定年後は、低賃金の仕事しかない?

2021年02月08日

老後に豊かな生活を送るため、高齢期にどの程度の収入を得ることができるかは、多くの人にとっての大きな関心事項になる。高齢者はどの程度の収入を稼いでいるのか、その実態を探っていこう。

定年を境に収入は急速に減少する

年齢階層別の主な仕事からの収入を見てみよう(図表1)。

グラフからは、55歳頃を境に年収が急速に減少していく様子がみてとれる。主な仕事からの年収が500万円以上の人に焦点を当てれば、55歳時点では21.6%いるが、60歳時点では15.1%へと減少する。そして、60歳以降はその比率は急速に減少していき、65歳時点で7.0%、70歳で5.2%まで下がる。

一方で、年収が300万円に満たない人の割合は55歳で61.4%、60歳で72.8%、65歳で84.2%となる。70歳になると90.8%が年収300万円未満の収入となり、300万円以上稼ぐ人は1割にも満たなくなる。こういった状況を見ると、日本の労働市場においては、定年前後で収入が激減することは多くの人にとって避けられない事実であるとわかる。

図表1 年齢別の平均年収

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出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」 注:中央3年移動平均により算出している。2019年時点の数値。

希望して短時間労働者に

ただし、収入が大きく減っている背景には、働き方の変化があることも理解しておく必要がある。

年齢別の平均週労働時間をみると、長時間働く人は年齢を経るに従い減少していく。週40時間以上働いている就業者は、55歳から70歳にかけて64.8%から53.6%、41.5%、30.1%へと減る。

その一方で、70歳時点の週労働時間は、0~9時間が15.6%、10~19時間が23.3%、20~29時間が12.1%。定年前の労働者の労働時間と比較すると明らかに短いが、これは多くの人が短時間の就業を自ら望んでいるからである。現在の労働時間を増やしたり減らしたりする希望があるかを尋ねてみると、60歳以上の労働者は「特に希望がない」が73.7%となり、25~59歳の労働者(同56.5%)よりも明らかに比率が高くなる(図表3)。

例えば、週4日1日6時間働けば24時間、週3日1日5時間働けば15時間となるように、高齢になるほどに自分のペースで働く人が多くなる。

そして、その結果としての時給を見てみると、給与総額よりは大きくは下がらない。ただ、それでも時給は徐々に減少していくことは確かで、時給が1500円未満の人は、55歳から70歳までに41.7%から50.1%、60.4%、66.3%へと上昇(図表4)。徐々にこういった低賃金で働く人が多数派となる様子がうかがえる。

図表2 年齢別の平均労働時間

図表2_年齢別の平均労働時間.jpg

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」 注:中央3年移動平均により算出している。2019年時点の数値。

図表3 労働時間の増減希望の有無

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出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」 注:2018年時点の数値。

図表4 年齢別の平均時給

図表4_年齢別の平均時給.jpg

出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」 注:中央3年移動平均により算出している。2019年時点の数値。

高賃金で無理なく働くのは難しい

以上のようなデータから浮かび上がることは、高齢労働者は高賃金を諦めざるを得なくなっているという現実と、その代わりに自分の好きな労働時間を選ぶことができているという現実である。

これをどう見るか。高齢になっても、今までと変わらぬ仕事、変わらぬ賃金で働ける環境を用意できない社会が悪いのか。それとも、生活を優先しながら働くためには賃金単価の低下は甘受すべきものであるのか。

いずにせよ、高賃金でかつ無理なく働くという選択肢が、現実としてなかなか存在し得ないのは事実といえそうである。

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