いま改めて組織文化を考える 城倉亮
「まずバリューをつくること。それが大事だと思っています」
あるベンチャー企業の経営者の方に「ベンチャーの人事に大事なことは何か」と聞いた際に出てきたコメントである。
この数か月間、十数社のベンチャー企業の経営者や人事担当と、人事の課題についてディスカッションしてきた。その際に、多くの会話ででてきたキーワードが、社員が共有すべき価値観であり行動規範であるバリューであったことは興味深い。
ある企業の取締役からは「まず、組織のバリューが必要だと思って策定しました」という話を聞き、またある企業の人事担当は「バリューがなかったことが原因で業績悪化を防げませんでした」とまで話していた。
事業を進めていくうえで、バリュー策定の重要性が強く認識されているということだろう。重要な役割を果たすバリューを考えるうえで、鍵になってくるのが、組織文化だ。
組織文化は、「組織内で共有され、暗黙の前提となっている価値観・信念・行動規範の体系(システム)」(Works72号)であり、組織行動の分野で著名なスティーブン・P・ロビンス氏は、その著書『組織行動のマネジメント』で組織文化の特徴、人々への影響、その機能などをまとめており、機能のひとつとして、「従業員の態度や行動を形成しガイドする管理と意味づけのメカニズム」を挙げている。つまり、バリューを考えるうえで組織文化は重要な構成要素であり、組織文化と一貫性のあるバリューは、事業の成長を根底から支える軸となる。
では、バリューに大きな影響を与える組織文化はどのようにして生まれてくるか。
組織文化はつくるもの?
ロビンス氏は「組織の文化は何もないところから突然生まれるわけではない」とし、「文化はいったん定着すると、消えてなくなることはまれである」としている。一方で、「組織の文化の究極の源は組織の創立者」であり、「創立者の特定の考えと最初の従業員たちが自分たちの経験から学んだものの相互採用の中から組織文化が生まれる」。つまり、会議室で議論を重ねて理想的な文化が「つくりだされる」ものではなく、創業者を中心としたメンバーの行動から「紡ぎだされる」ものが、組織文化である。
徹底して顧客満足を追求することで有名なザッポスのトニー・シェイCEOは、従業員から自社の文化についての意見を募り、カルチャーブックを作成した。従業員から募る形式をとることで、暗黙知となっていた組織文化を従業員と一緒に紡ぎ、一貫した強い文化を形成している事例だろう。
バリューと組織文化の一貫性
事業をはじめるにあたり、組織のバリューを定める重要性が改めて認識されている。特に成長が鈍化し、新たな事業展開が必要になった際に、価値観のよりどころとしてバリューが力を発揮する。
しかし、そのバリューが活きたものになっているか。バリューの策定が形式的ではないか。
どんなにきれいなバリューをつくっても、そこで働く人々が形成する組織文化とフィットしなければ、逆に、組織の行動に歪みを生む。壁にぶつかったときに、バリューが機能せず、組織がバラバラに砕ける。いま掲げているバリューは魂のこめられていないきれいな言葉を並べているだけになっていないか。バリューの価値が再認識されている今だからこそ、根底に流れる組織文化を意識しながら、継続的な成長を実現できるバリューづくりが求められる。
城倉亮
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