人口減少時代の採用成功の秘訣 田中勝章
採用は人材要件がキモ。それはわかっているけれど。
「母集団をできるだけ増やし、その中で目標人数分だけ上澄みを採用する」
日本企業の多くが、特に新卒一括採用で目指してきたやり方だ。しかし、学生の認知度は消費者向け商品・サービスを取り扱っている大手企業には到底かなわない・・・。一方でピンポイントの中途採用。現場からの詳細な要件を提示され、あらゆるメディアや人材紹介会社に当たるも、そもそも採用市場に出てきていない。ようやく見つけた採用候補は、自社の雇用条件には見向きもしなかった・・・。
「自社の採用ブランドがもっと高ければ」「もっと有利な雇用条件を提示できたら」「人手がもう少しあれば」出した内定を断られる回数も減っただろうし、いつまでも採用活動中のポストが埋まらないということもなくなったかもしれない。
それでも人事は限られた採用リソースをやりくりしながらできるだけいい人材を採用するべく募集・選抜というプロセスを磨いてきた。マーケティングという側面からみた採用活動において、その起点となるのは「誰を採るか」ということであることは同意していただけると思う。では世の中の企業はいわゆる人材要件をどのように決めているのだろうか?
何を見て人材要件を設定しているのか
リクルートワークス研究所の人材マネジメント調査2015によると、人材像の明確化を行う際に確認する項目の上位は、新卒採用では「自社らしい従業員像」(80.1%)、「中期経営計画」(59.1%)、「組織風土・文化」(59.1%)であり、中途採用においては、「中期経営計画」(52.8%)、「事業部長へのヒアリング」(50.0%)、「自社らしい従業員像」(48.3%)となっている。
しかし、ここで私が着目したい項目が他にある。育成に関する項目だ。
同調査・同項目においては従業員の長期的な育成方針(新卒48.9%、中途20.5%、以下同順)、従業員の短期的な育成方針(21.0%、23.3%)、現場の人材育成方針(33.5%、27.8%)となっている。決して低くはないものの、上位項目群と比べると半分程度かそれ以下である。
私は今後、2つの大きな外的要因によって、多くの企業にとってこの項目の重要度が格段に上がると考えている。その一つは、事業環境変化のスピードだ。競合との競争の激化と言い換えることもできるかもしれない。
当たり前のことではあるが、採用における重要な目的は、事業への貢献だ。それぞれの企業において事業価値の向上につながるための要件が異なるからこそ、各企業での採用ターゲットが異なってくる。将来の活躍要件を精緻に予測することは難しいが、それでも苦心して多くの企業が仮説を置き、要件を設定しているだろう。変化のスピードが上がるということは、求める要件や価値の発揮を"適切な時期"にもたらす、ということが難しくなる。活躍要件を持った人材を採用できたとしても、事業が求める時期に成果を出すことができなければ、しょせん絵に描いた餅にすぎなくなってしまう。
「だからこそピンポイント採用に取り組んでいる。しかしその要件を満たす人材がいないのだ」という声が出そうだ。そこで重要になるのがもう一つの外的要因である、労働市場の需給変化だ。特に声を大にして言いたいのは今後人口は急激に減っていくということだ。現場のニーズを満たす人材を探していても、なかなか採用市場で見つからない。そうこうしているうちに半年も、1年もポストが埋まらないということはこれまで以上に起こりうる。しかもこれからは、「いつかは出てくるはず」という可能性がむしろ時間が経つほどに低くなるのである。「採れない」ということは、「時機を逃す」という観点から見れば、機会損失を拡大していくことに他ならない。優秀な人材を採用すべく頑張り続けるという期間が長くなれば長くなるほど、事業にもたらすであろう価値を減らし続けるということになってしまうのである。要は、採用時の人材要件を高望みしすぎることは大きなリスクなのだ。
募集選抜のスペシャリストではなく、人材調達のプロへ
何が言いたいのか、というと、採用と育成によって適切な質・量の人材を適切な時期に確保することを考えた場合、「自社の育成力」が採用の前提を決める大きな要因になるということである。
それは、何を育成できるのか、ということに加えて、「いつまでに可能か」という見極めこそが大きな意味を持つことになる。これからは、時間というものが、採用に関わる方たちへもっとシビアなものとして、ひりひりと肌を刺すようなものとして迫ってくるかもしれない。
どこまでを採用で求め、何を育成で伸ばすのか。このデザインこそが採用の成否を決するのである。
田中勝章
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