働く人の健康キーワードは「人間関係」

2025年01月20日

リクルートワークス研究所では、毎年行っている全国就業実態パネル調査(JPSED・5万人規模の就業者に対するパネル調査)と接続可能な調査という位置付けで、近年の急速な労働市場の変化や労働法の改正に伴い働く人々にどのような変化が起こっているのかを検証する調査(「働き方のこれからに関する1万人調査」)を行った。

働く人の健康といえば、雇入れ時の健康診断、1年に1回行われる定期健康診断、著しく暑熱な場所における業務、深夜業を含む業務等特定業務に従事する者への健康診断などが、労働安全衛生法で企業に義務付けられている。これらの一般健康診断は、我が国に根付いており、働く人の健康を守るために一定の役割を果たしてきたと言える。

今回の調査はこうした一般健康診断への評価を行うものではなく、働き方の多様化や働くことへの意識の変化が進行する中で、働く人が、これから自らの健康を守るために何が重要と考えているのかを問うたものであり、本稿はこの調査の主要な結果を示したものである。


調査では、「あなたが心の面でも、身体の面でも健康で働くためには、何が重要であると思いますか」という問いに対し、

  1. 自分の価値観に合う会社や職場で働くこと
  2. 仕事のやり方や労働時間等の働き方を選べること
  3. 自分の能力を発揮できる仕事についていること
  4. 仕事の成果が正当に評価されること
  5. 職場の人間関係が良好であること 
  6. 将来のキャリアに希望がもてる仕事についていること
  7. 医師、保健師等に簡易に相談できること
  8. 自分の健康は自分で管理できるようになること
  9. その他

の選択肢より3つ選択し、その上で最も重要なものを1つ選択する形で行われた。調査対象は全国の16~84歳の就業者であり、全国の就業者の分布に合わせて年齢層、性別、就業形態によって割り付けを行い回答を回収しており、サンプルサイズは10681(男5619、女性5062)である。

最も重要なのは「職場の人間関係」とする回答が圧倒的

全体と男女別の結果を示したものが表1であるが、全体でも、男女別でも、健康で働くために最も重要なのは、「職場の人間関係が良好であること」とする回答が圧倒的に多い結果となっている。特に女性の回答割合は45.8%となっており、全体38.6%、男性32.1%に比べ、高い数値となっている。

また、「仕事の成果が正当に評価されること」「自分の能力を発揮できる仕事についていること」は男性の方が女性より回答割合が高く、「仕事のやり方や労働時間等の働き方を選べること」は女性の方が男性より回答が多くなっている。

表1

表1 全体と男女別(注)概ね5ポイント以上の差があるものをハイライト、3ポイント以上の差があるものに下線。表4まで同じ。

なお、「将来のキャリアに希望がもてる仕事についていること」「医師、保健師等に簡易に相談できること」とする回答については、全体、男女別ともにかなり低い数値となっており、これは年齢層別でも就業形態別においても同様の結果となっている。

正規は仕事の正当評価、非正規は仕事のやり方や働き方の選択

正規・非正規別の結果を示したものが、表2である。ここでいう「正規」は正社員のことであり、「非正規」は、パート・アルバイト、派遣社員、契約社員及び嘱託社員としている。

正規・非正規ともに、「職場の人間関係が良好であること」とする回答が最も多くなっており、特に非正規は正規に比べ回答割合が高くなっている。また、「仕事の成果が正当に評価されること」は正規の回答が、「仕事のやり方や労働時間等の働き方を選べること」は非正規の回答割合が高くなっている。

表2

表2 正規・非正規別の結果

非正規の女性は、職場の人間関係と仕事のやり方や働き方を選べること

非正規で男女別の結果を示したものが表3である。「職場の人間関係が良好であること」の女性の回答割合が高くなっており、また、「仕事のやり方や労働時間等の働き方を選べること」の女性の回答割合も高くなっている。一方男性は、「自分の健康は自分で管理できるようになること」の回答割合が高くなっている。

表3

表3 非正規で男女別の結果

年齢層が上がると、自分で健康管理が必要

全体の年齢層別の結果を示したものが表4である。全体では、職場の人間関係が良好であること」の回答割合が、年齢層に関係なく高くなっている。また、「自分の健康は自分で管理できるようになること」の回答が、45歳以上の方が15~44歳よりも多くなっている。

表4

表4 全体の年齢層別の結果

ここまでの結果をまとめると、働く人は、

  • 健康で働くためには職場の人間関係が最も重要と認識しており、このことは、どの性、就業形態、年齢階層においても変わりはない
  • 医師、保健師等に簡易に相談できることが、健康に働けることにはつながりにくいと考えられている
  • 年齢の高い層は、自らが健康管理を行うことが健康にとって大切であると考えている

と言えそうである。

最後に、「自分の健康は自分で管理できるようになること」に注目してみたい。総じてこの回答の割合は10%程度であるが、これから働く意識や働き方が多様化する中においては、自分の健康は自分で管理するという意識が大切になる。

年齢層別では、「自分の健康は自分で管理できるようになること」は、正規、非正規とも年齢層が上がると回答が多くなり、特に非正規では回答割合が高くなっている。

表5

表5 年齢層別

また、正規・非正規の男女別で15~44歳と45歳以上の変化を見ると(表6)、いずれでも回答割合が増加しているが、特に非正規の男性ではその回答割合が高くなっている。

表6

表6 正規・非正規の男女別で15~44歳と45歳以上の変化

このことから、

  • 年齢層が高くなると自分の健康は自分で管理しなければ健康を守れないという意識が強くなる
  • 特に非正規は年齢層の高い男性がその意識を強く持つようになる

ものと考えられる。

以上の状況を踏まえれば、働く人の健康確保のためには以下の点が重要であることが示唆される。

  1. 最も重要なことは、良好な職場の人間関係を構築することであり、そのためには何よりも関係者間の対話が大切となるのではないか
  2. 非正規の中では、年齢が高い層で自ら健康管理を行う必要性を感じる人が多い傾向にあることから、非正規という働き方が一般健康診断という手法にはなじまないとも考えられるため、年齢の高い層を中心に非正規の方への健康確保のためのツール(※1)の提供が必要となっているのではないか
  3. 医師や保健師等への簡易な相談という貴重な機会が健康につながりにくいとの評価は、「治療」というイメージが先行している影響とも考えられ、治療を前提としない「予防」のための相談ができるようイメージの刷新と相談に携わる専門職の役割の見直しが必要ではないか
  4. 働く人が、自らが求める働き方や働く場所が実現し、働く年齢も上がっていく中で、自らの健康をマネジメントしていくという意識を、働く人全体で持っていくことが大切な時代となるのではないか

本稿がこれからの時代の健康確保の在り方を考える一助となれば幸いである。

(※1)「健康確保のためのツール」とは、働く人それぞれが望む形、タイミングで健康のチェックを受けられるよう、例えば、デジタルデバイス等を用いて健康をチェックしつつ、必要な時にオンライン又はリアルで診断を受けられるようにする形を整えることが考えられる。

松原 哲也

1996年労働省(現厚生労働省)入省後、労働条件、働き方、雇用分野を中心に、各部署政策立案を担当。
愛媛県庁、在英国日本国大使館、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部などの勤務経験を経て、職業安定局で労働市場政策、労働基準局で労働条件政策を統括。
2023年10月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。
専門分野は、労働市場、労働条件、人事管理など、HR分野全般