年50万人以上が参加、2万7000の充実した訓練プログラム【登録見習い制度-Part2】

ケイコ オカ

2024年11月11日

見習い訓練は、若年者の失業率の改善など、有効性が認められた制度として多くの国で導入されている。特によく知られているのは、ドイツで古くから実施されている、デュアルシステムである。米国の制度も、個人が企業で実践的な訓練を受けつつ、並行して職業学校での教育を受けるという点は同じで、法制化も早かった。ここでは、見習い制度の根拠法や特徴を紹介する。

1937年全国養成訓練制度法とその規則

「1937年全国養成訓練制度法」は、現在の登録見習いプログラムの基礎となる法律で、米国労働省が見習い実習生の福祉を保護するために必要な労働基準を策定し、州と協力して見習い制度を促進することを定めている。
この法律に基づく代表的な規則には、以下のものがある。

  • 登録見習いプログラムに関する規則(Title 29 CFR Part 29):2008年12月29日に発効。見習い制度の近代化を支援し、幅広い労働者のニーズに対応する柔軟なモデルを設定し、プログラムの品質と業績を向上させる枠組みを定めている。

  • 見習い制度における雇用機会均等に関する規則(Title 29 CFR Part 30):2017年1月18日に発効。登録見習いプログラムにおける機会均等を促進するための方針と手順を定めている。

その他の法律

  • 1998年労働力投資法(Workforce Investment Act of 1998)」は、1933年に成立した「ワグナー・ペイサー法(Wagner-Peyser Act of 1933)」を修正・補完するもので、求職者が1カ所で職業紹介、失業保険、教育・職業訓練情報を含む包括的なサービスを受けられるワンストップ型のキャリアセンター「アメリカン・ジョブ・センター(American Job Centers)」を各州に整備することを求めている。また、登録見習い制度については、コミュニティカレッジや大学を含む高等教育機関が訓練サービスの提供者となることを定めている。

  • 2014年労働力革新機会法(Workforce Innovation and Opportunity Act of 2014)」は、1998年労働力投資法(Workforce Investment Act of 1998)に取って代わるもので、求職者が労働市場で成功するための雇用、教育、職業訓練、サポートサービスにアクセスできるようにし、雇用主がグローバル経済で競争するために必要な熟練労働力を獲得できるように設計されている。米国労働省雇用訓練局の管理下にあり、特定の要件を満たした成人、失業者、若者の労働力開発プログラムを支援するための資金を提供している。この資金は、労働力開発委員会を通じて各州に割り当てられ、登録見習い制度の運営や支援にも充てられている。この法律は、求職者と労働者の雇用機会を向上させ、多様な人材と国の事業を結びつけることで、公共労働力システムを変革することを目的とし、登録見習い制度を重要な労働力戦略として位置づけている。

登録見習い制度の特徴

登録見習い制度の特徴は以下のとおりである(※1)。

  1. 年齢の上限なし
    参加資格は州により異なる。一般的には16歳以上で高校卒業者またはGED〈General Educational Development(※2)〉を取得し、希望する職種に必要な基準を満たしていること。年齢の上限はない。
  2. 見習い期間
    期間は1年から6年で、職種やスキルレベルによって異なる。
  3. 座学と実地訓練
    職場での実地訓練(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と教室での授業の両方で構成される。実地訓練では、経験豊富なメンターの指導を受ける。教室での授業時間は大学の単位として認められることがあり、教室での技術指導は合計144時間以上、職場での実地訓練は合計2000時間以上が必要である。
  4. 業界主導
    プログラムは、業界標準に基づいて査定・承認されており、見習いが高度なスキルと需要の高い職業の訓練を受けることを保証する。プログラム修了時には業界が認定した資格が付与される。
  5. 漸進的な賃金
    賃金は、スキルと生産性の向上に伴って段階的に上がる。
  6. 補習教育
    雇用主の訓練ニーズに基づいた補足的な教室授業を受けることができる。
  7. 多様性
    非差別、反ハラスメント、アクセス、公平性、インクルージョンを確保するための採用慣行を取り入れている。
  8. 品質と安全性
    見習い実習生は、安全な職場環境で、成功に必要なスキルと安全に必要な訓練を受けるための厳格な指導を受ける。
  9. 税控除
    多くの州では見習い実習生を雇用する企業に対して、税控除制度を適用している。

利用方法とその実績

各州の見習い機関は、企業のニーズに応じて、訓練プログラムを設計し、大学や職業訓練校などのパートナーがその支援を行う。また、企業はオンラインの「基準ビルダー(Standards Builder)」を使ってプログラムを開発することができる。各州の登録見習いコンサルタントが各プログラムを完成させ、企業独自のプログラムを正式に登録する。求職者は、オンラインの「見習いプログラム・ファインダー(Apprenticeship Finder)」を使って直接応募するか(図表1)、最寄りのジョブセンターで相談して、希望する登録見習いプログラムに参加することができる。

