングとは、インターネット上にアップロードされているレジュメやSNSのプロフィールなどから、求人に適した一流の人材を発掘する作業のこと。欧米企業にはリクルーターに加えて、ソーシングを専門とする「ソーサー」という職業があり、ソーサー向けのコンファレンスも開催されている。ソーサーが自力で候補者のリストを作成するには、インターネット検索についての高度な知識、テクニックと膨大な時間が必要なため、ソーシングを自動で行うソーシングとタレント特定ソリューションはすでに多数開発されている。

2番目に票を集めたのは、ソーシングによって特定した候補者の興味を自社に惹きつけ、会社のオンラインおよびオフラインコミュニティへの積極的な参加を促進する「タレントエンゲージメント(Talent Engagement)」だった(26%)。会社への愛着心が高い候補者は、求人が発生した時に即座に採用しやすいため、母集団を作っておくための戦略である。

導入率が最も高いのはATS(応募者追跡システム)

現在最も広く利用されている採用テクノロジーツールは「ATS(Applicant Tracking System)」(88%)で、企業規模にかかわらず、導入していない企業の方が珍しい。求人広告の掲載から応募者の個人情報や経歴の保管、選考プロセスの管理など採用に関する機能がひととおり搭載されているため、欠かせないツールであるようだ。ほかには、「求人・求職サイト(Job Advertising)」(66%)や「SNSおよびソーシャルサーチ(Social Networks and Search)」(61%)の利用率も過半数を超える。

革新性だけでなく、既存テクノロジーとの統合能力も重要

大企業が新しいテクノロジーを既存のシステムに統合する際の懸念事項は、「IT処理能力(IT Bandwidth)」と「古いテクノロジー問題(現在使用している古いツールと統合できるか、Legacy Technology Issues)」がともに41%だった。費用は大企業にとってそれほど大きな問題ではないようだ(27%)。一方で、大企業は全体平均よりも「法順守(Legal Compliance)」を懸念していた(大企業20%、回答者全体13%)。

実用的な最新採用テクノロジーの見極め

同調査では、ほかにも「期待外れだった採用テクノロジー」、「TAリーダーとしての最優先事項」「導入した採用テクノロジーの効果をどのように測定しているか」など、実際に最新の採用テクノロジーを導入した人事リーダーの率直な回答を掲載している。

ここ数年、最新のHRテクノロジーに関するイベントが世界で多数開催されている。大規模なものでは、毎秋ラスベガスで開催されるHR Technology Conferenceと、アムステルダムやロンドン、米国を回って開催されるUnleash(前HR Tech World)などがある。無数の採用テクノロジーツールが存在するなか、実際に使いやすく、時間とコストの節約になるものを見極めるのは難しい。HRテクノロジーのイベントに出展している業者に商品のデモ説明を受けその場で疑問を解消したり、TTLによるこの調査のように、すでに利用したことのある人の意見をまとめたものは、貴重な判断材料である。

※ 世界のHRリーダーとシニアTAリーダーを対象にしたオンライン調査。2017年4月11日から5月5日に実施され、回答者数は189名。

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