【Tech Stack Interview】フランク・ウィットノウワー氏(元ADPグローバルクラウドテクノロジスト)
Automatic Data Processing(ADP)は自社のソフトウェアを中心とした10種類の製品で、独自のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)を構築している。同社の前グローバルクラウドテクノロジストのフランク・ウィットノウワー氏に、その取り組みについて語っていただいた。
【ADP】給与計算や勤怠管理システム、RPO(採用プロセスアウトソーシング)、人事コンサルティング、福利厚生管理サービスなど人事関連ソリューションを総合的に提供する。1949年に設立され、従業員数は約6万人。世界140カ国の顧客81万社超にサービスを提供している。売上高は約142億ドル(2019会計年度)。2019年時点でFortune誌の「The World's Most Admired Companies」に13年連続選ばれている。
インタビュアー=ジェリー・クリスピン 翻訳=鴨志田 ひかり TEXT=村田 弘美
10種類の採用テクノロジーを活用
Q ATS(応募者追跡システム)とCRM(採用候補者管理システム)はどの製品を利用していますか?
自社製品であるADP Recruiting Management[1]を導入し、エンゲージメント・人材供給パイプラインマネジメントにも利用しています。複数の国で給与計算をする際には、SAPのソフトウェアが実装されたADP GlobalView HCM[2]を利用しています。米国では、2019年から2020年にかけて、イノベーション推進拠点のADP Innovation Labが開発した新しい製品に入れ替えます。他の国にも順次導入する予定です。ラーニングの分野では、Cornerstone OnDemand[3]の製品を利用していましたが、これも新製品に入れ替える予定です。
Q 選考・アセスメントには、どの製品を利用していますか?
その類のものは利用していません。面接が主体ですが、喫緊の場合はその手順を省くこともあります。例えば、私が雇用された時は、上司とその上司の2人と面接しただけで、アセスメントは一切ありませんでした。同僚と会話をしたり、職場の雰囲気を知る機会もなく、ほぼ即決採用でした。人事異動の際も、上司の意向に基づいてすべて決まります。
Q ADPのテックスタックでは、何種類の製品を利用していますか?
SNSや候補者マッチングツールなどを含む10種類のテクノロジーを利用しています。ADP Recruiting Managementを基幹として、分野ごとに機能を統合しています。ADP GlobalView HCM以外に、SAP SuccessFactors Recruiting[4]も利用しています。
約1,000人を採用予定
Q 2019年の採用予定人数を教えてください。
採用予定人数は1,000人超です。特に多く採用するのは、エントリーレベルの営業です。たとえば、地方営業職、IT、顧客アカウント管理職などです。
Q 採用を担当するTA(Talent Acquisition)部門の人数と、組織構成について教えてください。
全般的に見ると中央集約型になっており、TAの中枢部は経営の中枢に属しています。グローバルでは、大陸や地域、例えばEMEA(欧州・中東・アフリカ地域)のようなグループ単位で担当を分けています。拠点の多くは欧州にあり、北米を除く110カ国での事業を統括するADP Employer Services International(ESI)という組織に属しています。そのため、HRを含む各部署もESIの規定に則っていなければなりません。
組織的には、HRというよりも採用専門の部署があります。HR担当はありますが、さまざまな職務を兼任していて、はっきりした区別はありません。HRの部署には、ソーサーとリクルーターがいますが、その他に、特に内部採用に携わるHR全般の担当者、HRビジネスパートナーなどがいます。
Q コンティンジェント従業員や、ギグワーカーはどのくらいの割合を占めていますか?
他の企業ほどには割合は高くありません。ADPが最近買収した製品の中には、コンティンジェント従業員やギグワーカーの作業を大いにサポートするものもありますが、ADP社内ではその数は多くないのです。
Q ADPではRPO(採用プロセスアウトソーシング)サービスも行っていますが、リクルーターがRPO業務を兼任しているのでしょうか?ADPのRPO部門と、HR部門はどのような関係性でしょうか?
