高校生の求人は「小口でたくさん」
高校生と大学生の求人倍率をご存じだろうか。高校生の採用については2021年卒で2.08倍の求人倍率(厚生労働省調査)であり、これは大学卒の1.53倍と比較して高い(リクルートワークス研究所調査)。求人倍率は2017年卒以降、継続的に高校卒が大学卒を上回る状況となっており、企業の期待は大きい。
さて、これまで高校生の就職・採用について様々な観点から取り上げられてきたが、採用の実態、特に量的実態については触れられてこなかった。新卒採用において、採用枠・採用予定数という観点で、企業は高校生をどの程度採用したいと考えているのか。1社あたりの採用予定数について、今回は大学生の採用枠との比較から見ることで概況を明らかにしたい。
高校卒採用枠の平均は2.0人
まず新卒採用企業の採用枠の平均を確認したのが図表1である。高校卒は2.0人、大学・大学院卒は3.1人であった。高校卒採用予定数を高校卒と大学・大学院卒の合計数で除した比率(参考値)は39.2%だった。業種・従業員規模によりウェイトバックをしており、全国すべての採用企業1社あたりの平均値と推定できるデータである。
1社あたりの採用枠は大学・大学院卒の方がやや大きいことがわかる。高校卒の求人倍率の高さを合わせて考えれば、高校卒採用の方が小口でたくさんの企業が求人を出している、とも考えられる。
図表1 採用予定数の平均(※1)(業種・従業員規模によりウェイトバックしたもの)(人)
次に採用枠の重要な関係要素である、従業員規模別で見てみよう(図表2)。高校卒の1社あたり採用予定数は5~299人の中小企業で2.3人。5000人以上の大手企業で47.4人であった。中小企業では約2人と、同期がいないか・いても1人か、といった状況の企業が多いことがわかる。
また、従業員規模が5000人以上の場合、大学・大学院卒では100人以上の採用予定数だが、高校卒では50人以下である。規模が大きくとも高校卒の方が比較的小口の採用を行う企業が多いということだ。
また、300名未満の中小企業における採用枠の学歴差が小さいことからは、中小企業において高校卒人材がいかに重要な役割を果たしており期待されているか、を実感させる結果でもある。
図表2 従業員規模別の採用予定数(※2)(人)
業種別、地域別
業種別の結果を図表3に示した。1社あたりの高校卒採用予定数が多いのは、運輸業(22.2人)、機械器具製造業(15.0人)であった。ほか、製造業(機械以外)(10.7人)、飲食店・宿泊業(10.7人)も多い。他方で大学・大学院卒で1社あたりの採用予定数が多いのは、情報通信業(48.6人)、金融・保険業(39.0人)である。学歴別で大口の採用枠のある業種が異なっていることがわかる。
また、比率についても業種によって非常に大きな開きがあることがわかる。運輸業のように高校卒の比率が50%を超え(56.9%)、大学・大学院卒よりも採用予定数が多い業種が存在している。その一方で、情報通信業(6.2%)、金融・保険業(6.5%)のように高校卒が著しく少ない業種もある。
図表3 業種別の採用予定数(※3)(人)
図表4が地域別の結果である。人数では、1社あたりの高校卒採用予定数が多いのが、京阪神(13.9人)、中国(11.5人)、中部・東海(11.4人)である。大学・大学院卒では、首都圏(33.3人)、京阪神(27.1人)、中国(18.1人)が多い。北海道や東北、近畿では、学歴問わず小口の採用枠となっている。小口の求人が多い地域と、大口の求人が多い地域が存在していることがわかる。
大学・大学院卒では、地域を横断した就職活動が実施されているためこうした地域差は問題になりにくいが、高校卒では都道府県内就職率が8割を超えており地域横断が起きにくいため、地域差が顕在化する可能性が高いことは留意する必要がある。
なお高校卒の比率では、首都圏が低く(23.4%)、東北が高い(53.7%)という傾向はあるが、業種別ほど差は顕著ではない。
図表4 地域別の採用予定数(※4)(人)
高校卒採用の方が小口でたくさんの求人が出る
上記の結果から以下のことが判明した。
①高校卒採用の方が1社あたりの採用予定数が小さい。他方で、求人倍率は高校生の方が高い。このことから、高校生の就職の方が、「小口でたくさん」の求人が出ている状況と考えることができる。1社1社の採用予定数は少ないが、企業の選択肢はたくさん出ているのである。
②従業員300人未満の中小企業では高校卒数名、大学・大学院卒数名といった採用をしており、高校卒人材への採用上の重要性が高い。
③学歴別に大口の採用枠がある業種が異なっている。高校卒では運輸業、製造業が多いが、大学・大学院卒では情報通信業、金融・保険業が多い。
④大口の新卒求人を行う企業が多い地域と、そうでない地域がある。首都圏、京阪神は大口の傾向があり、北海道、東北は小口である。
新卒採用で一般に想起される大学・大学院卒の採用と異なり、高校卒採用についてはまだまだ実態が明らかになっていない部分がある。今回は大学・大学院卒と比較することで、その量的な概況を把握することを試みた。
例えば今回の①の結果からは、ニッチな1対1のマッチングの重要性が明らかになった。マーケティングでいう「ロングテール」の考え方に近い状況ともいえよう。つまり、高校生の就職・採用に必要なのは「生徒一人ひとりと小さな採用枠とのマッチング」である。個性あふれる生徒たちを個性あふれる企業にどのようにつなげていくのか。試行錯誤は始まったばかりである。
(※1)今回の結果はすべて、リクルートワークス研究所(2020)企業の採用状況と採用見通しに関する調査より。新型コロナウイルス感染症の影響を受ける直前の採用予定数を聞いたデータを用いており、近年の景況感が安定的である際の企業の採用行動を確認できる
(※2)図表2以降はノンウエイトの実数。サンプルサイズが100以下の項目は除外した
(※3)電気・ガス・熱供給・水道業、不動産業、教育・学習支援業、その他の4項目はサンプルサイズが100以下だったため除外
(※4)地域は本社所在地