ソースコン2017年3月参加報告
ロボットを操るのは人間~AIとリクルーター&ソーサーの共存を目指す~
半歩先のHRを行く、ソーサーとは?
人材不足が叫ばれて久しい。
求人を出してもスキルと経験を満たす人からの応募がなく、採用担当者が求人求職サイトのデータベースを検索し、マッチする候補者に接触を図るケースが増えているのではないだろうか。米国には、あらゆる手法で優秀な人材を発掘する「ソーサー」という職業がある。人材調達のプロ、ソーサーは企業が競争力を維持するうえで欠かせない存在になっている。
ソーサーの多くは、企業の人事部に属す人材発掘担当者。欲しい人材を特定し、自社の求人に応募するよう口説き、面接を実施する。企業により、リクルーターがソーサーを兼務して採用に至るまでの全工程を見届ける場合もあれば、人材探しに徹するソーサーと採用選考を担当するリクルーターに分ける場合もある。そんなソーサー向けのコンファレンス、「ソースコン」が2017年3月13日~15日、カリフォルニア州アナハイムで開催された。ソースコンには、アフラックやスターバックスといった著名企業を含むさまざまな領域の企業から約650名のソーサーやリクルーターが出席し、情報収集および共有を行った。
コンファレンスのテーマは
「We Control the Robots(ロボットをコントロールするのは人間だ)」
テーマが象徴するように、ソーサーもAIやロボットの脅威に注目している。プログラムは基調講演と分科会を含めて23セッションあったが、その大多数は、最新のテクノロジーの紹介か、人間ならではの能力に注目する、という内容だった。
グランド・マスター・チャレンジ
ソーサーの真骨頂を垣間見た、人間対AIの勝負
ソースコン開催中に、参加者の注目を浴びたのは、人間とマシーンの直接対決。対決の内容は、航空会社の地上サービス職員、システムアドミニストレーター、プロダクトマネジャーという実在した求人案件3件に対し、実際に、1)採用された人、2)面接を受けた人、3)書類審査を通過した人、を5,500名のレジュメの中から特定するというもの。固有名詞はすべて主催者によって偽名に変更されている。予選を通過したソーサー5名と、AI代表として「Brilent(※)」が対決した。
ソースコンでは上位4位までが発表された。それぞれの所要時間とソーシング手法は図のとおり。Brilentはわずか3.2秒で9人中2人を正しく特定し、4位という結果だった。優勝は、25時間をかけたウォルマートのソーサーだった。さまざまな手法を考えつく人間の創造性と丁寧さの勝利だが、AIが一定の精度の仕事を3.2秒でこなせると証明されたことは、これからのソーシングに大きな影響を与えるだろう。参加依頼を受けた別のAI企業は、「ソーサーの仕事を脅かす存在だというイメージを持たれたくないため、辞退した」という。
図 グランド・マスター・チャレンジの上位4者
創造性と論理的思考が試されるソーシング
ソーサーはどんなテクニックとツールを使って候補者を探すのか?
