ベトナムにおけるキャリア教育政策と発展動向に関する研究

HUYNH PHI THANH(フインフィタイン)氏

2025年03月31日

ベトナムでは、教育が国家の最重要政策として位置づけられ、優先的に資源が配分されるとともに、継続的な改革の対象となっている。政府は教育の発展を促進するため、様々な政策や法規制を制定しており、中でもキャリア教育は特に重視され、集中的な取り組みが展開されている。

その象徴的な施策のひとつが、2013年11月4日に公布された「第29-NQ/TW決議」(第XI期中央委員会第8回総会「教育・研修の根本的・包括的刷新に関する決議」)である。この決議では、初等・中等教育における知的・身体的な発達の促進、国民としての資質・能力の形成、才能の発掘・育成、そしてキャリア指導の強化が明確な目標として規定されている。

1. キャリア教育の定義

2019年教育法第1章第9項によると、キャリア教育とは、学習者が職業に関する知識を得るとともに、自身の希望や適性を社会の労働需要と照らし合わせ、適切な職業選択ができるよう支援するための仕組みである。

この定義に基づくと、キャリア教育は学校内だけでなく、学校外の活動も含めた総合的なプロセスと理解できる。このプロセスでは、職業に関する専門知識の提供、学習者が自分の能力・適性・興味を理解するための支援、そして社会の労働市場の動向を把握する機会の提供が重要な要素となる。

これにより、学習者は自身の強みや関心を明確にし、社会のニーズを踏まえた上で、将来のキャリアを適切に選択できるようになる。

2. キャリア教育の現在の背景

ベトナムのキャリア教育システムは、教育訓練省だけでなく、複数の省庁や関連機関の協力によって進められている。しかし、現在のキャリア教育はまだ発展途上であり、労働市場のニーズに合わせたキャリア形成と進路指導の違いが明確に整理されていない。そのため、多くの目標や責務は、依然として進路指導に重点を置いた考え方に基づいている。

一方で、政府はキャリア教育の指導者となる教員や職員の研修を積極的に進めている。しかし、専門知識や経験の不足により、学校によっての実施状況にばらつきがあるのが現状である。現在の政策では、キャリア教育をより実践的な体験活動と結びつけ、職業現場の実態を生徒に伝えることを重視している。これにより、生徒が自分の適性を理解し、より適切なキャリア選択ができるようになることを目指している。

3. 国によるキャリア教育の目標および施策

目標
「2018~2025年初等・中等教育におけるキャリア教育および進路指導の実施に関する計画」(以下「522計画」)が2018年5月14日に承認されたことに基づき、ベトナム政府は2025年までの具体的な目標を以下の通り定めている

表1 2018年から2025年までの総合目標表1 2018年から2025年までの総合目標注:目標は2段階に分けて評価され、第一段階は2018~2020学年度、第二段階は2021~2025学年度とする。

ベトナム政府は、2018年から2025年までの8学年度にわたり、キャリア教育システムの完全な整備を目指している。具体的な施策として、キャリア教育プログラムの構築、専門人材の育成に加え、中学校から高等学校において全体の80%~100%の学校でこのプログラムを実施することを掲げている。

また、国家全体の労働者の技能向上を図るとともに、すべての学生が職業教育にアクセスできるようにするため、中学校卒業生の少なくとも30~40%が職業高等学校へ直接進学するか、一般高等学校を経て職業訓練機関へ進むことを政府が推進している。

責務・解決策

上記の目標を達成するため、ベトナム政府は次の7つの責務および解決策を提示する

表2 2018~2025年度  初等・中等教育におけるキャリア教育および進路指導に関する施策案 第1条 第II項表2 2018~2025年度  初等・中等教育におけるキャリア教育および進路指導に関する施策案 第1条 第II項

4. ベトナムにおけるキャリア教育システムと教科

初等・中等教育課程カリキュラムー全体計画(第IV章)に従い、キャリア形成体験は、小学校から高等学校までの教育課程において、必修教科と同等の位置づけで実施される。本キャリア教育プログラムは、2018年から開始され、年間105時限(各時限35~40分)にわたって行われ、必修教科と同様に認められている。

