2025年、現場改革はどのくらい進んでいるのか――エッセンシャルワーク 未来の展望①

2025年04月24日

高齢人口の増加によって、生活維持サービスにはより多くの労働投入が必要となる。持続可能な現場をつくるためには、どのような変化が必要なのか。働き手不足が深刻な生活維持サービスであるエッセンシャルワークの現場では、どのような先進的な業務改善の試行錯誤が始まっているのか。

はじめにエッセンシャルワークの5つの領域(医療・介護、公共安全・セキュリティ、食品・日用品製造・販売、交通・物流、エネルギー・インフラ)の現場で働く全国20~69歳の2,575名を対象に行った「エッセンシャルワーク実態調査」(※1)の結果から、現状を整理していく。

正社員4割以上が週40時間超の勤務。残業を前提とした労働環境

週の労働日数はどのような状態なのだろうか。雇用形態(※2)ごとの週5日勤務の割合は、正社員が79.2%、パート・アルバイトが42.0%、派遣・契約・嘱託社員が72.3%だった(図表1)。つまり、正社員と派遣・契約・嘱託の雇用形態で働く人の7割以上、パート・アルバイトでは3人に1人以上は週5日勤務をしている。週6日勤務の割合は、正社員が12.8%、パート・アルバイトが6.3%、派遣・契約・嘱託社員が7.5%であった。正社員で働く約8人に1人が、休日は週に1回という労働環境である。

週の労働時間では、パート・アルバイトの51.9%が週20時間以内の短時間勤務だった(図表2)。一方で、12.9%は週36~40時間働いており、約8人に1人は週5日の8時間フルタイムで働いていると想定される。正社員と派遣・契約・嘱託社員では、週36~40時間働く人が約半数を占めているが、週40時間超働く人は正社員で41.6%、派遣・契約・嘱託社員で25.5%いる。正社員の4割以上が、残業を前提とした働き方をしている実態が浮かび上がる。

図表1 雇用形態別 週の労働日数(左)、図表2 雇用形態別 週の労働時間(右)図表1 雇用形態別 週の労働日数(左)、図表2 雇用形態別 週の労働時間(右)※四捨五入により、各雇用形態の合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成

正社員の4割以上がサービス残業を経験、9.5%は月10時間以上

次にサービス残業の実態を確認する。月間にどのくらいのサービス残業が発生しているかについて、正社員の45.3%、パート・アルバイトの16.2%、派遣・契約・嘱託の21.1%が「発生している」と答えている。正社員以外(パート・アルバイト、派遣・契約・嘱託社員)では、約6人に1人にあたる17.7%が経験している。

また正社員の約10人に1人の9.5%が、週10時間以上のサービス残業があると回答している。労働基準法に違反する賃金不払残業(サービス残業)が、エッセンシャルワークの現場で発生している。既に現場では慢性的な働き手不足の状況があり、令和となった今も、サービス残業の慣習が一部では残り続けていると言えるのではないだろうか。

図表3 サービス残業の実態 正社員図表3 サービス残業の実態 正社員※四捨五入により、残業時間別の合計が45.3%となっていない
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成


図表4 サービス残業の実態 正社員以外(パート・アルバイト、派遣・契約・嘱託社員)
図表4 サービス残業の実態 正社員以外(パート・アルバイト、派遣・契約・嘱託社員)出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成

約4割が業務量の増加を実感。最も高いのは、医療・介護の領域

ここまで労働環境を確認してきたが、業務量の増加はどのようになっているのだろうか。直近2年程度に着目して、業界別に業務量がどのように変化したかについて、業務量増加の実感を確認した。「やや増加している」が25.6%、「20%以上増加している」が12.7%であり、増加を実感している人は全体の38.3%であった。4割弱のエッセンシャルワーカーが業務量の増大を実感している。領域別では医療・介護が45.1%、公共安全・セキュリティが34.9%、食品・日用品製造・販売が41.2%、交通・物流が32.4%、エネルギー・インフラが37.8%だった。増加しているとの回答が最も高かったのは、医療・介護で約6人に1人が20%以上の業務増加の実感を持っている。

図表5 直近2年程度の業務量への実感について図表5 直近2年程度の業務量への実感について※四捨五入により、合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成

