高校卒、最初の3年間が重要

2021年03月26日

初職の離職率が高い高校卒

プロジェクト「これからの時代の『高校卒就職システム』を考える」のサマリーレポートにおいて、実に9人に1人が最初の会社を半年以内に離職していることが判明した。3年以内離職率は4割だ。これらの問題は古くから「七・五・三現象」といわれている。
日本においては初職が重要であることが知られている。周知の通り、日本的雇用慣行においては入社後の職業訓練が重要な役割を果たしてきた。そこで社会人の基礎を身に付けるというわけである。実際に多くの人が、就職した最初の3年くらいで、仕事の進め方や、社会人として働くためのイロハを身に付けたのではないか。3年以内に離職することは、その教育を十分に受けられないことを意味し、基礎力が身に付かず、長期にわたって不利益を被る可能性がある。本コラムでは高校卒の働く人の勤続年数、つまり早期離職をしなかった人について、さらに見ていこう。

大企業の方が早期離職率は低い

まず、しっかりと教育を受けられた人、つまり初職において3年より長く勤務している人はどういう人なのだろうか?回帰分析から探ってみよう。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」を使用する。3年より長く勤務しているか否かの2値変数を様々な変数で回帰する。今回は初職のマッチング効果を見たいため、初職が正規雇用だった人にサンプルを限定する。結果は以下のようになった(図表1、1列目)。
まず、女性は男性よりも3年以内に離職する確率が10%ポイント高い。全体で3年以内に離職する確率が40%であることを考えると、大きな数値といえるだろう。女性は結婚・出産などで離職している可能性が示唆される。これは、男性と女性で早期離職に対して異なる施策を導入する必要があることを意味する。
次に従業員規模別に見てみよう。ベースラインである従業員規模1~9人と比較して、10~99人について、統計的に有意な違いはない。しかし、100~999人と1000人以上については、継続勤務する確率がそれぞれ8.9%ポイントと19.4%ポイント高い。入社3年目の給料は、従業員規模による差が比較的小さいと考えられる。そうなると、大企業の方が社員をサポートする制度が整っているというのが1つの理由ではないか。高校生の離職を防ぐには、OJTやOff-JTなどに代表される、企業からの充実したサポートがやはり有効だと思われる。
同様の結果は、公的統計からも読み取れる(図表2)。厚生労働省「新規学卒者の離職状況」を見ると、従業員規模1000人以上の企業の方が、全体と比較して3年以内離職率が低い。一方で、その差は8年連続で縮小しており、直近の2017年卒は12.1%ポイントと、比較可能な2003年卒以来最も縮小している。大学卒でも同様の結果が報告されており(※1)、高校卒の離職率の低下のための政策や、彼らのより良いキャリアを考える上でも、この現象の背後にある理由の究明が必要だ。
図表1に戻り、職種別に見てみよう。管理職は例外といえるが、ベースのサービス職と比較すると、継続勤務をする確率が高い職種(10%ポイント以上)は運輸・通信関連職(12.7%ポイント)、事務職(12.7%ポイント)、専門・技術職(11.1%ポイント)となる(※2)。運輸・通信関連職や専門・技術職は工業科の人たちなどがいることが考えられる。専門的・実践的なスキルがある方が、仕事が続きやすい。また、事務職については経理などの仕事が考えられるが、これらもより具体的なスキルが要求される仕事といえる。
また同じ回帰式を、大学卒を含めて分析すると、高校卒の方が大学卒と比較してやはり初職で3年より長く継続して勤務する確率は2.5%ポイント低い(図表は省略)。様々な要因をコントロールしても、高校卒の方が初職を辞めがちなのだ。

図表1 勤続年数の決定要因図表1.jpg注:ともにWLSで推定している。係数は限界効果。ほかにも初職の居住地や、業種についてもコントロールしているが、紙面の都合から割愛した。また、(1)列目については高校卒のみで分析。(2)列目は大学卒と比較するため、大学卒と合わせて分析した。
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」

図表2 3年以内離職率の推移(高校卒、従業員規模別)図表2.jpg出所:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」

最終的には高校卒の方が継続する

次に勤続年数自体はどのような要因で説明されるかを見てみよう。特に3年より長く勤務した人のその後のキャリアを見てみよう。勤続年数を先ほどと同じ変数群で回帰分析する。この分析では大学卒と高校卒を合わせて分析している。(図表1、2列目)。この結果で着目したいことは、初職で3年より長く定着した人は、大学卒よりも勤続年数が4年も有意に長いということだ。これは1つ注目すべき結果といえよう(※3)。つまり長く定着させたい場合は、まずは最初の3年間が重要ということが示唆される。高校卒者の中にもリアリティショックを受け、就職してわずかな期間で退職してしまう人は多い。しかしここでうまく定着した人はその後も長く働き続ける可能性が高い。最終的には大学卒の人よりも長く定着するのだ。例えば本連載第1回目のコラムで(※4)、Off-JTを実施した場合、高校卒者の企業への定着率が高くなることがわかった。これはきちんとコストをかけ、育成機会を設けて高校卒者に接すれば、彼らは簡単には離職しなくなるということだ。また相談相手などをつくり、リレーションを豊かにすることも有効だ。

接し方で定着する高校卒

本コラムでは、高校卒で早期離職しない人がどういう人かを調べた。その結果、充実した職場訓練のある大企業に就職した人や、専門的なスキルがある人の方が、離職率が低いことが確認された。一方で、個人ごとによる差も大きく、きめ細やかな対応が求められる。また、3年間きちんと定着できた場合、高校卒の方が大学卒と比較して4年長く勤務するといったこともわかった。もちろん最初のマッチングの質を上げることは、離職率の低下のために重要である。しかし入社した後もきちんとサポートすることも同じくらい重要であり、しかもその効果は長く続くのだ。

(※1)古屋星斗(2020)「早期離職の『大企業ボーナス』が消える日」を参照のこと。
(※2)美容師などはサービス職で、介護士などは専門職に分類される。
(※3)高校卒の方が大学卒と比較して4年早く社会に出るため、そのことを反映した数値ともとれる。しかしいずれにせよ、最初の3年間勤続すると、その後は大学卒(で最初の3年間勤続した人)なみに離職しにくくなるという結果であり、高校卒の離職率の低下に大きな役割を果たしていると考えられる。
(※4)古屋星斗(2021)「高校卒者の早期離職抑制を科学する」を参照のこと。

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