新卒採用における大学卒と高校卒の関係とは

2021年03月23日

毎年の新卒採用において、多くの企業は大学卒と高校卒を採用する。企業は採用を決める時に、両者の人数をどのように決定しているのだろうか?例えば大学卒と高校卒の採用比率はどうなっているのだろうか?また景気が悪化した時は、大学卒と高校卒のどちらを優先的に減らすのであろうか?それとも一方を増やし、もう片方を減らすのであろうか?
これは非常に重要な問題だ。大きな景気ショックがあった時に、企業が新卒採用をどのように調整しているかを知ることは、政策的インプリケーションが大きい。より大きく減らす方に、政府は手厚い保護をできるし、学生側も対応をとりやすい。また将来の高校卒(大学卒)の採用を予測する際の参考情報となる。
そこで本稿では、企業における大学卒と高校卒の採用の関係を考察してみよう。高校卒については、厚生労働省「高校・中学新卒者のハローワーク求人に係る求人・求職状況」がある。しかしこの調査には大学卒についての情報がないため不十分だ。同時点で企業が大学卒と高校卒の採用をそれぞれどのように考えているかを知る必要がある。よって今回はリクルートワークス研究所「採用見通し調査」と「大学卒求人倍率調査」を使用する。

マクロで見ると、ほとんど同じ傾向を示す

まずリクルートワークス研究所「採用見通し調査(2022年卒)」を見てみよう。これは今年度と比較して、来年度の新卒採用が増えるか否かを調査したものだ。図表1は「増える-減る」のポイントを表している(※1)。
見ればわかるように、両者は似たような動きをしている。例えば大学卒が増加すると、高校卒も増加している。例外は2012年卒~2014年卒だ。大学卒は増加しているが、高校卒は減少している。この3年間は、リーマンショックによる景気後退から、回復への足踏みをしている時期だった。2010、2011年卒で大学卒と高校卒、新卒採用が両者とも抑制された。しかし次の年からは、企業にとって将来的により必要と考えられる、大学卒への採用需要がより強く回復している。また2020年卒は大学卒と高校卒ともに増加している。しかし増加ペースについて、高校卒は+6.7%ポイントから+7.8ポイントへと、1.1%ポイント増加しているが、大学卒については、+10.7%ポイントから+7.9%ポイントへと2.8%ポイント減少している。この時期(2020年卒の採用について企業が考え始める2018年10~12月期ごろ)は過度な人手不足が議論されていた。一部の中小企業にとって、大学卒採用が困難な時期であった。その分、高校卒で採用をより増加させたと推測できる。
この2つの結果からは大学卒と高校卒の新卒採用は、多くの年では補完的ではあるが、大幅な景気後退や人手不足など大きな需要ショックのもとでは一部代替的な動きが見られる可能性がある。

図表1 新卒採用における「増える-減る」の%ポイントの時系列推移図表1.jpg注:来年度の新卒採用について、今年度よりも増えるか減るかを調査している。調査はその年度の10月から11月にかけて実施されている。
出所:リクルートワークス研究所「採用見通し調査(2022年卒)」

高校卒の方が採用の変動が大きい

次にミクロデータから観察してみよう。リクルートワークス研究所「大学卒求人倍率調査」を使用する(※2)。こちらは各年2月時点において、次年度、大学卒と高校卒をそれぞれ何人採用するかを聞いている。ここで分析に使えるのはコロナショックだ。2021年卒についてはコロナショックの影響を見るために、2月時点と6月時点の2時点で調査をしている。その前後を比較する。
図表2は2時点間での比較だ。企業は高校卒と大学卒ともに採用を減らしていることがわかる。やはりコロナショックで多くの企業にとって景況感が先行き不透明となり、採用を手控えた様子がわかる。標準偏差を平均で除した変動係数を見ると、高校卒が-15.63で大学卒が-9.43となっている。高校卒の方が、変動が相対的に大きく、より柔軟に雇用調整されていることになる。平均的には企業はまず高校卒の採用で調整したことがうかがえる。

図表2 コロナショック前後での採用予定人数の変化図表2.jpg出所:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2021年卒)」

