Thoughtworks マーカス・ソープ氏 (グローバル採用責任者)

ツールを最大限に活用したグローバルなリモート採用と、候補者体験の解析で採用の質を向上

2021年10月01日

Thoughtworksは、グローバルに展開しているオーダーメイドのソフトウェア・コンサルタント企業である。従業員は世界中に点在しており、以前から対面ではなくオンラインで効率的な顧客対応を行っていたが、パンデミック以降はより顧客からの理解が得られるようになったという。同社ではグローバルにおけるリモート採用、ポテンシャル採用を目的とした候補者体験の試みや、採用プロセスの解析に取り組んでいる。英国在住でグローバル採用を統括しているマーカス・ソープ氏に、パンデミックが採用活動にどのような変化をもたらしたのか、また今後の見通しなどさまざまな観点からお話を伺った。なお、インタビューを実施した3月以降、採用環境に変化が見られたため、文末に最近の状況を付け加えた。

インタビュアー=ジェリー・クリスピン 翻訳=杉田真樹 TEXT=村田弘美

【Thoughtworks】1993年に設立されたアジャイルソフトウェア開発の草分け的存在であるグローバルIT企業。テクノロジー主導の変革を支援するコンサルティングサービスやオープンソースソフトウェア製品などを提供。世界17カ国、48カ所に拠点を持ち、従業員数は約9000人。

――パンデミックが採用全体にどのような影響を与えたのか教えてください。

Thoughtworksではパンデミック以前から、世界中にいる顧客にどこからでも対応が可能であると説いてきましたが、それを実証することができました。仕事の多くがニアショアやオフショアに移管されました。Thoughtworksでは、これまで北米、英国、ドイツに重点を置いてきました。たとえば顧客の拠点が多いアトランタやマンチェスターに近い場所にオフィスを設置して、就業するスタイルが中心でしたが、近年になってリモートとなり、従業員がオフィスに出社しなくても十分な業績を上げることができたことから、その考え方が変わりました。今では、中国、ブラジル、インドでの採用ニーズが高まっています。

――パンデミック前後で採用人数に変化はありましたか。

Thoughtworksの採用は、社外からの採用が95%を占めています。残りの5%は社内からの人事異動です。従業員の職種は専門性で細分化されているため、内部調達は非常に限定的です。
2020年は採用抑制をしましたが、2021年の回復期に備えることができています。減速はしましたが、減速し始めた3〜4月頃に恐れていたほどではありませんでした。2020年の採用目標は前年よりも微増でしたが目標は達成できませんでした。コロナの影響で最初に打撃を受けたのは中国でしたが、早いスピードで回復しました。そのほかの国では4月から9月まで採用はほとんど行いませんでした。

Thoughtworksでは、パンデミックによって退職した従業員は1人もいませんでしたので、採用も解雇も行っていませんでしたが、最近になって変化が起こっています。10月以降に採用を再開した企業が増えて、多くはありませんが、人材の引き抜きも始まりました。Thoughtworksでも同様に引き抜きを行っています。また、同業他社で解雇された優秀なリクルーターを採用するなど、数は少ないのですが、レイオフ人材に対する採用も行っています。

――環境変化に対応して、採用の組織体制に変化はありましたか。

組織の構造改革にはいくつか取り組んでいます。1つはプログラムチームの拡大です。パンデミック以前の体制では、9割はリクルーティングを担当し、1割がプログラムを専門に担当していたのですが、パンデミック以降は、状況に合わせて全員がフレキシブルに対応するようになりました。これにより採用ポジションごとに毎月同じような採用数を維持できるようになりました。新卒採用については、リクルーター1人あたり1カ月で3~4人を採用しています。プリンシパルクラスなど難度の高い中途採用を含めると、平均で2人くらいの採用です。これは予測不可能という点でも、事業にとってよいことと思っています。

候補者体験の詳細データを解析

――採用テクノロジーなどのツールについては、どのような変更がありましたか。

採用ツールについては、変更していません。Thoughtworksでは、現在は候補者体験のツールを重要視しています。候補者にポジティブな印象を与えられるチャンスは1回のみです。採用プロセス、面接の印象について正確に測定して、必要なデータを解析してくれるツールの活用が成功につながると考えています。
それと、面接の質を測定するツールに注目しています。トランスクリプトをもとに、面接ではどのような会話が交わされたのか、一言一句を把握することで、ポジティブな体験をより正確につかみ識別することができます。

Thoughtworksでは3年間、ポテンシャル採用を目的とした候補者体験プログラムを行っています。候補者の粗探しをするのではなく、個人の能力を開花させ、成長できる分野を特定することに注力しています。新卒採用では、このポテンシャル採用が非常にうまくいっています。弊社の新卒者を対象とした6カ月の研修プログラム「Thoughtworks University」は、管理職の養成、新卒者間の国際文化交流、専門コンサルタントとしての基礎の構築を目指すものですが、グローバル規模で学習と人材開発をする必要が出てきました。

