ソースコン・ブタペスト参加報告
ダイレクトリクルーティングで使えるテクノロジーと口説きのテクニック
ソースコンは、採用担当者の中でも人材を積極的に発掘する「ソーサー」のためのコンファレンスである。求人広告への応募を待つのではなく、欲しい人材を探して応募させるのが仕事で、普及し始めてから10年を過ぎ、欧米では一般的な職種となった。これまでは年に2度、米国で開催されていたが、今回初めて欧州でも開催され、ソーサー人口の増加が窺える。
全部で20あったセッションは、ジュニア・ソーサー向けの「ソーサーとしてのキャリアの築き方」、HRリーダーのための「ソーシングチームを立ち上げる前に知っておきたい10のこと」、IT人材の興味の引き方を伝授する「開発者が使うツールを応用して接触するクリエイティブな方法」というように、ソーサーの熟練度によってテーマが設けられていた。
ソーサーは、採用プロセスの初期段階で活躍する
ソーサーの業務内容については、シドニーメトロの組織戦略マネジャー、クリス・ロング氏が実施した調査結果でよくわかる(図1)。「毎日」あるいは「週に2~3回」という頻度で行う業務は、求人が発生する前に自社に適した人材を発掘する「先回りしてオンラインで候補者を特定(89%)」や、発掘した人材が要件を満たし、かつ自社での仕事に興味があるかを確認する「電話審査(80%)」、求人が発生する前、あるいは発生後に過去の応募者から適材を探す「先回りのATS検索(52%)」と「受け身のATS検索(43%)」など、採用プロセスの初期段階における業務である。
上記の結果に沿うように、ソースコンの主な焦点はソーサーが最も頻繁に行う業務、つまりインターネットやテクノロジーを活用して人材を見つける方法や、接触した人材といかにして関係を構築して自社へ興味を持たせるか、といったノウハウの共有である。
ソーサーでなくても活用したいツール
ロング氏らソーサーがさまざまなツールを使ってみた結果、良かったものを推奨するセッション。今回は、2019年に開業するオーストラリア初の地下鉄、シドニーメトロが3,500人を採用するにあたり活用したテクノロジーの紹介があった。20のツールが次々に紹介されたが、ここでは、その中でも汎用性が高いものを3つ紹介する。
Phantom Busterはウェブ上、主にSNSからデータを抽出してリスト化するツールである。たとえば、採用したい職種の人たちの間で影響力がある人のツイッターのフォロワーや、その影響力のある人がフォローしているアカウント、リンクトイン・グループのメンバーなどをリスト化してくれる。履歴書データベースには登録していない候補者のプールを集めたいときに便利だ。
Accompanyは、Gメールの予定表でこれから会う人について、ウェブ上にある情報をまとめて表示する。また、アドレスブックに登録している人と会社の関係を分類して表示する‐‐在職期間が長い人、会社設立初期の従業員、買収で加わった人、将来が期待できる人、人を引き合わせることに長けた人、競合他社で働く人、など。日々、多くの人と会うリクルーターにはうってつけのツールである(※)。
IFTTT(イフト)は、あらゆるデバイス、アプリ、SNS、スマート電化製品、ウェアラブル端末などをつなげて自動でタスクを完了するツールである。たとえば、リクルーターがスマートフォンで候補者に電話をかけると、日付や電話番号などをグーグルシートに自動で記録していくといったルールを設定できる。IFTTTは複数のセッションでソーサーが言及しており、非常に使い勝手が良さそうだ。
Gates Solutionsのシニア・タレント・ソーサー、ギョーム・アレクサンダー氏は、Phantom BusterやIFTTT、その他複数のツールを巧みに使い分けて、短時間で大量の候補者を発掘・精査している。採用対象の職種の間で利用率の高いSNSへ行き、たとえばGitHubやMeetupから関連するグループのメンバーリストを取得する。そのリスト上の名前を「OR」でつなげてリンクトインで一気に検索をかけ、最低限のクリックでプロフィールを手際よく確認する手順を披露した。
ソーサーが使うツールは、必ずしも採用活動向けに開発されたものではない。新しいテクノロジーにアンテナを張り、ソーシングに応用できるかどうかが、ソーサーとしての成功にかかっている。
ソーサーは検索と口説きの達人
アレクサンダー氏は、ソースコンが年に1度開催しているソーシングチャレンジの上位常連であり、採用のプロというよりも検索の達人という印象だが、候補者からの返信率が70%を超えるという。ソーサーの仕事は候補者検索にとどまらない。適切な人材を特定したら、接触を試みて自社への応募を促さなければならない。返信率80%を謳うシャミーラ・ヴァン=ダー=トレン氏が、その秘訣を共有した。
同氏が対象とするIT系の人材には、リクルーターからのスカウトメールが絶えない。多くはスパム扱いをされ、返信どころか開封もされない。ソーサーは、候補者の発掘と同じだけの労力を、接触する際にかけなければ、採用につながらない。ヴァン=ダー=トレン氏は、代表的な問題点を3つ挙げ、それぞれに対して実践している手法を紹介した(図2)。
たとえば、ヴァン=ダー=トレン氏は、社内のディベロッパーに協力してもらい、候補者がCodePenで公開しているコードに手を加えて、一部を自社のロゴに入れ替えた画像をスカウトメールに添付した(図3)。すると、本人からもっと話を聞きたい旨の返信があったという。
ソースコンでは、組織的に採用改革に取り組む先進的な事例も聞ける
ソースコンは、ソーサー個人の工夫やテクニックを学ぶのに最適な場である。それだけでなく、組織全体で取り組んだ採用変革を紹介する講演もある。たとえば、昨年のソースコンにも登壇したドイツ鉄道の、その後に関するセッションである。この5年間で従業員の3分の1を入れ替えてデジタル変革を図っている同社では、データやアルゴリズムを活用してTAチームと経営陣が建設的な議論を交わしている。TAチームに450名を動員し、いずれは会社の戦略的判断に影響力を持つ存在になるべく進化を続けているという話を聞くと、古い体質のイメージがある大企業もめまぐるしく変化していることがわかる。
「革新的なHRテクノロジー」はそう簡単には現れないが、ソースコンには新しいテクノロジーとともに歩んでいるソーサーが集まり、規模が程よいため、欧米での最新の採用手法に関する情報収集には適しているだろう。
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※ Accompanyは2018年5月Ciscoに買収され現在は機能統合中で、新規顧客を受け付けていない