企業ごとに採用の個体差が大きい

次に内訳の詳細を見てみよう。大学卒と高校卒について、人数を増やした企業・減らした企業・変更がなかった企業の割合をそれぞれ見てみる(図表3)。まずコロナ禍にも関かかわらず、67.2%もの企業が採用人数を大学卒と高校卒ともに、変更しなかったことがわかる。コロナ禍において、多くの企業が一気に採用を絞るといった報道も見られたが、実際には新卒採用は守られる傾向にあった。また変更しなかった企業以外では、大学卒、高校卒ともに、減少させた企業が多い。減らした企業については、大学卒:14.4%、高校卒:13.9%であるのに対して、増やした企業は大学卒:6.9%、高校卒:9.1%にとどまっている。一方で、コロナ禍にあっても、増加させた企業も一定数存在する。また大学卒を増やし、高校卒を減らした企業(2.2%)も存在するし、高校卒を増やし、大学卒を減らした企業も存在する(1.6%)。企業における新卒採用は個体差(異質性)が大きいことがわかる。

図表3 コロナショック前後での採用予定人数の変化図表3.jpg出所:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2021年卒)」

大学卒と高校卒は補完関係に近い

最後に、大学卒と高校卒の採用の関係をより定量的に分析してみよう(※3)。大学卒の採用人数を高校卒の採用人数で回帰分析する。2月と6月の2時点を利用した固定効果分析を試みる。採用は企業の個体差が大きいことは上述したが、固定効果分析だと個体差を除去することができる(※4)。コロナショックに対して、企業は採用人数をどのように調整したのだろうか。結果は以下のようになった(図表4)。
まず平均的に企業は高校卒を1%増加(減少)する時に、大学卒を0.249%増加(減少)することがわかる。これはある企業が高校卒と大学卒をともに100人採用しているとして、高校卒を1人増加する時、同時に大学卒は約0.25人分採用を増やすということだ。同じ方向に調整するということは、どちらかというと補完関係に近いことがわかる。また高校卒に対して、大学卒はあまり調整しないという結果となり図表2と整合的だ。
業種別に見ると、製造業とサービス・情報業はともに有意な結果となっている。これらの業種については、大学卒と高校卒がより密接に関連している。特に製造業については、企業は高校卒を1%増加する時に、大学卒を0.355%増加するという結果になった。一方で、建設業、流通業、金融業については統計的には有意ではないものの、係数は全てプラスとなっている。
企業規模別に見ると、企業規模1000人以上企業について、高校卒を1%増加すると、大学卒を0.389%増加するという結果になった。企業規模1000人未満企業については0.167%だ。相対的に資本力が小さい中小企業にとって、大学卒の採用はより困難であるし、また減らすことも難しい。

図表4 大学卒と高校卒採用の弾力性図表4.jpg出所:リクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2021年卒)」

高校卒への対応を

マクロデータとミクロデータの両方を用いて、企業の新卒採用における、大学卒と高校卒の関係を考察した。両者の関係は平均的には補完関係に近い。一方で、景気ショックの状況や個別の企業ごとによって、その関係は異なる。一律の政策というよりは、個別企業の状況を鑑みた具体的な政策が望ましいことは言うまでもない。また高校卒は大学卒と比較して、景気の影響を受けやすく、採用の変動が大きい。好景気のときは良いが、不景気の時など、大学卒以上に対策をとる必要がありそうだ。

(※1)調査の詳細は、リクルートワークス研究所「採用見通し調査(2022年卒)」を参照されたい。
(※2)調査の詳細はリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2021年卒)」を参照されたい。
(※3)代替・補完関係の測定については、本来はCES型生産関数と呼ばれるものを推定して、代替の弾力性の係数から判定すべきである。また企業の投入物として、他の人員(中途採用、アルバイト・パート・派遣)や資本もあるが、これらは考慮していない。今回は簡便化のため、脚注4の手法で概観した。
(※4)大学卒と高校卒の採用人数それぞれについて対数をとって、2月調査と6月調査で差分をとった上でOLS推定した。正確には一階差分推定法だが、2期間の場合は固定効果推定と推定量は一致する。また除去できない個体差も存在する。

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