また、次世代に向けて、現在使用しているツールを最大限に利用するための新たな方法を考えています。SeekOut、Hiretualの導入も考えていましたが、その前にLinkedInやGemといったツールを使って効果的な方法ができないか。たとえばダイバーシティの観点で、さまざまなコミュニティに所属するメンバーからのアプローチなど、既にある人的資源を活用して、いくつか試行してみたいと考えています。
今年の計画では、面接官と候補者の時間のブッキングを自動化するツールの導入をして、採用にかかる日数短縮させたいと考えているところです。

――採用にあたって、人材の供給源に変化はありましたか。

現在は拠点のある地域のみで採用活動を行っていますが、グローバルへの対応として、フィンランドとルーマニアの企業の買収をきっかけに、北欧と東欧、オランダでの採用が可能となりました。ソーシングについては、Thoughtworksにはすべての地域を担当する優秀なチームがあり、2021年3月半ばには150人を採用しています。

リモート採用で世界中の面接を可能に

――採用活動はリモート採用を中心とした方法でしょうか。

リモートを軸とした採用プロセスの標準化を厳密に行いました。グローバル全体でうまくいくように万能な方法(one size fits all)となるものを構築しています。以前は地域差がありましたが、各地域のベストプラクティスを特定して、統合した共通プロセスを作成しました。7割を占めているデベロッパーの採用も共通プロセスとして取り入れています。これは、採用スピードや採用成立までに要する時間短縮など、課題解決につながるものになると思います。理論的には世界中のどこでもいつでも面接が行えるようになると思います。夜の19時からの面接では、現地で対応できなくても時差を利用して、その時間が就業時間内である国、たとえばブラジルやインドの従業員が面接を行えるということが、私たちが次に狙っているステージです。特定のツールを利用していますが、既に対面とリモートの差異はなくなっています。質が落ちているという兆候も見られません。新卒採用にはHackerRankやAWSなどを利用してコーディング力を判断します。社内システムや、Zoomも利用していますが、このツールで十分で、何の問題もありません。

――新卒採用への影響はありましたか。

新卒の人数規模は少ないのですが、会社の成長スピードに合わせて、毎年20~25%程度、採用人数を増やしています。前述のとおりですが、大半は地域単位で人材の管理をしています。現在は、地域間の連携の実験を行っているのですが、北米やオーストラリアに留学している中国人の学生が、卒業後に中国に帰国する際に、顧客企業の中国拠点で英語ができる人材として仕事に就くことができるかどうかを試行しています。

――インターンシップは行っていますか。

Thoughtworksでは、セキュリティ上の懸念から、インターンシップは一部の地域のみで限定的に行っています。通常の新卒を対象としたプログラムではありません。ダイバーシティの観点から一部の地域のみでの実験的な取り組みです。たとえばインドでは、職場復帰した女性を対象としたインターンシップを行っています。最新のテクノロジーに触れる機会を与え、修了後にフルタイムの正社員としての登用を目指します。

採用プロセスは他社との差別化を重視

――2021年の採用戦線はどのようになると予測できますか。

基本的には、これまでと変わらないと思います。重要なのはどう他社との差別化を図るかです。たとえば、Thoughtworksは候補者に何をオファーするのか。どのようにマーケティングを行うのか。面接では一貫したメッセージを明確に伝えることができるか。説得力があるか。リクルーターと候補者は面接を通じて良好な関係を築くことができたのか。内定を出す段階では、双方がすべてクリアになった状態で臨むことができるのか、ということです。
リモート採用のプロセスのスピードが向上していることを願っています。ツールの導入による面接機会の拡大は弊社にとってプラスとなっています。一連の採用プロセスを通じて、他社とは異なることを実証し、差別化をはかること、効率的に自社のマーケティングをすることが、採用の中核を担っています。新規採用者を優秀な面接官として早期に育てることができれば、リモート採用の質も向上し高い成果を示すことができると考えています。
チームの全員が勤務時間の10~20%を採用以外のプロジェクトに参加し、自分の能力開発に充てるなど、業務に柔軟性を取り入れることを目標としています。

――パンデミック後は、どのようになると予測していますか。

全体では、面接の質を測るアナリティクスの技術がさらに進化することを期待しています。面接の録画や文字起こしによるデータ分析によって、面接官と候補者それぞれの質問時間、回答時間やその内容などのメタデータを見ることで、面接のスコアリングができます。これまでメモやフィードバックに充てる時間を、候補者との適切な会話やラポールを形成する時間に費やすことができる。面接の質について科学的なアプローチができることは、関係者全員にとって非常に有益だと思います。また、無意識の偏見を最小限にすることが可能になり、合否判定の客観性を高めることができるでしょう。

ポイント
  • パンデミック以降、停滞していた採用活動は、2020年10月以降に活発化し、各所で人材の引き抜きなどが起こるようになった。パンデミック後の人材獲得競争に向けて準備を行っている
  • これまでは、拠点をベースとした採用を行っていたが、北欧、東欧などにも範囲を拡大して、グローバルでリモート採用を実施する
  • ポテンシャル採用を目的とした候補者体験を3年行っている。候補者体験をより科学的に解析することで、さらなる質的向上を目指している
最新情報(2021年9月時点)
  • 9月中旬にニューヨーク証券取引所に上場した
  • 2022年は新卒採用を強化する計画である

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