37%の現場で業務改善を実施。エネルギー・インフラ領域では約半数で行われる


業務改善の実施はどのくらい進んでいるのだろうか。ここ2年間での業務効率を高めるための業務改善の実施について、37.0%が「あった」と回答している(図表6)。領域別に見ると、医療・介護が32.4%、公共安全・セキュリティが41.6%、食品・日用品製造・販売が30.9%、交通・物流が30.1%、エネルギー・インフラが49.9%で業務改善が行われていた。エネルギー・インフラでは、約半数で実施されている。

図表6 業務改善実施の実態について図表6 業務改善実施の実態について※四捨五入により、合計が100%とならない場合がある
出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成

具体的な業務改善の内容としては、業務標準化(マニュアル作成、教育研修など)が42.3%で最も高く、次いで一部業務の削減が39.9%、テクノロジー導入(インカム・シフト・カルテ・情報共有系など)が34.0%であった(図表7)。テクノロジー導入による業務改善は、エネルギー・インフラでは全体平均より8%ポイント高い42.0%で行われている。生産性向上に向けて、ムリ・ムダ・ムラの視点で業務改善が進んでいる様子がうかがえる。

図表7 業務改善の具体的な内容について図表7 業務改善の具体的な内容について出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成

業務改善の理由は、「従業員の業務負荷が高まっていたから」が45.1%

「なぜ業務改善が行われるのか」について、現場では説明がされていたのであろうか。業務改善の背景について「説明されていない」と答えた割合は12.8%にとどまり、87.2%の現場では説明会や体験会、日常のミーティング、事務連絡などで説明が行われている(図表8)。具体的には、「日常のミーティングで口頭説明がされた」が47.8%、「事務連絡で紙やメールなどで説明された」が40.0%、「説明会に出席した」が25.0%である。つまり、業務改善の取り組みが行われている現場の約9割では、改善の背景が説明され、改善が進行していることがわかる。

図表8 業務改善に関する説明について図表8 業務改善に関する説明について出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成


業務改善が行われた具体的な背景は何だったのだろうか。最も高かったのは「従業員の業務負荷が高まっていたから」(45.1%)である。次いで「人手不足感が高まっていたから」(43.6%)、さらに「残業時間の長さが問題になっていたから」(31.6%)という結果であった(図表9)。この業務改善の背景から、エッセンシャルワークの現場では、既に人材不足の影響により働く人の負荷が高まり、残業時間が長くなっていることが示唆される。

図表9 業務改善の背景について図表9 業務改善の背景について出所:リクルートワークス研究所「エッセンシャルワーク実態調査」より筆者作成


エッセンシャルワークの領域では、どのような業務改革が行われているのだろうか。次回以降のコラムでは、エッセンシャルワークの領域ごとに日常業務をタスクまで掘り下げ、それぞれの未来の展望について検討していく。

(※1)調査期間は、2025年1月9日(木)から10日(金)で、インターネット調査を実施した。調査対象は、全国の20~69歳の男女で、エッセンシャルワーク従事者である。エッセンシャルワークの職種については、厚生労働省の事務連絡「厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部」(https://www.mhlw.go.jp/content/000881571.pdf)を参照して整理した。今回の調査対象では第1次産業、比較的賃金が高いとされる職種(医師・薬剤師・マスメディア・金融関連など)を除き、①医療・介護②公共安全・セキュリティ③食品・日用品製造・販売④交通・物流⑤エネルギー・インフラの5つの領域とした。サンプルサイズは各職種515サンプルの合計2,575である。
(※2) 調査対象の雇用形態はその他の形態、会社などの役員、自営業主・家族従業者・内職を回答した人を除き、正規の職員・従業員と回答した人を正社員(n=1,662)、パート・アルバイト(n= 526)、労働者派遣事務所の派遣社員(n=33)、契約社員・嘱託(n=194)と回答した人を正社員以外とする。

執筆:岩出朋子

岩出 朋子

大学卒業後、20代にアルバイト、派遣社員、契約社員、正社員の4つの雇用形態を経験。2004 年リクルートHR マーケティング東海(現リクルート)アルバイト入社、2005年社員登用。新卒・中途からパート・アルバイト領域までの採用支援に従事。「アルバイト経験をキャリアにする」を志に2024年4月より現職。2014年グロービス経営大学大学院経営研究科修了。2019年法政大学大学院キャリアデザイン学研究科修了。

関連する記事