リクルーターとHR担当者の中には、いくつかの業務を兼任している人がいます。兼任者は、時々社外でRPO業務を行っています。RPOの利用は、大量採用など特別なサポートが必要な時や、継続的に採用を行う特定の職務の場合など、限定的なものです。
Q 採用テクノロジーの予算を教えてください。
予算はおおよそ200万ドル以内だと思います。
マッチングテクノロジーの進化に期待
Q 自動化している採用プロセスはありますか?
自動化は満足できるレベルまで進んでいません。例えば、履歴書の受け取りは自動化されましたが、満足できるレベルの4分の1程度までしか達成できていないと思います。
Q 自動化してほしい採用プロセスはありますか?
会社が最重要目標としているのは、安定したグローバルプラットフォームを構築することです。努力はしていますが、ロボティクスなどのプロセスの自動化を進める準備はまだ整っておらず、可能な部分から着手するでしょう。
Q 自動化されないと思う採用プロセスは何ですか?
もちろん自動化できないプロセスはあります。候補者と接するスクリーニングや面接では「人」対「人」でなければならないと思います。
Q 5年後に注目されるもの、投資すべきものは何でしょうか?
1つ目は、適材を、適所に、適時に獲得するには、どうしたらよいか。私は、採用プロセスの入り口であるジョブディスクリプションに応募条件だけでなく、職務内容を明確に記載するなどより充実させることから始めるのがよいと思います。多くの企業が候補者のスクリーニングに適したツールを使っているにもかかわらず、適材の獲得に長年苦労しています。採用にあたり、候補者に対して「あなたは法的に米国で働くことが許されていますか?」「履歴書を添付してください」という質問や指示をするだけで、採用部署が候補者に向き合うことはなく、リクルーターや採用マネジャー任せです。この方法では、適切な人材を見逃してしまいます。資格条件ばかりにこだわると、膨大な人数の候補者に対応しなければなりません。2つ目は、テクノロジーを強化すべきだと考えています。マッチングテクノロジーは25年前から注目されていますが、まだまだ精度は低く、改善できると思います。
[1]ADP Recruiting Management:ソーシングからオンボーディングまで採用プロセスの全工程をサポートし、コンプライアンス対応やアナリティクス機能を含むオールインワンの自動採用プラットフォーム。社内外から候補者を発掘するソーシング機能を備える。
[2]ADP GlobalView HCM:従業員数1,000人以上の多国籍企業向けのグローバル人事管理システム。 採用、タレントマネジメント、労務管理、給与計算といった人事の業務をすべてクラウドで管理できる。
[3]Cornerstone OnDemand:ラーニング、パフォーマンス、採用、人事管理製品を統合したクラウドベースのソフトウェアを提供する。ATSの「Recruiting Suite」は、人材の採用申請、応募者の管理、キャリアサイトの制作、面接日時の調整、従業員リファラルの管理といった機能を備える。42カ国語に対応し、世界190カ国で利用されている。「Learning Suite」は従来の学習管理システム(LMS)に学習体験プラットフォーム(LXP)を組み込み、パーソナライズした学習体験を提供。機械学習技術で、従業員のプロフィール属性、関心、スキルおよびトレーニング履歴を参照し、従業員に関連性の高いコンテンツを内外から集め、パーソナライズしたプレイリストを作成する。プレイリストは、推奨や共有ができ、従業員の自律した学習を促す。
[4]SAP SuccessFactors Recruiting:グローバル採用に対応した採用管理システム。世界約80カ国超のサイト4,000種類(ジョブボード、SNS、大学など)に求人情報を掲載し、人材をソーシングできる。SEO対策を施したスマホ対応のキャリアサイトやランディングページを企業の担当者が自ら制作する機能を備える(46カ国語に対応)。リクルーターや採用部署のマネジャーは、携帯端末で採用案件の申請から承認、オファーの承諾まで行える。大量採用に対応する応募者管理機能もある。スケジューリングからフィードバックの収集まで面接プロセス全体を管理できる。「SAP Signature Management」の電子署名機能で、オファーレターの作成からオファー承諾までペーパーレスで行える。サブスクリプション型(定額制)サービスで、月間利用料は1人あたり3ドルから。
プロフィール
フランク・ウィットノウワー氏(Frank Wittenauer)