フランスのグローバル企業における採用の変化と新たな専門家の台頭 碇 邦生

2017年02月06日

グローバル化で変わるフランスの採用

近年、フランスの大企業では採用が変わりつつある。パリの人材会社の役員は、ビジネスのグローバル化とデジタル技術の発展によって、伝統的な採用制度に捉われず、採用を世界規模で考える企業が増えてきたと述べる。特殊な学歴制度や解雇規制の厳しさ、言語の壁から、独自の制度を持っていた。しかし、グローバルビジネスで活躍できる人材を獲得するためにフランスの特殊事情に捉われず、採用を変革させている企業が増えてきている。その象徴が、タレント・アクイジション・マネジャー(以下、TAマネジャー)という専門家の登場だ。
本コラムは、フランスの大企業9社の採用責任者を対象にしたインタビュー調査を通して浮き彫りになった、タレント・アクイジション・マネジャーという専門家の役割について検討する。伝統的な制度に捉われず、事業戦略の変化に応じて変革させていく戦略的な採用の在り方から、日本企業への示唆となるものを考えてみたい。

タレント・アクイジション・マネジャーの3つの役割

インタビュー調査を通して、TAマネジャーは大きく3つの役割を持つことが浮き彫りになった。1つ目の役割は、優秀な人材を惹き付けるために組織を変革していく推進者だ。保険会社X社では、TAマネジャーとは、人事よりもビジネスに近く、ビジネスを成功に導く人材を獲得するために、人事をリードし、組織を変革していく専門家であると述べられた。例えば、金融会社N社では優秀なトレーダーを惹き付けるためにシリコンバレーのようなカルチャーを取り入れ、組織文化を大きく変革していた。カフェのようなオフィスで、Tシャツ姿でパリのオペラ座を窓から眺めながら仕事をする金融マンの姿は日本の常識とは大きく異なっていた。

2つ目の役割は、採用ブランドの構築である。重工業メーカーG社では、採用ブランドとして、競争優位の源泉となる人材の価値軸を明らかにすること、育成や評価など、他の人事制度や施策を採用ブランドと整合させることの2点が重要であると語られた。魅力的なメッセージを発信したとしても、実際に働いてみたらそうでもなく、失望、落胆してしまうことが少しでもあると、採用ブランドは瓦解してしまう。
また、エンジニアリング会社のX社では、全世界で共通した採用ブランドを構築することの重要性が語られた。世界各国の採用担当者や面接官を対象としたワークショップを実施することで情報を吸い上げ、採用ブランドを定義し、共通認識を徹底するためにデジタル・ツールを用いることで、強固な採用ブランドの構築を図っている。

最後の役割は、グローバルな視点で考えることだ。重工業メーカーD社では、本社を中心に考えるのではなく、全世界を基準として思考することの重要性が強調された。フランスの特殊性に固執していては、グローバルビジネスで活躍することのできる人材を獲得することが難しい。TAマネジャーが率先してグローバルな視点を持ち、従業員の意識変革を牽引していく重要性が語られた。
同様に、輸送機械メーカーN社においても、グローバルな労働市場で優秀な人材を獲得するために、フランスの特殊事情に固執しがちな従業員の意識変革をしていかなくてはならないと強調された。英語への抵抗感をなくし、海外でのビジネス経験に対しても積極的な姿勢を持つようにグローバルな感覚が求められる。
TAマネジャーの役割をまとめると、グローバルビジネスを成功に導く人材を獲得するために組織を変革していく、組織作りの専門家であると言える。企業競争力の源泉として人材の重要性が高まる中、優秀な人材を惹き付ける魅力ある組織を作るために、TAマネジャーはフランス企業のみならず、日本企業でも求められる専門家であるだろう。

碇 邦生

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