ソーシングの成功の鍵は多彩なコミュニケーション手段の活用
ERE Mediaが主催する「ソースコン」は、2007年から毎年行われているソーサー向けのコンファレンスである。2022年秋のソースコンは、10月17日から18日にかけてワシントン州シアトルの会場とストリーミングのハイブリッドで開催された。
ソースコンは、参加者全員向けの基調講演と、複数のセッションが同時に進められる同時進行セッション、トピックごとの座談会、スポンサーのCM、ネットワーキング、ワークショップ、それにソースコン名物ハッカソンという多彩なアジェンダに沿って進められた。司会、進行は、初日から最終日まで、一昨年、昨年と同じ、ERE Mediaの編集者 Tangie Pettis氏が務め、各講演のスピーカーを順に紹介した。
ソースコンのセッションのなかから、特に興味深かったセッションの内容と、注目すべきツールを紹介する。
さまざまなサーチ方法を駆使してソーシャル探偵になる
ソーサーは候補者を探すのが仕事である。そのためにはSNSやツールを使いこなしてインターネットにあふれている膨大な情報から必要なものだけを見つけなければならない。コンファレンス初日のオープニングスピーチ「ダイバーシティ Just Do It」ではBalazs Paroczay氏(フリーランス・ソーシングブレイン)とVanessa Raath氏(フリーランス・ソーシングトレーナー)の2人がサーチ方法や人材を見つけるための戦略について講演した。両氏によると、SNSの個性を知ったうえで利用すると効果が高く、たとえば、Instagramでは絵文字を使う人が多いので、絵文字サーチを試みるのも一案だという。また、企業マッピングも候補者を見つけるのに効果的な手法であり、そのためのツールを活用することを勧めていた。
【企業マッピングのためのツール2例】
owler.com
crunchbase.com
初日の基調スピーチ「ソーシャル探偵になる」ではソースコンでは馴染みのスピーカー、Dean Da Costa氏(Lockheed Martin社ソーシングリード)が、長年のソーサー経験に基づいてソーシング成功のポイントや使い勝手の良いツールを示教した。
ソーシング成功のポイントの1つは、スタッフィングやソーシングに関するツールボックスを作成することだとDa Costa氏は述べる。自分だけのツールボックスをGoogle上に作り、そこに行けばすべてのツールにつながるようにしておくことで、ソーシングをスピードアップできる。Google ExtensionのSpeed Dialという、ツールボックスを作成するためのツールを活用してもよい。
Da Costa氏は、人材を見つけるには「ソーシャル探偵」になる必要があり、氏名、ニックネーム、家族、画像、スキル、学歴、ソーシャルメディアなど、ありとあらゆる情報を使って候補者を手繰り寄せ、そこからGitHub(https://github.com/)、human predictions(https://humanpredictions.io/)、Swordfish(https://swordfish.ai/)、SeekOut(https://www.seekout.com/)、hireEZ(https://hireez.com/)、AmazingHiring(https://amazinghiring.com/)などのツールを使ってサーチを徹底するという。
ツールボックス作成ツール「Speed Dial」
Dean Da Costa氏のツールボックス
新しいツールとの出会い
Dean Da Costa氏をはじめ、多くのスピーカーがお薦めのツールを紹介していた。ここでは特に利便性の高そうなツールをいくつか共有する。
IDCrawl
「氏名」で検索をかけると、その人が企業のウェブサイトやSNSで使っている写真が出てくる。その写真がどこで掲載されているのかがわかり、そこからさらに多くの情報を入手できる。無料で手軽に使え、精度が高いので、人気がある。
LinkedIn Talent Insights
LinkedInのTalent Insightsは、タレントアクイジションに役立つツールとして、多くのソーサーが推奨している。LinkedIn Talent Insightsを使う利点は、スキル戦略、労働力の配置、パイプライン構築、タレントプール、エンプロイヤーブランディング、市場戦略などを効率的かつ効果的に実行できることである。サービスは有料で、個人使用の場合、年間64.99ドル。
Intrro
リファラル採用は、スキルのマッチング精度が高く、採用後の離職率が低いといった利点があるため、米国では古くから利用されている採用手法である。近年は、社員によるリファラルを円滑に実行できるツールが開発されており、注目を集めている。
その1つは、社員のリファラル採用に特化したエンジンのIntrroである。同社によると、Intrroを利用することで、採用にかかる費用を40%削減し、また、採用にかかる時間を34%短縮できるという。
リファラル採用ができるツールとしては、ほかにHiveFive(https://hivefive.ai/)、TryRoots(https://www.tryroots.io/)などがある。
移り変わるソーサーの役割
2日目の基調スピーチ「これから25年のソーシング」から、リクルーティングやソーサーの役割がどのように変化してきたかを記しておきたい。
ソーサー歴26年のスピーカー、Shally Steckerl氏(LTK社タレントソーシング・グローバルヘッド)は、過去26年の間にソーサーという仕事の役割は大きくなり、重要性が認識されるようになったと話す。優秀な人材の獲得にはソーサーという存在が欠かせないことが企業に認知されている。その間、リクルーティングの世界も大きく変わった。たとえば、応募者のフローは鈍化し、候補者のレスポンスは悪くなった。また、採用マネジャーの候補者に対する態度は不寛容になり、条件をすべて満たさない候補者が最初の書類選考段階をクリアする可能性はほぼなくなった。つまり、候補者の発掘が難しくなっている。
しかし、ソーシングを成功させる有効な手段がないわけではない。その1つはデジタルマーケティングの活用である。四半世紀の間にデジタルマーケティングの可能性は大きく広がった。有料メディア、無料メディア、所有メディアなどを組み合わせて利用することで、ソーシングの成功率が高くなる。また、伝統的な採用手法として知られるリファラル採用も効果が高い手段として積極的に活用されている。先に紹介したようにリファラル採用のためのツールもあり、これらを利用することで条件に合った候補者が見つかる確率が高まる。
ソーシング・ツールは日々増える一方で、ソーサーは常にアンテナを研ぎ澄まして、効率的で使い勝手の良いツールを使う必要がある。しかし、コンタクトを取った候補者から返事が来なければ、前に進むことはできない。その部分を改良する最善策は、個々の候補者のために文面をカスタマイズして、Eメール、テキストメッセージ、SNSを通してマメに連絡を取るという、オールドファッションな手法であることをSteckerl氏は強調していた。
TEXT=Keiko Kayla Oka(客員研究員)