プロが考える“HRテクノロジー” HRテクノロジーの近未来

2017年06月07日

HRテクノロジーは日々進化し、エコシステムもその姿を変えている。
新たな価値を創造する新技術の開発や製品の開発を通して10年前とは全く異なるHRの世界観を作り出している。一方、それらのテクノロジーを選別し、活用する企業人事のレベルも格段に向上しており、HR全体の進化に貢献しているといえる。

HRテクノロジーは、これからどのような方向に向かうのだろうか。
インタビューでは、HRテクノロジーを熟知するプロフェッショナル9名に、その近未来の姿について聞いた。それぞれに展望はあるが、CRM(Candidate Relationship Management)リファラル(知人紹介)ブランド構築の将来性を期待する声が多い。また、フリーランスをはじめとして外部人材の活用が増え、その労働力を管理するVMSなども期待できるという。
その一方で、有識者の共通する意見としては、あらゆる採用テクノロジーも、今後数年間で劇的に変貌すると思われるが、求められるリクルーティングに対してスピーディな対応ができなければ、失脚するという厳しいものだった。

注目度が高い「CRM

CRMは、将来の採用候補者となり得るタレント人材で母集団を形成し、コンタクトをするなど、関係性を維持する管理システムとして企業に活用されている。採用は需要と供給のタイミングによるものが大きく、流動性の高い職種では予備軍にすぐに声をかけられる状態にするなど、縁をつないでおくためのツールのニーズは高い。LinkedInなどのインフラとの接続で、リストクリーニングの必要も少なく、候補者の現状も分かる。時間もコストも短縮できることから人事のワークフローとして欠かせないという。
HRテクノロジーは、単体ではなく人材のコミュニティなど他の機能と統合化することによりそれぞれの機能をより強固なものとするが、CRMはその典型で、既にNurtureEngageConnectはサービスの接続がされて、今後はそれが主流となるという。

リファラルの重要度がさらに向上する

リファラル(知人紹介)は、企業の採用経路において高いポジションを占めるようになった。
欧米では、リファラルは人事制度の1つとして機能しており、従業員が知人を紹介する際にリファラル・ボーナスといった紹介手数料を支払う企業も少なくない。企業の採用経路としてリファラルの割合も年々向上している。また、この機能をさらに拡大し、人事異動や退職の可能性のある従業員を予測分析できるツールも存在する。どの企業もリファラルをしたいという要望があるが、人材の質のチェック、たとえば紹介元の調査などを精査する仕組みは少なく、品質が向上する仕組みを取り入れるなど、サービス開発の余地もある。

一方、リファラルが主流化することで、従業員が本当に適切な知人を紹介するならよいが、「あなたの企業に入りたいので採用担当者に紹介してほしい」などと本来のリファラルではないケースも散見されている。このような本質と異なる利用が増えており、本来のリファラルとの選別が必要になってきているという。

ブランド構築

ブランディングに関しては、それを軽視している企業や、採用に直結しないという考え方もあるが、雇用主としてのブランド力を高めている企業とそうでない企業には大きな差がつくことが想定される。個人はすでにFacebookやTwitterのアカウントを持っており、すべての情報が管理・集積され、評価されている状態にある。ブランド構築には、ブランド・クリエーション(Glassdoorなど)、ブランドの増強(Museなど)、ブランド・マネジメントの3つのフェーズがあるが、ブランディング自体の形がまだ定まっていないこともあり、前者の2つについてはまだ伸びしろが大きい。今後は、ブランディングの測定や活動アイテムも増えるだろう。事業者は大手が多いが、近い将来、中小企業やコンティンジェント(成功報酬型)の会社もブランディングに参入するだろう。

プロフェッショナルの情報源

常に変化し次々に新しい商品サービスを生み出しているHRテクノロジー。インタビューにご協力いただいたプロフェッショナルは、かなりの事情通、情報通で、溢れんばかりの企業名、商品名、技術を持っている。その情報源は何だろうか。
「毎日4~5本の商品デモを見ている」「CEOの話を聞く」「AngelList(投資家・起業家のネットワーク)を見る」「カンファランスに参加する」という人もいるが、専門家でもない限り、何を聞いたらよいのか分からないことも多い。基本的には、HRテクノロジーの協会や、Tech Crunchなどの情報源のチェック、さらには、キーマンとなるアナリストを見つけ、ブログやTwitterをチェックすることだという。

人事に"人"が必要なくなる時代がくる

ティンカップ氏は、「Pocket Recruiterのようなロボットがさらに進化することで、ソーシングの自動化が進み"もう人が必要なくなる"」という。人間が自然に行っている学習能力を機械が実現するマシン・ラーニングや、自動人工知能、自動応答など、既にAIが人の代わりにあらゆる仕事が出来るようになったが、今まで人事が主導していた労働力のプランニングや、採用プロセスの細部にわたるまでの動きについても、テクノロジーが人間以上に実行できる状態にある。どのテクノロジーを使いこなせば時間を短縮でき、コストを削減し、世界中から自社に最適な人材たちを採用でき、最適な配置ができ、定着するようになるのか。必要なのは、世の中にどのようなテクノロジーが存在し、どのように配置し、使いこなせば最適化できるのか、リテラシーの高さも問われるようになる。

このように、英語圏ではさまざまな現象が予測される、それにどのように対応するべきか、人事側が装備を固めている状態にあるが、日本ではその恩恵も危機感も少ないようだ。

グローバルセンター
村田弘美(センター長)
鴨志田ひかり(客員研究員)
ジェリー・クリスピン(CareerXroads 共同代表、SHRM前理事)

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