米国における有給休暇制度

ケイコ オカ

2025年04月24日

連邦レベルでは法定有

先日、メジャーリーグのドジャースに所属する大谷翔平選手が、妻の出産に立ち会うために父親休暇を取得したことが話題となった。出産の48時間前から最長3日間の有給休暇を取得できるというメジャーリーグの「父親休暇リスト」制度は、2011年に締結した、メジャーリーグと選手会間の労働協約によるものである。

米国では母親が取得する産前産後休暇だけでなく、父親休暇も一般的であるようなイメージがあるかもしれないが、実際には連邦レベルで、産前産後休暇や父親休暇を含めて、法定有給休暇を定める法律は存在しない。休暇に関する法律としては、唯一、1993年に成立した家族・医療休暇法(Family and Medical Leave Act of 1993、FMLA)がある。この法律は従業員規模50人以上の雇用主に適用され、過去12カ月に1250時間以上の労働時間で雇用された労働者に対し、自身の健康状態、出産、育児、家族の看病、介護などを理由とする「無給」の休暇取得を12カ月間に12週間保障するものであり、「有給」の休暇を保障するものではない。

パンデミック下において有給の家族・医療休暇法制定の必要性が高まり、当時の連邦政府は2020年に、時限的な「家族第一・新型コロナウイルス対策法(Families First Coronavirus Response Act、FFCRA)」を制定した(2020年12月末失効)。その後、バイデン政権は有給休暇を恒久制度化する「よりよき再建法案(Build Back Better Act、BBBA)」にその内容を盛り込み、制定を試みたものの、連邦議会での修正段階で有給休暇に関する規定は削除された。

州レベルにおける有給の家族・医療休暇制度とニューヨーク州の有給産前休暇制度

2024年12月現在、13州(※1)とコロンビア特別区において、有給の家族・医療休暇制度が導入されている。また、ハワイ州には資格のある労働者に有給の一時的な障害休暇を提供する法律があり、ニューハンプシャー州、バーモント州、バージニア州の3つの州には、特定の要件のもと、民間の労働者と雇用主が民間の家族休暇保険または医療休暇保険を購入できるプログラムがある(※2)。

カリフォルニア州の有給家族・医療休暇制度は、同州の障害保険制度に基づくものである。①子どもの出産、養子縁組、里親への預け入れ、②重病の家族の世話、③配偶者、同居のパートナー、子ども、親の差し迫ったあるいは持続的軍務に関連する緊急事態において利用が可能で、12カ月のうち最高8週間まで取得できる(※3)。この制度を利用できるのは、当該休暇の開始時に雇用されている、または、積極的に求職している人のうち、過去18カ月間に300ドル以上を稼ぎ、同州の障害保険に加入している人で、支払われる金額は週当たり50ドルから1681ドルである。この制度とは別に、無給の家族・医療休暇制度もある(California Family Rights Act)。同州の無給の家族・医療休暇制度が適用されるのは従業員規模5人以上の雇用主で、連邦の家族・医療休暇法よりも適用範囲が広い。

ニューヨーク州では、全米初となる、有給の産前休暇制度を民間企業の雇用主に義務付ける法律が成立し、2025年1月1日に施行している。この制度は、民間企業が雇用している妊娠中の従業員に対して、出産前に産前休暇として、20時間の有給休暇を追加で取得できるよう義務付けるものである(※4)。休暇が取得できるケースとしては、健康診断、医療的処置、モニタリング、検査、医療従事者との面談、不妊治療、妊娠末期ケアなどがある(※5)。

州レベルにおける有給の傷病休暇制度

一方、労働者が自分自身や家族の風邪やインフルエンザなどの日常的な病気や怪我のために短期の休暇を取得する必要がある場合、有給の休暇取得を保障する制度がある。2024年12月現在、このような有給の傷病休暇を導入、または導入を予定しているのは、18州(※6)とコロンビア特別区である。これらの州が有給の傷病休暇制度を法制化したのは比較的最近で、最も早いコネチカット州で2012年、アラスカ州、ミズーリ州、ネブラスカ州は2025年に開始予定である。法制化はしていないものの、ほとんどの企業が有給の傷病休暇制度を福利厚生として従業員に提供しており、米国の民間企業で働く労働者の約78%は有給の傷病休暇制度を利用できる状況にある(※7)。

