定年後は、仕事のレベルが下がる?
定年後に収入が激減するのはなぜだろう。今回は仕事の量や質に焦点を当てて仕事の中身を分析してみよう。
仕事の量が減り、レベルが下がる
高齢就業者の取り組んでいる仕事の量はどの程度であるか。全国就業実態パネル調査では、自身の職場で「処理しきれないほどの仕事であふれていた」かどうかを聞いている。この設問に「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人の割合を見ると、年齢が上がるにしたがってその数値は低下していくことがわかる(図表1)。
仕事の負荷が高い人の割合は50歳で26.7%であるが、60歳では17.6%、70歳には8.4%まで下がり、50歳以降に仕事の量が急激に減っていることが推察されるのである。
さらに、年齢ごとの仕事の質の変化を追うと、年を経るにしたがって仕事の質が低下していくことが見て取れる。年齢を重ねるごとに仕事の質がレベルアップした人の数が減少し、逆にレベルダウンした人が増えており、特に、60歳以降は仕事の質が低下する人が顕著に増えている。
こうして見ると、高齢期に給与が下がるのは、つまるところ給与が仕事の量・質に連動しているからなのだろう。無論、このような現象が生じるということは、年齢を理由にして有意な仕事を奪う企業側の姿勢に問題があるということを示唆している。
しかし、それと同時に大なり小なり本人の能力の問題もあるだろう。年をとるにしたがい気力や体力が失われていったり、日々進歩が続く情報通信技術についていけなくなったり、持っている知識や経験が陳腐化したりすることも少なからずあると考えられるからだ。
図表1 仕事の量と質
出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」 注:中央3年移動平均により算出している。2019年時点の数値。
失われる学び
その証左に、仕事に関する学びも年を重ねるごとに行われなくなる。図表2はOJT、Off-JT、自己啓発の別に仕事に関する学びを行っている人の割合の変化を表したものである。例えば、自己啓発については、30歳で自己啓発を行った人は36.3%いるが、そこから緩やかに減少しはじめ、60歳ではその比率は29.1%となる。そして、60歳以降は自己啓発比率は急速に低下し、70歳では18.8%まで下がる。
自己啓発比率は非就業者を含めて算出されるため、働いていない人が多い高齢層ではその比率はどうしても小さくなるが、OJTやOff-JTも高齢期に比率が低下していることを見ると、年を経るにしたがって学びが失われていく傾向があるのは確かだろう。
経済学の理論に照らせば、この現象を理解することはたやすい。つまり、高齢期に教育投資を行っても、期待できる残りの就業年数が少ない高齢者にとっては、その投資効果の回収がうまくいかないからであろう。
こうしたなか、現状に甘んじて高齢期に仕事に関する学びを放棄することは望ましくないことだ、生涯現役時代にあっては生涯にわたって学び続けよ、このような声も聞こえてきそうだ。
しかし、高齢者の上述した姿勢に疑問を呈することははたして適切な考えだろうか。高齢期のキャリアは、学び続けることを良しとする現役時代のキャリアとは趣を異にすべきものではないか。
いずれにせよ、仕事を通じて職業能力を高め、仕事を拡張し続ける現役時代のキャリアと、自身の能力の限界に気づき、仕事の縮小を受け入れざるを得なくなる高齢期のキャリアは構造が大きく異なるということを、データは物語っているのである。
図表2 OJT、Off-JT、自己啓発を行っている人の割合(年齢別)
出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」 注:中央3年移動平均により算出している。2019年時点の数値。