「働き方改革」が実現できない組織 城倉亮

2017年02月17日

「今年はうちも働き方改革に取り組むんですよ」
今年に入って企業の人事担当者と話していると、必ずと言っていいほど耳にするコメントだ。いま、空前の働き方改革ブームである。これまで労働時間の削減や多様な働き方の実現に対して積極的ではなかった企業も、一斉に取り組もうとしている。これまでも日本人のワーカホリックな働き方は疑問視されてきたが、ここまで働き方に注目が集まることはなかった。しかし、働き方改革はその取り組むべき範囲が幅広い。企業は、実際に何を取り組もうとしているのか。そして、その働き方改革は実現できるのか。本コラムでは、働き方改革を企業人事の視点で捉えたい。

あなたの「時間」と「空間」を解き放つ「働き方改革」

働き方改革は大きく2つに分類することができる。1つは「空間」の働き方改革であり、もう1つは「時間」の働き方改革である。
「空間」というのは、例えば、オフィスのフリーアドレス化やリモートワーク、サテライトオフィスの設置といった施策が該当するだろう。PC1台とネット環境さえあれば、どこでも働けるような仕事が増え、ワークプレイス≠オフィススペースという概念が成立するようになってきている。
そして、もう一つの「時間」の観点では、長時間労働の是正を主要なテーマに、ノー残業デー、一斉退社時刻の設定や業務プロセスの見直し、といった施策が実行されている。また、複業の解禁も、企業が個人の時間的拘束をやめるという観点から「時間」の働き方改革と言えるだろう。

このようないくつもの施策が行われようとしているが、施策を導入すれば、働き方改革が実現するわけではない。導入された制度を利用する社員は増えず、実態として何も変わらないケースも現実に出てきている。組織が変わることが必要だ。組織のメンバーの考え方や行動が変わらなければ何も動かない。その観点からすれば、働き方改革は一つの組織変革なのである。では、改革をうまく実現する組織とそうではない組織の違いは何か。どうすれば、実態を伴う改革が実現できるのか。働き方改革を組織変革の一つとして捉え、組織変革プロセスから改革を妨げる要因について検討したい。

働き方改革を妨げる3つのポイント

組織変革において、「どのようにすれば成功するか」といった書籍、研究は多くあるが、阻害要因を研究したものは少ない。そのなかで、J・P・コッターは、組織改革を妨げる要因として「8つの落とし穴」を挙げている(図表)。この「8つの落とし穴」の中でも働き方改革において、特にポイントになるであろう3つの項目を挙げたい。

図表:組織変革の8つの落とし穴
出所:J・P・コッター(1999)「リーダーシップ論」

①緊急課題であるという認識が不徹底
「他の会社はどのような取り組みをしているんですかね」
ある企業の人事担当者から聞かれた質問だ。世の中の流れを受け、仕方なく、働き方改革を実施してはいないか。他社と比較して、うちもこれくらいはやっておこう、という発想になっていないか。これからの労働力人口の急速な減少やグローバル競争にむけて、多様な人材の確保は、待ったなしである。そういった人材確保への危機感を持って、新しい働き方を導入しようとしなければ、実際の改革はうまくいかない。

③ビジョンの欠落
あなたの会社における働き方改革は何を目指しているか。目的は、社員に伝わっているか。組織には変わらないでおこうとする慣性が働く。明確なビジョンがないまま、施策だけを進めていても形式的な施策の導入に留まってしまう。

⑥計画的な短期的成果の欠如
小さな成果を共有する仕組みがあるか。施策を導入していても、それによる自分たちへのメリットを感じられていなければ、変革の動きは止まってしまう。変化には不安がつきものである。「この変化は間違っていない」と実感できるようにするためには、小さな成功を共有し、推進する仕組みが必要である。

その働き方改革のビジョンは何か。組織全体で危機感を共有できているか。メンバーが確信を持って動き続けるための成果を共有する仕組みはできているか。
いま、日本中の企業が働き方改革に取り組んでいる。どうすれば実現することができるか。
いまこそあらゆる企業が変わらなければならない。

城倉亮

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