複数のセッションで紹介されたものを要約すると、1つは、ブール演算に代表される、情報検索テクニック。検索式を作成し、インターネットやデータベースから求人要件を満たす候補者のレジュメを探し出す。同じ資格、スキルや経験を持つ人でもレジュメに使用する単語や肩書は異なることがあり、幾とおりもの可能性を踏まえたクエリーが必要。ソーサーならば習得していなければならない、基礎的スキルだという。最近は式を作成せずとも、キーワードの意味をもとに複数の用語での検索を自動で行ってくれる「セマンティック技術」が検索ツールの主流になりつつある。
もう1つの方法は「ソーシャルサーチ」。SNSやブログといった、インターネット上で公開されているプロフィル情報を自動収集し、求人案件に適した人材を探し出すツールを活用する方法である。例えば「HiringSolved」のサービスは、ソーサーが理想とするレジュメをアップロードすると、それに近い人材をインターネットで特定し、リストアップする。その人物のさまざまなSNSアカウントとメールアドレス、電話番号などを集約して表示する。ソーシャルサーチは、候補者の経歴確認や、その人のネットワークから別の適材を発掘する手段としても利用できる。
そのほか、SNSを利用していない人材を探す際に重宝するウェブサイトも多数紹介された。研究出版物に特化した検索エンジンの「Google Scholar」、科学者や研究者を検索できる特許データベースの「Free Patents Online」、エンジニア、看護師、特定のライターなど専門的な資格を持つ人たちが登録する各州の登録サイトなど。
ソーサーが生き残るカギは共感力
ビッグデータから候補者を発掘するのは機械の得意分野だが、次のステップ、消極的な候補者を惹きつけて自社での仕事を検討させるには、人間の力が必要だ。2020年に人間が仕事で最も必要なスキルは共感力だと言われている。
インディードのグローバル・ソーシング部門は共感力に焦点を当て、ターゲットとする人材の考え、想い、動機、人生の選択を理解しようと努め、それを踏まえたスカウトメールを送っている。これを「Hyper-personalization(過剰にパーソナライズする)」と呼び、例えば候補者のツイッターのつぶやきに関連する話題に触れながら、その人のキャリアを気にかけていることが伝わるようにすると、返信率が高く、その内容も好意的だという。
また、別のセッションでは、テクノロジーツールを活用して人材を発掘するのが得意な「Typer」タイプのソーサーの需要が今後は減り、人と話して影響を与えることを楽しむ「Talker」タイプのソーサーが多く必要になるという。候補者と採用マネジャーの橋渡しとなり、両者にとってよき理解者になることで、ソーシングに秀でた貴重な存在であり続けるだろう。
事例紹介 ドイツ鉄道
バーチャルリアリティとホログラムがブランディングに効果的
コンファレンスでは、企業事例もいくつか紹介された。直接的なソーシングではないが、会社のブランディングを向上することで前衛的な人材を大量に採用しようとしているドイツ鉄道の事例は興味深かった。
同社は古い国営企業のため、会社の顔であるリクルーターが率先して革新的なイメージを世間に構築しなければならない。タレント・アクイジション(TA)リーダーのワグナー氏は2年半をかけて、新人の仕事で受身だった採用業務を、経営陣にも影響力がある革新的なTA部門にした。リクルーターに「流行に敏感なこと」を要求し、市場情報分析チームを結成し、社内の序列や階層にとらわれずに発想を出し合うシンクタンクを設立した。
変革の結果、ドイツ企業では初めて、VR眼鏡とホログラムをリクルーティングツールとして導入した。VR眼鏡はドイツ鉄道での仕事を想像しやすいよう、保守管理、鉄道建設、建設工学といった仕事の現場を映し出す。ホログラムは、スマホの上に置いてYoutubeの再生ボタンを押すと、同社の製品や鉄道関係の仕事がスターウォーズのように立体的に浮かび上がるというもの。これを持っている人は周囲にも見せるため、ブランディングとして非常に効果的だったという。
(ホログラム用Youtube動画 https://www.youtube.com/watch?v=ceC7rujVE14)
日本市場でも通用する「ケンタウロス手法」とは
ソースコン全体を通して講演者たちから感じたのは、これまでと同じやり方を続けていると仕事を機械に奪われてしまうが、人間にしかない能力を磨き、機械が得意な作業は機械を活用しよう、という「ケンタウロス手法」の薦めだった。つまり、IA(Intelligence Amplification、知能増幅)だ。1950年代からある思想で、人間が自力で学習しようとすると時間がかかるものは自身がエキスパートになろうとせず、ITを効果的に利用することで知能を増強しようとすること。
ソーサーたちの間では、日本市場の特殊さが話題に上った。リンクトインなどのビジネスSNS利用率が低いうえに、「Hyper-personalization」を活用したスカウトメールはプライバシーの侵害だと警戒される。また、米国では最も返信率の高い連絡手段は携帯電話のショートメールだが、この点も日本では大きく異なる。ソーサーたちは日本でのソーシングに苦労しているようだ。しかし、どの市場でも候補者に寄り添う共感力と最新テクノロジーへの適応力が求められる。海外のソーサーは、日本でも効果が出るケンタウロス手法を編み出せるのか。新たなソーシングツールとテクニックに目が離せない。
(※)Brilentは企業のATS(応募者追跡システム)から求人に適した候補者を特定し、オンラインで探してその人の最新の情報を表示するツール
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