パンデミックから回復し、成長を続けるギグエコノミー

2022年02月25日

 

毎年秋に開催されるCollaboration in the Gig Economyでは、ギグエコノミーの最新トレンドと今後の動向を紹介する。2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミック、バーチャルのみの開催だったが、2021年は9月22日、23日の2日間、アリゾナ州フェニックスの会場とストリーミング配信のハイブリッドで行われた。スタッフィング・インダストリー・アナリスト(Staffing Industry Analysts、以下、SIA) が主催する同コンファレンスのテーマは、「テック、タレント、サプライヤーの集中」で、セッション数は約50、スポンサー数は24社だった。

Barry Asin氏SIA社長 Barry Asin氏による基調講演

コンファレンスは、SIA社長Barry Asin氏の基調講演で始まり、ギグエコノミーの代表的企業のトップによるパネルディスカッションや、ギグエコノミーのリーダー、新しい仕事の世界、スタッフィング&タレント・プラットフォーム、タレント・アクイジション、法律・コンプライアンスという5つのトラックに分かれた同時進行セッション、ギグエコノミー・シャークタンクに加えて14社のサプライヤーがスピーディーに製品を紹介するセッションが行われた。

ここでは初日に行われたセッションの中から、Asin氏の基調講演の内容とシャークタンクの模様を紹介する。

ギグエコノミーの現状

はじめにAsin氏の基調講演をもとに、ギグエコノミーの現状をみていきたい。

SIAではギグエコノミーをコンティンジェント労働と同義として位置づけており、そこにはSOWコンサルタント(※1)、直接雇用の臨時社員、個人事業主・自営、タレント・プラットフォーム利用者、派遣労働者が含まれる。2020年にギグワーカーとして働いた人は約5,200万人で、米国の労働力人口の3分の1に相当する。
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックから回復途上にあり、雇用は安定的に増加し、失業率は改善しつつある。

ところが、パンデミックの影響によって、働き方を変えようとするワーカーや育児に重点を置く母親らが増えたため、大量自主退職が起こった。米国労働統計局によると、2021年9月の自発的離職者は436万人で離職率は3.0%、同年10月の数字はそれぞれ416万人と2.8%、同年11月は453万人と3.0%である。パンデミック前の2018年から2019年にかけての自発的離職率が2.1~2.4%であったことを考えると、かなり高い数値で推移している。

Asin氏は基調講演のなかで、大量自主退職の結果、労働市場の人材不足が深刻化し、企業の採用担当は頭を抱えている状態にあり、これまでの採用活動を見直さざるを得なくなっていると述べた。そして、企業が選んだ選択肢のひとつが、トータル・タレント・アクイジションである。下図のとおり、正社員、臨時社員、季節労働者、ボランティア、派遣社員、個人事業主、SOWコンサルタント、フリーランサー、オンラインワーカー、クラウドなど、従来からある正社員、非正規社員に加えて、ギグエコノミーといった非雇用の領域などあらゆる就業形態から人材を受け入れるという考えである(図表1)。つまり、ギグエコノミーの需要は今後も拡大すると期待される。

図表1 トータル・タレント・アクイジション

図表1 トータル・タレント・アクイジション出所:Staffing Industry Analysts

ギグエコノミーの重要なプレーヤーである派遣会社に目を向けると、市場が成長するにつれて、細分化と専門化が進んでいることがわかる。米国には2万社弱の派遣会社が存在するが、そのうち1万社以上は年商100万ドル未満である。2021年の派遣業界全体の収益は1,376億ドルで、専門分野別ではITと工業の収益が高く、次いで医療、オフィス・事務、金融・会計、エンジニアリングと続く(図表2)。最近の動きとして、派遣会社は、独自のプラットフォーム戦略を立ち上げ、急成長を遂げているタレント・プラットフォームに対峙しようとしている。

図表2 専門分野別派遣市場

図表2 専門分野別派遣市場出所:Staffing Industry Analysts

Asin氏によると、派遣会社がプラットフォーム戦略を実行する際、投資、M&A、SPaaS(Staffing Platforms as a Service)、内部開発という4つの手段が考えられるという(図表3)。

図表3 派遣会社によるプラットフォーム戦略

図表3 派遣会社によるプラットフォーム戦略出所:Staffing Industry Analysts

一方、タレント・プラットフォームは世界に500社前後あるが、上位12社が世界市場の61%の収益を占めているのが特徴的である(図表4)。Asin氏はギグエコノミーの分野では、今後も派遣会社やタレント・プラットフォームによる融合と破壊的変化が進んでいくと予測している。

図表4 タレント・プラットフォーム市場

図表4 タレント・プラットフォーム市場出所:Staffing Industry Analysts

 

シャークタンク

次にギグエコノミー・シャークタンクを紹介する。事前選考を受けたスタートアップ4社が制限時間5分でプレゼンテーションを行った後、ジャッジと6分間の質疑応答を行い、勝者2社を決定する。1社はジャッジが選ぶギグエコノミー・シャークタンク賞、もう1社はオーディエンス・フェイバリット賞で、会場での投票数が多かった会社に送られる。今回ファイナリストに残ったのは、Glider AI, Inc.、Mothership、myBasePay、そしてWillHireだった。
ファイナリスト企業の概要は図表5の通りである。

図表5 2021年ギグエコノミー・シャークタンク・ファイナリスト

2021年ギグエコノミー・シャークタンク・ファイナリストクリックして拡大

ギグエコノミー・シャークタンク賞は、企業が警戒を強めている、候補者による詐欺行為に着目して公正・公平なリクルーティングの実現に寄与し、かつ、就職率の改善と採用にかかる時間の削減も可能にしているGlider AI社が受賞した。オーディエンス・フェイバリット賞は、多様性の高い会社であることなどが評価された myBasePayが受賞した。

ギグエコノミー・シャークタンク賞

今回のコンファレンスでは、14社のサプライヤーが2分半で自社製品を紹介する「スピードサプライヤーズ」というセッションが新たに加わった。短い時間ながら、興味深い製品を紹介していた会社もいくつかあった。いずれも急成長を遂げている有望企業であり、これらの会社が近い将来ギグエコノミーの主要プレーヤーになり得ることは間違いないだろう。

 

(※1) SOWとはStatement of Work の略で、明確な契約に基づいて短期のプロジェクトベースで専門サービスを提供するコンサルタントのこと。

 

TEXT=Keiko Kayla Oka (客員研究員)

 
 

 

 

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