人材サービス市場は「より強固に、より良く、より速く、より強く」

2022年03月24日

Staffing Industry Analysts(以下SIA)主催による、人材サービス企業の経営者向けのコンファレンス、SIAエグゼクティブフォーラム欧州が2021年11月17日にロンドンで開催された。セッション数は6と少なめで、登壇者の多くはSIAのリサーチャーであった。各セッションのテーマは、下記のとおりである。

  • 欧州へ事業進出を考える人材サービス企業に向けて、欧州市場の魅力度をランク付けしSIAの見解を提供したセッション
  • 人材サービス市場における多様性、平等性と包括性への取り組みや、それを促進するテクノロジーの活用状況を概観したセッション
  • 人材サービス企業の顧客接点がある部署で選ばれているソフトウェアを解説するセッション

本コラムでは、SIAグローバルリサーチ エグゼクティブダイレクターのJohn Nurthen氏による基調講演の内容を紹介する。テーマは、「より強固に、より良く、より速く、より強く」。講演は、コロナ禍からの回復、自動化の促進、効率化、共感性の高まりと、人材サービス事業における需要の回復や、M&A、テクノロジーへの投資、RPAや急成長する各プラットフォームへの期待について、その背景やデータを中心に語られた。

2021年の人材サービス市場は各国で堅調な成長を見せた

英国の人材サービス市場は、2021年第一四半期から回復が続き、求人数はパンデミック以前の水準へと戻っている。英国国家統計局によると、2021年11月16日付の求人数は120万件と新記録を更新し、労働市場は深刻な人材不足に陥っている。その理由として早期退職者の増加、労働者のキャリア選択の再検討、自動化などが影響しているといわれている。企業は自力で人材を確保することが難しいため、費用をかけて人材サービス会社を利用する傾向にあるという。

主要国の回復状況と2022年の市場予測を確認すると、いくつかの傾向がみられる(図表1)。2020年にパンデミックの影響が大きかった英国、フランス、米国、オーストラリアは、その反動から強く回復している。ただし、2019年と同じ水準まで回復するのは2022年になると予測されている。コロナ禍でもそれほど影響の少なかったドイツ、オランダ、イタリア、スペインは、好調に推移している。日本は唯一、2020年も成長を続けた市場であり、2021年から2022年にかけても好調な成長が予想されている。

図表1 主要国の人材サービス市場の収益図表1 主要国の人材サービス市場の収益出所:Staffing Industry Analysts: Global Staffing Industry Market Estimates & Forecast, November 2021

34カ国で仕事探しに最も利用されているのは、人材サービス会社

近年は、仕事探しの手段が多様化している。求職者は、Googleでのキーワード検索やLinkedInに投稿される求人情報など、ITを活用した新しい方法で仕事を探せるようになった。Randstadが2019年と2021年に行った調査では、34カ国の社会人約1万人に、仕事探しに効果のあった方法を聞いている。2021年の結果は、高い順に、人材サービス会社(44%)、求人求職サイト(32%)、Google(25%)、企業のウェブサイト(19%)、LinkedIn(18%)、公共職業安定所(13%)、ジョブフェア(13%)と人材サービス会社を利用した人の割合が最も高い(図表2)。2019年の37%から、2021年には44%へと利用率が7%ポイント増加した(複数回答)。ただし、新たな競争相手も出現している。例えば、世界の16~64歳のインターネットユーザーの18%が利用していることに加えて、個人に適した情報を配信する機械学習の世界的なリーダーであるTikTokが求職機能の試験プロジェクトを行っており、まもなく実装されるという。人材サービス会社にとって強力な競争相手になる可能性がある。

また、人材確保が難しく、海外からも人材を調達できないのであれば、将来的にはリモートワークを活用した労働力確保策について検討、拡充していく方向になる、と推測される。

図表2 仕事探しに利用した方法(%)図表2 仕事探しに利用した方法(%)出所:Randstad Research: Finding Work in the Labour Market, September 2021

人材サービス会社によるHRテクノロジーの買収と投資

人材サービス会社が、採用テクノロジー企業を買収する動きが目立つ。具体的には、求人求職サイトや採用チャットボット、スキルテスト、さまざまなプラットフォームへの関心が高まっている。また、人材サービス会社によるHRテクノロジーへの投資意欲も高まっている。図表3は、人材サービス会社を対象に、2021年時点で、今後1年間にHRテクノロジーのどの領域に投資をする予定があるかを聞いたものである。縦軸は、HRテクノロジーへの投資を増やす予定の企業の割合、横軸は、今後も利用を続ける企業の割合(HRテクノロジーの普及率)を示している。右上にあるほど、企業の利用率が高く、今後も投資されることを意味する。「携帯電話のメール/Eメールテクノロジー」へ投資する予定の企業が最も多く、「ソーシング自動化ツール」や「ソフトウェアインテグレーション」「アナリティクス&ベンチマーキング」に投資をする予定の企業も多い。

図表3 人材サービス会社によるHRテクノロジー領域への投資計画(1年間)図表3 人材サービス会社によるHRテクノロジー領域への投資計画(1年間)出所:Staffing Industry Analysts: Staffing Company Survey (Global Findings) 2021

SIAによると、人材サービス領域のプラットフォームは、一般的な「採用テクノロジー」と、人材サービス会社向けの「人材サービスプラットフォーム」の2種類ある(図表4)。採用テクノロジーは主に候補者を発掘するためのもので、人材を探す「タレントプラットフォーム」(例:Upwork、Fiverrなど)と、業務を委託依頼するための「業務委託プラットフォーム」(例:Uber)がある。タレントプラットフォームの中には「クラウドソーシング・プラットフォーム」(例:Amazon Mechanical Turk)と、「タレントプラットフォーム・アグリゲーター」(例:KellyOCGのHuman Cloudなど)がある。

図表4 人材サービス領域のプラットフォーム図表4 人材サービス領域のプラットフォーム出所:Staffing Industry Analysts

タレントプラットフォームは小規模だが、企業がリモートワーカーを探す際に利用されたことで、大きく成長している。パンデミック当初、米国で人材派遣業の収益が11%減少した一方で、タレントプラットフォームの収益の成長率は21%であった。

人材サービス領域のプラットフォームは、人材サービス企業が顧客企業に紹介する人材を迅速に探す。正規雇用の人材を探すための「採用プラットフォーム」(例:Robert HalfのRH Direct、AdeccoのHiredなど)と、臨時雇用の人材を探すための「人材派遣プラットフォーム」(例:AdeccoのAdia、リクルートのAvailatemp、独立系のWonoloやJobandtalentなど)がある。人材派遣プラットフォームは、業種や職種に特化したものが多く、米国では医療系の市場が2020年第二四半期以降、需要が急速に高まり、急拡大している。たとえば、Aya Healthcareは看護師を臨時的に派遣し、宿泊場所の確保や光熱費の支払いなどの付加的なサポートも行う。

現代はVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)時代と呼ばれ、先行きが不透明な時代には柔軟性が求められる。Nurthen氏は「人材サービス業界には柔軟性があり、企業を支えるための完璧なポジションにいる。自動化と効率化が進んだことで、より多くの需要があると自信を持ってよい」と締めくくった。

取材・翻訳=坂井裕美、TEXT=石川ルチア