あなたの組織に口ぐせはあるか? 城倉亮

2016年09月28日

「組織開発って何なのか、よくわからないんですよね」

ある大手企業の人事担当者との会話で出てきたコメントだ。組織開発に注目が集まり、このテーマで人事担当者と意見交換する機会が増えている。しかし、組織開発という言葉が十分に定着しておらず、何を指す言葉なのかはっきりしていない。そのため、十分な組織開発への取り組みもなされず、組織の活力に悪影響が出てしまっている。

なぜ、組織開発が注目を集めるのか。そして、なぜ、十分に定着していないのか。

いま組織開発に注目が集まる理由

組織開発は様々な定義がなされているが、本コラムでは、「組織全体を対象として、組織有効性と健全さを向上させるために、行動科学の知見を背景に、計画的に介入を行うこと」というBeckhard(1969)の定義を参考にしたい。

つまり、組織開発とは、単なる人の集まりを有効に機能させるためのあらゆる取り組みであり、その範囲は多岐にわたる。組織デザインといった組織そのもののあり方もその手段の一つであるし、職場の飲み会といったインフォーマルなコミュニケーションの場を通じて組織のまとまりをつくろうとする取り組みも、組織開発の手段である。日本企業では、過去、組織開発とは認識されてこなかったが、様々な組織開発の取り組みがなされて、組織の凝集力を高め、強い組織を形成してきた。

しかし、ビジネス環境が変化し、同質性の高い組織が特徴であった日本企業は、変化スピードの早いグローバルビジネスに対応できず、失われた20年を迎えることとなった。その後、ダイバーシティを掲げ、多様性のある組織を志向してきた。変化の激しい時代だからこそ、多様性のある組織だからこそ、組織のベクトルを一致させ、組織の変化対応力を高めて、強い組織になることが求められるようになっている。しかし、ダイバーシティな組織における組織開発のノウハウはまだ十分に蓄積されていない。そのため、いま改めて組織開発に注目が集まるようになってきたのだろう。

口ぐせは組織の状態を表す一つの指標

では、組織開発を通じて本当に組織は同じ方向を向けているか。それをチェックする一つの指標となるものが、組織の口ぐせではないか。組織の口ぐせとは、ある組織のなかで、日常的に繰り返し使われる言葉・フレーズを指す。たとえば、サントリーグループのバリューの一つでもある「やってみなはれ」は、そのチャレンジ精神が表出した口ぐせである。また、リクルートグループでは「で、おまえはどうしたいの?」という口ぐせがあり、人材マネジメントポリシーにある「圧倒的な当事者意識」を問う姿勢が垣間見える。トヨタ自動車には「現地現物」や「横展」といった多くの口ぐせがあるなど、強い組織とされる会社にはこのように口ぐせがある。

ウェイやバリュー、行動指針は多くの企業で策定されている。そこには組織としての「こうあるべき」「こうあってほしい」という思いが込められている。組織の方向性を一致させるために、ウェイやバリューといった価値観を共通化することは重要だ。しかし、ウェイやバリューが形骸化し「きれいごと」や「建前」になってはいないか。時間をかけて自然と組織に定着した口ぐせと全く異なる方向を向いていれば、掲げられたウェイやバリューは単なる「きれいごと」でしかない。口ぐせがウェイやバリューと同じベクトルになってはじめて、その組織開発は順調に進んでいるのではないか。組織開発は成果が見えにくいからこそ、何かを指標にして状態をチェックしていくことが重要だ。口ぐせはそのチェック機能の役割を果たすだろう。組織開発を進める上で、改めて自分たちの組織の口ぐせは何か、考えていただきたい。

最後にある企業の人事担当の口ぐせに関する印象的な言葉を紹介したい。

「私たちは「どうせ」と言わないようにしています。「どうせ」が口ぐせになってしまったら、何も進みませんから」

あなたの組織の口ぐせは何だろうか?

城倉亮

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