設計や検査などは自動化が進むも、建築施工の領域は人手に頼る部分が多く残る

【まとめ】自動化・機械化による働き方の進化 建設編(後編)

2023年03月24日

多発する自然災害、社会資本の老朽化への対応などから建設需要が高まるなか、建設業界では熟練労働者の大量離職によって人手不足のますますの深刻化が予想されており、労働環境整備や生産性向上は喫緊の課題となっている。後編では土木工事、建築工事、測量や検査など各分野の自動化・機械化の可能性と働き方の進化について予測する。

土木工事の自動化・機械化と働き方の進化

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■ 大規模現場やトンネル内のハイリスクな現場で進む自動化

道路、トンネル、鉄道、橋梁、港湾施設、ダム、上下水道などのインフラ建設の中でも、特に自動化の効果が表れやすいのが「土工」である。土工は土を掘り、運び、積み上げるといった基礎的な作業で、道路工事や河川工事、ダムなどの造成工事など幅広い現場で発生する。これまではバックホウで土砂を積み込み、重ダンプトラックで人が何往復もして運び、ブルドーザーで撒き出し、ローラーでならすといった作業を熟練オペレーターがこなしていた。鹿島建設の次世代型建設生産システム「クワッドアクセル」では、1人の作業員がタブレット型端末で指示を与えるだけで、複数の重機を自律的に操作できるようにしている。大林組も、米国シリコンバレーで重ダンプトラックの自律走行やバックホウの自律運転を実現している。将来的に自動化施工の技術が進展していけば、1人の作業員が複数台の重機を操ることで、施工現場の省人化が図れるようになるだろう。単純な繰り返し作業を自動化する一方で、熟練オペレーターは法面の形を精密に作るといった、機械には難しい作業に集中できるようにもなる。

崩落や出水の危険と隣り合わせで、粉塵が舞うトンネル先端部の「切羽」における発破作業や「掘削ずり」と言われる岩石の屑の運搬作業は、最も過酷なタスクの1つである。西松建設では切羽を削孔するドリルジャンボ、ずりを搬出するホイールローダー、覆工を行う吹付け機などの遠隔操作を実現し、オペレーターは安全な操作室内からこれらを操縦する。将来的にトンネル内の通信環境を整備していけば都心の本社での操作も可能になるかもしれない。

このように土木工事における現場での単純作業や苦渋作業が減っていけば、将来的には工事の全体を管理したり、機械をマネジメントしたり、現場の状況に合わせてチューニングしたりする作業など機械ではできない仕事へ人は徐々にシフトしていくだろう。

建築工事の自動化・機械化と働き方の進化

建築工事の自動化

■ 各種ロボットの活用によって、人とロボットとの協働が進む

建築工事の中でも塗装、溶接、外装工事などはミリ単位の緻密な作業が必要であり、人手を排した完全な自動化は難しいだろう。現在開発が進んでいるものとしては、建築部材を運搬する搬送ロボットや上下の柱を溶接するロボット、鉄筋結束ロボット、天井ボードの取り付けなど多様な作業をこなす多機能ロボットなどがある。従来、複数人で行っていた建具の移動について、大規模な建設現場では搬送ロボットが徐々に普及していけば、搬送ロボットによる夜間の作業に必要な人手の一部を代替できるようになる。そのためには、人が行う作業と機械が行う作業について、業務プロセスを見直していくことも必要である。また、溶接ロボットや鉄筋結束ロボットの導入によって、高所などで長時間、不自然な姿勢で行っていた取り付けや溶接、鉄筋の結束作業などからも労働者は少しずつ解放されることが期待される。高層ビルでのタワークレーン操作は現状長時間の作業を強いられているが、これも遠隔操作システムの実用化などで地上からのオペレーションが可能になりつつある。一方で、どうしても人手が必要な作業も多く残ると見られる。コンクリート打設などの繊細な作業は全自動で行うことは難しく、フローリングや壁紙の施工などはきれいに仕上げようとすれば人手なしにこれを実現することは不可能だろう。