さらに、高等学校の生徒は、自分のキャリア形成を目的として、所定のキャリアの形成教科(必ず履修すべき科目群)を選択することが求められる。また、少数民族語や外国語など、他の選択教科も生徒の興味に応じて履修可能である。

新しい初等・中等教育課程におけるキャリア教育は、主に中学校後期および高等学校においてキャリア教育全課程で実施される。これらの教科および学習テーマは、生徒の興味や能力に応じたキャリア形成を促進するようにカリキュラムに組み込まれ、生徒の職業能力の包括的な発展に寄与することを目的としている。

表3 初等・中等教育におけるキャリア教育プログラム表3 初等・中等教育におけるキャリア教育プログラム出典:ベトナム教育訓練省が作成した、2018年度初等・中等教育課程の実施に向けた、教育・訓練局および教育・訓練室の管理職員向け研修資料

2018年以降、キャリア教育に関連する活動は、各学校やクラスの規模に応じ、ホームルーム活動、テーマ授業、クラブ活動などの形態で柔軟に展開されてきた。これらの取り組みは、各校の実情に応じて、教室内外で実施されている。特に中学校においては、キャリア教育が生徒の将来の職業選択に向けた方向性を定める中核的な役割を果たし、中学校後の進路選択を効果的に分岐させるために重要である。

キャリア教育の専門知識人材の育成プログラム

ベトナムでは、522計画の実施要件を満たす人的資源の確保および国内キャリア教育の基盤構築を目的として、複数の戦略的取り組みが実施されている。教育訓練省は計画承認直後から各地方教育局および教育部門の管理職に対する研修プログラムを体系的に展開しており、これにより教育機関への速やかな知識・スキル移転が図られている。

並行して、高等教育機関を含む人材育成機関におけるカリキュラム改革も進行しており、キャリア教育科目の段階的統合が実施されつつある。特に大学教育においては、教員養成課程を中心に専門的キャリアガイダンス手法の導入が確認されている。

これらの取り組みは、ベトナムにおけるキャリア教育システムの制度化および持続可能な専門人材供給体制の確立に寄与すると考えられる。

表4 各大学の専攻・必修科目および教育体系表4 各大学の専攻・必修科目および教育体系

5. 成果と達成状況

表5 522計画の実施3年間の達成結果表5 計画522の実施3年間の達成結果出典:2021年12月29日に開催された会議における「2018年度普通教育課程実施に伴う生徒の進路分化実現のための実践的解決策』をテーマとする報告資料。

キャリア教育の実践の充実を目的として、各種職業適性評価ツールのベトナム語への翻訳と、ベトナム文化に即した内容への改編が実施された。これにより、ILO(2014年版)をはじめとする各種指標が取り入れられるとともに、無料で利用可能なオンラインキャリアガイダンスアプリの構築および運用が推進された。

6. 課題

ベトナムにおけるキャリア教育はまだ発展途上であり、担当者の専門的な研修不足が課題として浮上している。これにより、キャリア教育に関する情報の整理や評価が体系的に行われていない現状が見受けられる。2024年11月4日に行われた首相決定522計画に基づくの成果評価会議においても、学校と保護者間の連携不足が指摘され、生徒への適切なキャリアガイダンスの提供が困難であることが明らかとなった。

さらに、教師への新たな業務の追加は、彼らの業務負担と労働時間に影響を及ぼし、進路指導の質や他教科の教育品質への影響が懸念される。加えて、キャリア教育機関で提供されるカリキュラムが労働市場の実際のニーズと一致していないことが指摘されており、キャリア教育における現実的な調査とデータ収集の必要性が浮き彫りとなっている。

また、多くの生徒と保護者は、大学教育が職業教育よりも良い就職機会をもたらすと考えており、その結果、中等教育修了後に職業高等学校や職業訓練校への進学を避ける傾向がある。これは、これらの職業教育機関の魅力不足や卒業後の就職結果への信頼性の欠如が要因とされている。これらの課題は、特に中等教育学校が522計画の目標を達成する上で大きな障害となっている。

2019年教育法第4条第3項によれば、ベトナム政府はすべての人々が教育にアクセスし、生涯にわたってあらゆるレベルや形式で学習できる機会を創出することを目指している。この方針は、貧しい地域や学習環境が不足している場所への深い配慮を示している。しかし、522計画では、経済的に発展した都市部の生徒の進路選択を制限する可能性がある目標が設定されている。これは、2019年教育法第4条第3項と矛盾しているように見える。

