11.8%が“半年未満”で離職する。「超早期離職」問題
若手のキャリアにおける「七五三」現象をご存知だろうか。学卒後就職して3年以内に退職する割合、すなわち「早期離職率」が中学卒で70%、高校卒で50%、大学卒で30%あるという状況のことだ。現状では図表1のようになっており、「七五三」からは多少の変化があることがわかるが、大学卒と比較して高校卒が高い傾向にあることは変わらない。
図表1:3年以内離職率(早期離職率)の推移(※1)(%)
この「早期離職」については、これまで「若年者における就職先とのミスマッチの問題」の中核的テーマとして扱われてきた。内閣府の「青少年白書(平成19年度版)」において、「いわゆる『七五三現象』など若者がせっかく職を得ても、自ら抱いたイメージと現実とが異なる等の理由で、わずか数年勤めただけで辞めてしまうような状況である」と政策課題として取り上げられ始めて以降、厚生労働省がデータを収集・公開し、政策的対応を講じてきた。
他方で、3年以内の離職については「一律でミスマッチとして否定するべきではない」とする主張も存在する。転職が一般化するなかで(特に学卒後数年の若手については「第二新卒」という労働市場が確立している)、能動的にキャリアを築くための転職も一般化している。また、企業の新卒採用要件の拡充の結果として、新卒扱いで入ることができる枠として例えば「29歳まで可」とする企業が現れるなど、若手にとって“一発勝負”ではないチャンスが広がった影響もある。1~2年働いてみて、初めて自らの適性に気づいて離職を選ぶ若手もいるだろう。
こうした多様性が生まれつつあるなかで「3年以内に離職する」ことの意味は少しずつ変わっていると言ってよい。しかし、なおその上で特に注目しなくてはならないのは今回取り上げる、「数カ月、ともすると1カ月未満の極めて短い期間で離職をしている」若手の存在である。
就職のミスマッチの議論の中でも、数カ月程度の短い期間で離職することは初期の問題として最も課題が多い状態であるといえよう。なぜなら離職の原因について、「ごく短期間でわかったことが、なぜ公平な視点でじっくりと比較検討ができるはずの就職活動の段階でわからなかったのか」といった疑問が生じるためである。
今回は早期離職問題を掘り下げた、「超早期離職」を検証することで、高校就職の知られざる課題を明らかにしたい。
「超早期離職率」=6カ月未満離職率を検証する
早期離職の中でも特に極めて早期の離職、「超早期離職」を就職後6カ月未満の離職と定義する。就職後6カ月未満というのはどのような状態だろうか、想像してみて欲しい。ある若手にとっては、導入研修が終わって最初の配属先に所属し始めたころであろう。または、別の若手にとってはまだ正式な配属前の段階であるかもしれない。いずれにせよ、就職後の「試用期間」として3~6カ月とする企業が一般的であり、まだそうした段階での“ごく初期のミスマッチ”と位置付けられる。
まず、この超早期離職者がどの程度存在しているのかについて最新のデータ(※2)を用いて明らかにする。図表2では3年以内離職に占める割合を検証している。
全体としては3年以内に離職する者のうち、5.2%が1か月未満、9.9%が1か月以上3ヶ月未満で離職しており、更に10.8%が3ヶ月以上6ヶ月未満で離職している。合わせて、25.9%と3年以内に離職する者のうち4分の1以上が半年未満に離職している「超早期離職者」であることがわかるだろう。
学歴別に見た場合、高校卒者の高さが際立っている。合わせると3年以内に離職した高校卒者のうち実に30.1%が超早期離職者であり、これは短大等卒の24.0%、大学卒の23.4%と比較して高い水準にあることがわかる。
「早期離職」と括られてきた若手の中で、半年未満という極めて早いタイミングで離職する者が一定数おり、またその割合において高校卒が高いことは押さえる必要がある。
高校卒就職者のうち8人に1人は「超早期離職」している
さらに、高校卒就職者全体における状況を明らかにしたい。厚生労働省が出している3年以内離職率のデータに、図表2の結果を組み合わせることで推計が可能となる(図表3)。初職で正規社員等に就職している者のうち、どの程度が半年未満で離職しているのだろうか。結果としては高校卒就職者のうち11.8%であった。
図表3:就職者全体に対する半年未満離職者の割合(※4)
高校卒就職者では合わせて11.8%、短大等卒10.1%、大学卒では7.5%となっている。つまり、高校卒就職者のうち、実に「8人に1人」が「半年未満で」入った会社を離職しているという事実が明らかになった。さらに言えば、7.4%、「13人に1人」は「3カ月未満」で離職している。こうした極めて早い段階でミスマッチが起こっているという事実を、卒業後の高校生の実際の姿として私たちは知る必要がある。
卒業直後の極めて早いタイミングで決定的なミスマッチが生じていること。高校卒就職者にインタビューしていると、「職場環境が、言われていたより過酷で体力的に限界だった」「もともと想像していたような仕事ではなかった」「職場に相談できる人がおらず孤立していた」など、この超早期の離職について理由を聞くことができる。果たして、本当にこの早すぎる決定的なミスマッチを回避することはできなかったのであろうか。
高校卒就職者におけるこうした結果を受けて、本研究プロジェクトでは2つの視点を検証すべきポイントとして考えたい。
1つは、超早期の離職が発生する背景である。公的データはもちろん、手元のデータでも、こうした状況を検証できるデータは存在していない。なぜ、特に高校卒就職者において、これほど早い段階でのミスマッチが起こっているのか、そしてその後どういったキャリア状況になっていくのか、検証する。
もう1つは、こうした超早期の離職を防ぐことはできないのか、という点である。例えば、就職活動において高校生が得るべき情報や支援、また、就業後の支援によって回避が可能ではないのか。この点についても検証していく。
(※1)厚生労働省「新規学卒者の離職状況」
(※2)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2020」
(※3)初職正規社員、34歳以下、退職経験がある者を分析。サンプルサイズ5822。ウエイトXA20を使用。「短大等卒」には専修・各種学校卒業を含む。
(※4)厚生労働省の3年以内離職率データに、図表2(3年以内離職者に占める超早期離職の割合)を乗じて推定したもの。初職が正規社員であった者を想定。