労働者は有給休暇制度を重要だと認識

有給休暇を雇用主に義務付ける法律がなくても、多くの企業は一定の要件を満たした従業員に有給休暇を取得する権利を付与している。Pew Research Centerが行った2023年の調査によると(※8)、企業で働く労働者(パートタイムを含む)の82%は、雇用主が休養のための休暇や、軽度の病気、通院などのための有給休暇(Paid Time Off、 PTO)を取得する権利を付与していると回答している。また、PTOに加えて、有給の家族・医療休暇の権利が取得できると回答した労働者は57%であった。

PTOを重視する労働者は多く、同調査では、62%が「PTOを提供する職場で働くことはきわめて重要」であり、27%が「かなり重要」であると回答している。
有給の家族・医療休暇については、「きわめて重要」が43%、「かなり重要」が31%であった。
もっとも、PTOを取得できる人がそれを完全に消化しているかというと必ずしもそうではなく、「通常、すべてのPTOを消化する」と回答した労働者は48%、「未消化のPTOがある」と回答した労働者は46%であった。

有給休暇制度の利点

有給休暇には、労働者にとっては、ワーク・ライフ・バランスの向上、バーンアウトの削減、仕事の満足度の上昇、健康の向上と病気からの回復、育児や介護の充実という利点がある。雇用主にとっては、従業員のリテンション、生産性の向上、離職率の改善、会社の評価アップ、コスト削減という利点があり、社会にとっては公共衛生の向上、経済の安定、介護者のサポートという利点がある(※9)。

有給休暇という観点から見ると、法定有給休暇制度が整備されていない米国はほかの先進国に後れをとっている。州レベルでは整備が進んでいるところがあるとはいえ、国としてワーク・ライフ・バランスを促進していくためには、連邦レベルでの法制化が望ましいように思われる。

(※1)13州は、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、デラウエア州、メイン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、オレゴン州、ワシントン州。
(※2) U.S. Department of Labor, “What are the Main Types of Paid Leave?” (2024) https://www.dol.gov/agencies/wb/featured-paid-leave (last visited April 22, 2025)
(※3)California Unemployment Insurance Code §2601 et seq.
(※4)New York State, “Money in Your Pockets: Ahead of January 1, 2025 Start Date for First-in-the-Nation Paid Prenatal Leave, Governor Hochul Announces New Campaign to Mobilize Eligible New Yorkers” (2024)
https://www.governor.ny.gov/news/money-your-pockets-ahead-january-1-2025-start-date-first-nation-paid-prenatal-leave-governor (last visited April 22, 2025)
(※5)前掲注4
(※6)18州は、アラスカ州、アリゾナ州、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ミシガン州、ミネソタ州、ミズーリ州、ネブラスカ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、ニューヨーク州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州。
(※7)Women’s Bureau, Department of Labor, “Issue Brief: State Paid Sick Leave Laws” (2024) 
https://www.dol.gov/sites/dolgov/files/WB/StatePaidSickLeaveLaws.pdf (last visited April 22, 2025)
(※8)Pew Research Center, “How Americans View Their Jobs” (2023) https://www.pewresearch.org/wp-content/uploads/sites/20/2023/03/ST_2023.03.30_Culture-of-Work_Report.pdf (last visited April 22, 2025)
(※9)Davison H.K., Blackburn AS., “The Case for Offering Paid Leave: Benefits to the Employer, Employee, and Society” Compensation and Benefits Rev. (2023)
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/08863687221131728 (last visited April 22, 2025)

ケイコ オカ

2001年大阪大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は労働法。同年4月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。労働者派遣法の国際比較や欧米諸国の労働市場政策を研究する。