ベトナム大学における就職支援活動も十分ではなく、多くの学生が卒業後、学校からの支援なしに独力で就職しているのが実態である。これにより、多くの学生が適切な職を見つけられず、結果として専門と関係ない仕事に就くケースが増加している。将来的には、日本のように大学4年次から進路指導やキャリアサポートの科目を導入するなど、ベトナムの高等教育における進路指導の充実が期待される。

7.キャリア教育の未来の方向性

グローバル化の進展に伴い、ベトナムでは教育の質向上と教育アクセスの公平性確保を目的とした政策が数多く実施されている。特に、2025~2026学年度より、公立の幼稚園から高等学校までの生徒に対する授業料全額免除が決定され、国家の未来への投資に対する強い意志が示された。

しかし、ベトナムのキャリア教育システムは未だ発展途上であり、専門的な訓練を受けた教師の不足や、学校と保護者間の連携不足がキャリア教育の効果性に影響を及ぼしている。さらに、職業訓練プログラムが労働市場の実際のニーズに十分に適合していないため、社会全体で大学教育が職業教育よりも好まれる傾向が強い。これらの現状を改善するため、キャリア教育分野の専門教師の育成、学校と保護者間の協力促進、労働市場のニーズに合致した職業訓練カリキュラムの調整が求められる。同時に、職業教育の価値に対する社会的認識を高め、国家の人材資源の持続可能な発展を確保することが不可欠である。

さらに、大学在学中の学生に対するキャリア教育の実施は、大学の新たな成果指標を設定し、向上させる手段となり得る。政府は、現在の教育基準を満たさない大学の閉鎖や統合を検討しており、教育機関に対して教育の質向上のプレッシャーを与えている。地域企業との連携による地域密着型のキャリア教育の推進や、キャリア教育の専門知識を持つ専門家の学校への支援も期待される。

参考文献
1. 教育法 (2019年6月14日制定)
https://thuvienphapluat.vn/van-ban/Giao-duc/Luat-giao-duc-2019-367665.aspx
2. 職業相談・就職・起業支援に関する教育施設内業務規定 (2022年5月23日制定)
https://thuvienphapluat.vn/van-ban/Giao-duc/Thong-tu-07-2022-TT-BGDDT-cong-tac-tu-van-nghe-nghiep-viec-lam-trong-cac-co-so-giao-duc-514241.aspx 
3. 「2018~2025年度 初等・中等教育におけるキャリア教育および進路指導に関する施策案」承認決定 (2018年5月14日制定)
https://thuvienphapluat.vn/van-ban/Lao-dong-Tien-luong/Quyet-dinh-522-QD-TTg-2018-Giao-duc-huong-nghiep-va-dinh-huong-phan-luong-hoc-sinh-pho-thong-382053.aspx
4. 初等・中等教育課程カリキュラムー全体計画
https://moet.gov.vn/tintuc/Pages/CT-GDPT-Tong-The.aspx?ItemID=8421
5. 2018年の初等・中等教育課程実施のための管理者向け研修資料
Tài liệu của Bộ Giáo dục và Đào tạo tập huấn cho cán bộ quản lý sở/phòng giáo dục và đào tạo thực hiện chương trình giáo dục phổ thông 2018. 
6. 「キャリア教育および進路指導:システム的・包括的アプローチが必要」 (2024年12月5日付)
https://baomoi.com/giao-duc-huong-nghiep-va-dinh-huong-phan-luong-can-co-cach-tiep-can-he-thong-toan-dien-r50906047.epi 
7. 「生徒のキャリア教育と職業指導の計画の目標を超える多様な指標」 (2024年12月30日付)
https://moet.gov.vn/tintuc/Pages/tin-tong-hop.aspx?ItemID=7701

HUYNH PHI THANH(フインフィタイン)氏

日本語学校勤務。6年間にわたり留学生向けキャリアガイダンスに従事。早稲田大学大学院教育学研究科に履修生として学び、日本のキャリア支援に関する理解を深めるとともに、ベトナムにおけるキャリア支援教育の歴史的変遷について研究。日本でのベトナム人留学生のキャリア支援に貢献したいと考えている。

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