【図表1】見習い希望者向けの見習いプログラム・ファインダー

見習いプログラム・ファインダー・ウェブサイト

出所:見習いプログラム・ファインダー・ウェブサイトhttps://www.apprenticeship.gov/apprenticeship-job-finder

登録見習いの対象職種は州によって異なる。ニューヨーク州では100職種以上、カリフォルニア州では700職種以上あり、全米では1000職種を超えている。伝統的に人気の高い職種には、大工、調理師、建設作業員、歯科助手、ソフトウエアエンジニア、メカトロニクス技師、エレベーター技師などがあるが、2024年時点で特に人気の高い職種は、電気技師、情報セキュリティ・アナリスト、ソフトウエア開発者などである。
米国労働統計局によると、2022年には約2万7000の登録見習い訓練プログラムが利用され、50万人以上が参加した(※3)。

登録見習い制度に参加する実習生の特徴は下記のとおりである。

  • 男女比:男性が約87%と多くを占めている。
  • 人種別:白人が約62%、ヒスパニック系が約24%、黒人・アフリカ系アメリカ人が約11%、アジア系が約2%。
  • 年齢別:16~24歳の若年が約41%を占めている(※4)。

【図表2】職種別見習い実習生の人数、雇用者数、予想求人数、賃金中央値(一部抜粋)

職種

見習い実習生数
〈2022年〉(人)

雇用者数
〈2021年〉(人)

予想求人数
〈2021-2031年の年平均〉(人)

賃金中央値
〈2021年の年収〉(ドル)

人を手助けする職種
看護助手 4,033 1,343,700 212,700 30,310
刑務官 3,124 402,200 31,200 47,920
消防士 2,306 326,100 28,000 50,700
登録正看護師 2,281 3,130,600 203,200 77,600
調剤助手 2,167 447,300 43,500 36,740
保育士 1,701 949,000 170,100 27,490
高等教育以外の教員助手 903 1,235,100 153,700 29,360
医療助手 780 743,500 123,000 37,190
設置・修理などの職種
電力線設置・修理士 15,249 126,600 11,100 78,310
加熱・空調・冷蔵冷凍整備士 8,535 394,100 40,100 48,630
電気通信機器設置・修理(電線設置以外) 4,810 178,000 22,500 60,370
産業機械整備士 3,095 384,800 42,500 59,840
一般メンテナンス修理士 1,464 1,539,100 160,100 43,180
電気電子修理(商業産業機器整備) 992 52,800 5,000 61,730
自動車サービス技師・整備士 966 733,200 73,300 46,880
電気電子修理(発電所・変電所継電器) 963 22,800 1,900 93,420
製造関連職種
機械工 1,884 342,600 37,500 47,730
工具・金型職人 1,401 65,100 6,500 57,000
電気機械・メカトロニクス技師 1,343 12,100 1,100 60,360
溶接工・裁断師・はんだ職人・ろう付工 1,315 428,000 47,600 47,010
化学設備技師 1,024 110,300 10,600 48,090
航空機器・索具等組立工 964 34,300 2,900 49,480
産業エンジニア技師 903 64,200 6,600 60,220
その他の職種
重機・トレーラートラック運転手 9,944 2,094,700 259,900 48,310
ハウスキーピング・清掃 2,066 1,237,400 193,500 28,780
フードサービス・マネジャー 1,820 329,100 45,000 59,440
理容師・美容師・コスメトロジスト 1,751 608,900 93,800 29,680
調理師 1,652 2,648,700 480,600 29,120
ソフトウエア開発者 1,219 1,425,900 143,400 120,730

出所:U.S. Bureau of Labor Statistics, “Beyond Construction Trades: Apprenticeships in a Variety of Careers” (2022) https://www.bls.gov/careeroutlook/2022/article/apprentice-beyond-construction.htm#:~:text=The%20U.S.%20Department%20of%20Labor's,registered%20apprenticeship%20programs%20in%202022

(※1)登録見習い制度の特徴については、ApprenticeshipUSAのウェブサイトhttps://www.apprenticeship.gov/ (last visited September 22, 2024)参照。
(※2)日本の高等学校卒業程度認定試験にあたる。 
(※3)U.S. Bureau of Labor Statistics, “Beyond Construction Trades: Apprenticeships in a Variety of Careers” (2022) https://www.bls.gov/careeroutlook/2022/article/apprentice-beyond-construction.htm#:~:text=The%20U.S.%20Department%20of%20Labor's,registered%20apprenticeship%20programs%20in%202022 (last visited September 22, 2024)
(※4)ApprenticeshipUSA, “Apprentice Population Dashboard” (data through April 19, 2024) https://www.apprenticeship.gov/data-and-statistics/apprentice-population-dashboard (last visited September 22, 2024)

ケイコ オカ

2001年大阪大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は労働法。同年4月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。労働者派遣法の国際比較や欧米諸国の労働市場政策を研究する。