著名人も輩出? 米国の見習い制度と各政権のアプローチ【登録見習い制度-Part1】
見習い制度の歴史
米国では建国当初から見習い制度が存在し、国の発展に寄与してきた。初期の見習いには、ジョージ・ワシントン(測量技師)、ベンジャミン・フランクリン(印刷工)、ポール・リビア(銀細工職人)などの著名人も含まれている。1937年に「全国養成訓練制度法(National Apprenticeship Act of 1937)」が成立し、連邦政府主導の「働いて給与を得ながら技能を習得する」公的な登録見習い制度が確立された。
この登録見習い制度は、業界主導のキャリアパスとして知られている。雇用主は将来の労働力を育成でき、個人はメンターの指導のもと、有給で実務経験を積みながら段階的な昇給や教室での指導を受け、全国的に認められた資格を取得できる。各見習いプログラムは業界によって審査され、米国労働省または州の見習い機関によって承認されている。
この制度は柔軟な枠組みを持ち、組織のトレーニングや人的資源に統合できる。新規採用の見習い実習生だけでなく、既存の従業員を見習い実習生として参加させることも可能である。見習い制度は「稼ぎながら学ぶ」モデルであり、見習い実習生は初日から職場で働きながら賃金を得ることができる。現在、50万人以上の見習い実習生がこの制度に参加している。
歴代大統領による制度拡充策
近年、歴代の大統領は、労働者が必要な技能を身に付けて仕事に就き、スキルのマッチングを向上させ、雇用促進と失業率の改善を目指して、見習い制度の拡充に力を入れている。
2017年に大統領に就任したトランプ氏は、同年6月15日に「米国における見習い制度の拡充」(Executive Order 13801)という大統領令に署名している。この大統領令は、高技能を習得するのが難しい教育現場の現状を踏まえ、教育が直接雇用に結びつかないという問題を解決するためのものである。この大統領令に基づき、「業界認定見習い制度(Industry-Recognized Apprenticeship Program」が構築され、年間約2億ドルの予算が充てられた。労働長官は、教育長官や商務長官と協議し、第三者機関による見習いプログラムの開発を促進する規制案を発表した。さらに、国防長官、労働長官、教育長官、ならびに司法長官が協力し、高校生、ジョブコア参加者、収監中または収監経験のある人、高校や中等教育機関に通っていない人、軍務に就いている人や元軍人など、さまざまな人々に対して見習い制度やプレ見習い制度(※1)を促進した。また、コミュニティカレッジや高等教育機関の授業に見習い制度を組み込む支援を行い、職業能力開発プログラムの再編や統合、ジョブコア改革にも取り組んだ(※2)。
2021年に発足したバイデン政権は、早くから見習い制度の拡充を表明したが、その内容は、トランプ政権時代とは異なる。バイデン大統領は就任直後の同年2月17日に、「1937年全国養成訓練制度法」に代わる「2021年全国養成訓練制度法(National Apprenticeship Act of 2021)」の成立に尽力することを発表した(※3)。また、多様な労働力と家族を支える生活賃金の仕事を結びつけるために、登録見習い制度の拡大と、見習いプログラムとコミュニティカレッジのパートナーシップ強化に取り組んだ。さらに、トランプ政権が推進した「業界認定見習い制度」を廃止し、産業、労働、教育、労働力、コミュニティなど各分野のリーダーを集めた「全米見習い諮問委員会(National Advisory Committee on Apprenticeships)」を復活させた。これに伴い、トランプ氏が発令した大統領令13801も破棄された。
2021年3月11日に成立した、「2021年米国救済計画法(American Rescue Plan Act of 2021)」は、新型コロナウイルス感染症対策として個人への直接給付や失業保険給付の延長を行うとともに、5億ドルの予算を投じた「Good Jobs Challenge」に基づき、医療、クリーンエネルギー、製造業、インフラ分野での人材育成を強化した。この計画には、登録見習い制度とプレ見習い制度の拡充も含まれている。
2023年5月、バイデン政権は「よい仕事を支援するためのロードマップ(Roadmap to Support Good Jobs)」を発表した。この政策は、すべての人が質の高い仕事に就き、企業が最高の人材を見つけられるようにするため、登録見習い制度やプレ見習い制度により無料または低コストの職業訓練の機会を拡大することを目指している。この目標を達成するために、米国労働省は州の登録見習い制度の改善・近代化を目的として8500万ドルの補助金を提供している。
さらに、2024年2月には、IT・サイバーセキュリティ、初等・中等教育教師、介護、クリーンエネルギー、ホスピタリティ、公共部門、サプライチェーン部門などの高需要産業における登録見習い制度を拡充するために約2億ドルの補助金を割り当てた(※4)。同年7月にはこれらの産業における登録見習い制度を近代化・多様化するために約2億4400万ドルの補助金交付を発表した(※5)。
また、米国労働省雇用訓練局は2024年3月に、「若年向け見習いパスウエイプログラム(Federal Youth Apprentice Pathway Program)」を開始している(※6)。このパイロットプログラムは、各連邦政府機関が登録見習い制度の仲介事業者と提携し、連邦の仕事に就くためのキャリアパスのモデルを構築することを目的としている。見習い実習生は貴重なキャリアトレーニングを受けるとともに、労働力投資オフィスやジョブコアのオフィスで働く経験を積むことができる。見習いプログラムには昇進機会が含まれており、これをクリアすると恒久的な連邦の役職に就くチャンスも得られる。
(※1)プレ見習い制度とは、高賃金が得られる職種の登録見習い制度を受ける準備として提供される職業訓練プログラムのこと。
(※2)リクルートワークス研究所「米国の労働政策02 雇用政策・トランプ政権の政策方針」(2019年)https://www.works-i.com/research/labour/item/wu_us2019_02.pdf (last visited September 22, 2024)
(※3)同法は下院で可決したものの、上院では可決せず、2024年時点でも審議が続いている。
(※4)U.S. Department of Labor, “Biden-Harris Administration announces nearly $200M available in grants to expand Registered Apprenticeships” https://www.dol.gov/newsroom/releases/eta/eta20240221 (last visited September 22, 2024)
(※5) U.S. Department of Labor, “Biden-Harris administration awards over $244M to modernize, diversify, expand Registered Apprenticeships in growing industries” https://www.dol.gov/newsroom/releases/eta/eta20240711-0 (last visited September 22, 2024)
(※6)U.S. Department of Labor, “Investments + Partnerships = Apprenticeship Opportunities for Young Adults” (March 5, 2024) https://blog.dol.gov/2024/03/05/investments-partnerships-apprenticeship-opportunities-for-young-adults#:~:text=The%20program%20will%20include%20a,been%20underway%20for%20several%20years (last visited September 22, 2024)
ケイコ オカ
2001年大阪大学大学院法学研究科博士課程修了。専門は労働法。同年4月よりリクルートワークス研究所の客員研究員として入所。労働者派遣法の国際比較や欧米諸国の労働市場政策を研究する。