鹿島建設が進める「鹿島スマート生産ビジョン」では、「作業の半分はロボットと」「管理の半分は遠隔で」「全てのプロセスをデジタルに」の3つをコアコンセプトに掲げており、洗い出した約50種のタスクのうち、ロボット実装が可能な作業を当面5割と想定している。将来的には、資本力のあるゼネコンが中心になってロボットの導入や遠隔操作、デジタル化の取り組みを実現していくことで、人とロボットの協働がスタンダードになっていくことが期待される。

土木工事同様、建設現場で機械化が進展していけば、現場の技術者は従来の業務の中でロボットでは扱い切れない業務を補完したり、各種のロボットを組み合わせ、配置や手順などを最適化したりするためのマネジメント力が求められるようになるだろう。

測量・設計・検査・報告の自動化・機械化と働き方の進化

測量設計検査の自動化

■ ドローンやBIMによる3次元データ活用で紙を一掃

国土交通省が建設現場の生産性革命を目指す「i-Construction」では、調査・測量、設計、検査などのあらゆるプロセスで3次元データを活用し、現場作業や資料作成の負荷軽減に取り組む。測量は従来、測量士らが現場で測量機器による作業を実施し、高さ、幅、長さなどのデータを一定間隔で測定し、二次元の図面を作成していた。ドローン測量では、UAVによる写真測量などで得られた3次元点群データからなる面的な竣工形状の作成を可能にしている。これによって、従来手計算だった工事の発注に必要な施工量(切り土、盛り土量)や概算コストの自動算出が可能となった。

完了時の検査についても従来、例えば施工延長200mにつき1カ所現場での検査作業が必要だったものが、GNSS(Global Navigation Satellite System / 全球測位衛星システム)による検査の導入で検査日数は約5分の1に短縮。データ化の取り組みを進めることで検査書類は従来の約50分の1になる予定だ。また、これまでは測量と施工では役割が断絶しており、二者のやりとりはいまだに紙で行われているケースが多かった。ドローンによる三次元データの取得が行われるようになれば、取得データを共有して管理でき、効率や品質の向上につながる。建築現場においてもBIM導入により、従来タワーマンションの現場で施工管理者が毎日3~4時間かけて一部屋一部屋点検し、進捗をメモしていたのが、BIM上の仮想空間で確認作業を完結できるようになるだろう。

自動化・機械化実現への課題と働き方の未来

■ 課題は協調領域におけるシナジーの創出とコストダウンの追究

現状では土木工事、なかでも国直轄のダムやトンネルといった工事、建築工事では大手ゼネコンを中心に高層ビルなどの現場で自動化・機械化が進むが、まだまだ実験段階に近い。開発面での課題の1つは、自動化を進めるゼネコンと重機などの改造を請け負う建機メーカー間で秘密保持契約が必要となることから個別グループが乱立し、研究の重複が発生することである。既に鹿島建設、竹中工務店、清水建設らによる建設RXコンソーシアムでの共同開発がスタートしているが、ここでの協調領域のシナジー創出と競争領域での応用の好循環が実現できるかが重要な鍵になる。また、建設業全体での統一規格を整備しなければ外部のスタートアップなどの参入、新たな発想によるブレークスルーなども期待しにくい。ロボットなどの導入コストの課題も大きい。現状では配筋アシストロボ1台のコストが1500万円などとなっているが、業界内で普及を進めコストダウンを追求していくことが不可欠である。業界が統一して協働発注することにより1台あたりのコストを下げる取り組みも必要になるだろう。こうした観点から、99%を占める中小建設会社にこうした先行事例の成果が反映されるまでにはまだ時間を要すると見られ、機械化・自動化の進展には乱立する事業者の集約が欠かせない。

働き方の今後の方向としては、まず3K作業や検査・報告などの付帯業務からの解放を進め、次に遠隔操作などロボットフレンドリーな働き方で現場でのタスクの一部を代替していくことになるだろう。ロボットの導入や操作の遠隔化の先には、土木工事などで自動化・無人化を進めていくといった進化のプロセスを辿ると見込まれる。現場の作業員はスマホやタブレットを使いこなすことが必須となるため、こうした機器をゲーム感覚で扱える若い世代の活躍の場が広がるかもしれない。オペレーターは複数のロボットを導入、管理するため、機電系の知識やAI、データ活用のスキルも一定程度求められるようになる。

(執筆:高山淳、編集:坂本貴志

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