高校生たちは卒業後、高校就職に対して何を感じているのか

2021年03月10日

高校生の就職とキャリア」で行った検証にあたり、高校卒当事者への定量調査を実施した。その結果は報告書の通りだが、その調査にあたり、「学校卒業時の就職活動に関して、もっと学校にしてほしかったことは何ですか」を自由記述回答で質問している。
この結果として、実に1419名(※1)からの様々な意見が集まった。今回この結果を報告書の参考資料として原文で公開している。ただし、膨大な数に上るため、その意見を整理し確認しやすくすることが本稿の目的である。
高校生の就職は学校・ハローワークを通じて行っている生徒が例年8割以上となっており、全国でほぼ一律の申し合わせを行っていることと併せ、就職活動の拘束の程度は大学卒などの就職活動と比較して高い。このため、生徒のキャリア形成との関係で現状の申し合わせによってつくられた仕組みが適合的であるのか、確認する必要があることは言うまでもない。今回のような1名1名の振り返りは、高校卒後の社会人が高校での就職活動を振り返ってどう考えているのかの参考になり、政策決定の際の重要な材料であるといえよう。
こうした目的に照らし、以下の回答は体裁の統一のみしており、原文から修正しておらず誤字脱字などがある。また、参考として回答者の通し番号・性別・卒業学科・回答時年齢を記載している。通し番号は公開した資料と対応しており、気になる内容があれば通し番号を参考頂くことで前後の内容と併せて確認することができる。公開した資料は一覧性を高めるため、50音順に並べ替えているが、本稿では内容を確認することが容易となるよう、類似した内容が含まれる回答の通し番号も付記した。ご参考頂きたい。
それでは順に見ていこう。

①企業情報の不足に関する意見1(類似回答の通し番号27-51、120-154)
表①.jpg企業情報の不足に関する意見は数が多かったため、複数に分割して整理する。まずは、「いろいろな会社の情報がほしい」「いろいろ応募したかった」「たくさんの会社の職場見学やインターンシップを経験したかった」という声があがっている。多くの会社の情報を得たかった、選考を受けたかったといったことが、就職活動を振り返った際に課題として挙がることがわかる。

②企業情報の不足に関する意見2(類似回答の通し番号197-303)
表②.jpg「もっといろんな企業へインターンシップに行ける時間を」「もっと自分に合った会社を探す手伝い」「もっと本当の社会の実情を教えてほしかった」といった、企業と接することや就業後の状況について知ることといった様々な機会の確保について様々な点についても要望が挙がっている。

③企業情報の不足に関する意見3(類似回答の通し番号340-395、430-471)
表③.jpg「会社での仕事内容をもっとくわしく」「会社の情報がもう少しほしかった」「企業に関する情報を」といった、入社するかもしれない会社や企業の情報に対して、当事者が感じてきた具体的な課題感が記載されている。レポートでは、情報の量の不足はその後の早期離職につながることも確認されており(※2)、重要な課題だといえよう。

④学校の取り組み・支援に対する意見(類似回答の通し番号398-424)
表④.jpg学校に来た求人・求人票からしか選択できなかったといった声があるほか、学校の就職指導方針に対して改善を求めるコメントがあった。

⑤求人の数や求人票に関する意見(類似回答の通し番号480-515)
表⑤.jpg求人や求人票に関しての意見が挙げられている。求人票上に掲載された情報が乏しいことや、見られる求人票自体が少なかったことなどが問題点として記載されている。

⑥就職活動プロセスに関する意見(類似回答の通し番号693-781)
表⑥.jpg就職活動については、「就職活動の相談にのってほしい」といった声があがっているほか、いわゆる“学校推薦”についてなど就職活動のプロセスに対して意見が挙がっている。相談相手については校内で相談にのってくれる人がいなかった、さらに校外にいればもっと相談できたのに、といった意見が見られる。

⑦職場見学や職場体験に関する意見(類似回答の通し番号826-940)
表⑦.jpg職場見学と職場体験に関するコメントは合わせて125名から記載があり、要望が強いことがわかる。高校3年生の夏休みに職場見学を行うことが多いが、その数を増やしてほしいという意見が挙がっていた。自分が就職する職場を見たかったという振り返りは、入社後のギャップやミスマッチが大きかった(※3)ことが背景にあると考えられる。

⑧進学との関係に関する意見(類似回答の通し番号979-1002)
表⑧.jpg「進学校では就職活動する人の肩身が狭い」など進学を重視する学校において就職指導が十分にされなかったという声があがっている。1990年代初頭のように卒業者の半数近くが就職する状況ではなくなっており、就職希望者が1桁の人数、という学校も多い。特に普通科高校では進路が多様となる中、就職に向けた十分な支援ができていないという問題も指摘されていることが背景にあるだろう(※4)。

⑨卒業生から話を聞きたかったという意見(類似回答の通し番号1071-1153)
表⑨.jpg社会人や企業の人の話を聞きたい、というコメントは多数挙がっていたが、中でも多かったのが卒業生から話を聞きたいという声であった。一番身近な社会人として、また生徒が等身大のキャリアモデルを探す際の材料として、卒業生からじっくりと具体的な話を聞きたかったということだ。

⑩面接の指導に関する意見(類似回答の通し番号1269-1364)
表⑩.jpg申し合わせにより、高校生の就職にあたって採用面接は1日1回限りで終了することがほとんどである。また、いわゆる一人一社制により1社ずつしか受けられず、最初に受ける会社が第1希望の会社となる関係上、この1回限りの面接の機会は生徒にとって文字通り、“人生をかけた準備なしの一発勝負”である。こうした状況が、面接に対して手厚い支援や相談にのってほしかった、という声があがっている背景にあると考えられる。ただ、先述した通り教員も進学指導や推薦入試対策などもあり、掛かりっきりになることが難しい状況もまた、こうした声の背景にあるだろう。

以上、主なコメントを整理して一部を紹介したが、このほかにも、多様な生の声が掲載されている。
こうした声はわかりやすい“データ”とはならないが、報告書に掲載されたデータのもととなる調査への回答をした一人ひとりが、自ら語った振り返りである。確かに高校生は未成年であり“当事者”として意見を聞く対象ではないのかもしれないが、卒後早々に社会人となる。その社会人が語る当事者の声を本当に聞いているだろうか。
当事者不在の議論にならないためにも、改めて確認する必要があるだろう。

(※1)高校卒就職者全体のサンプルサイズは3404。そのうち、「特にない」「忘れた」「思い出せない」、無記載、意味が判然としない回答などを除く
(※2)「高校生の就職とキャリア」P.12参照
(※3)例えば「高校生の就職とキャリア」P.2図表。初職に10点満点中0点を24.1%がつけている
(※4)普通科高校卒者の課題については「高校生の就職とキャリア」P.16。普通科卒では半年以内離職率が11.7%と全体平均(10.7%)より高い

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