【Tech Stack Interview】航空会社D社(前TAディレクター)
大手航空会社D社は自社のテックスタック(複数のテクノロジーを組み合わせて活用する)を近く刷新する予定であるが、LinkedIn Recruiterによるソーシングや多くのアセスメントを軸として、きめ細かな対応をしている。同社の前TA(Talent Acquisition)ディレクターに、その取り組みについて語っていただいた。
インタビュアー=ジェリー・クリスピン 翻訳=鴨志田 ひかり TEXT=村田 弘美
約10種類のアセスメントツールを職種別に活用
Q ATS(応募者追跡システム)とCRM(採用候補者管理システム)にはMyPeopleScout[1]とSpringboard[2]を利用されていますが、これらの製品の特徴を教えてください。
D社では、2008年にRPO会社のPeopleScoutと契約した際に勧められて、同社のATS「MyPeopleScout」を利用しています。2015年からはCRMにSpringboardも取り入れました。このSpringboardは面接スケジュールの自動調整機能が素晴らしく、100人の面接を1日で行うためのスケジュール調整が20分でできるなど大量採用に役立ちました。しかし、両製品ともあまり機能していないことから、年内に別の製品に刷新する予定です。ATSについては、SAP SuccessFactors[3]も2018年10月まで利用していました。
Q ソーシング&採用マーケティングには何を利用していますか?
主要テクノロジーとしてLinkedIn Recruiter[4]を専門職採用などに利用しており、効果的です。D社では同製品に完全なコミットメントをしています。高額な投資ではありましたが、最大限に生かしています。すべてのリクルーターが、LinkedIn Recruiterを駆使できるプロフェッショナルであることを示す認定資格を取得しました。他には、Dice[5]をIT職のソーシングに使っています。採用マーケティングシステムを入手し、補助的な機能を拡張することで、リクルーターの手を借りることなく多数の人材の採用に成功しています。
Q エンゲージメント&人材供給パイプラインマネジメントには何を利用していますか?
LinkedInとSpringboardです。Springboardで人材コミュニティを構築しています。
Q アセスメントにはHireVue[6]、Talent Plus[7]、Wonderlic[8]、DDI[9]を利用されていますが、これらの製品の特徴を教えてください。
フライトアテンダントの採用において、動画面接のテクノロジーを実験的に使用しています。最近の大きな進化は、HireVueの録画面接アセスメント機能「HireVue Assessments」を導入したことです。AIが録画のデータポイント約3,500点をチェックし、それをもとに企業文化とのマッチング度や入社後に活躍する可能性を予測し、候補者をスコアの高い順に表示します。高額な投資となるのでリスクもありましたが、結果的には正しい判断となりました。何千人という応募者に対応できるため、負担も軽減しました。
Q D社のアセスメントは非常に充実していますね。
その他、顧客サービス職の応募者のアセスメントに、高級ホテルとも契約するTalent Plusを利用するなど、約10種のアセスメントツールを職種別に使い分けています。今後もその数は増え続けるでしょう。Talent Plusの比較的新しい製品で「ギフティング」と呼ばれる機能を導入しました。通常、雇用主はアセスメントの結果を候補者に公開することはありませんが、Talent Plusは候補者がアセスメントを終了すると、候補者に「タレントカード」を渡します。カードには、ワークススタイル、動機付け要因や価値観、思考プロセス、対人力、周囲への影響力の5つの側面から分析した候補者の強みや特性が書かれていて、コミュニケーションツールとして利用されています。
テクノロジーで採用スピードを加速
Q 何種類の採用テクノロジー製品を利用していますか?
オンライン身元照会も含めると、21~30種類と非常に多くの製品を利用しています。
Q これまでに利用したもので、最もインパクトの大きかったテクノロジーは何ですか?
HireVueのライブ面接は、録画やスコア付けもできて、本当に役に立ちました。今では大量採用にも利用しています。前回の採用では、自動ラーニング機能を利用しませんでしたが、フル機能を利用すれば、さらに便利になるでしょう。8月から翌年の2月まで採用活動を行いますが、候補者を長い時間待たせることがないよう、よりスピーディにしたい。重要なのはクオリティですが、スピードは費用にも直結するので、最良のテクノロジーを導入したいと考えています。
Q 採用テクノロジーの予算を教えてください。
おおよその金額ですが、50万〜100万ドルくらいです。高額の投資をしてもらっています。
Q 2019年の採用予定人数と、採用を担当するTAチームの人数と職種について教えてください。
D社の採用人数は、社内公募も含めると、毎年8,000〜1万3,000人の規模です。リクルーターは100人強で、うちPeopleScoutのD社専属スタッフが約70人、社内リクルーターが約30人です。本社に集約していますが、リクルーター、ソーサー、正社員採用のリクルーター、オペレータ―、アナリスト、マーケティングおよびブランディング担当スタッフ、大学および早期キャリア担当リクルーター、そしてスケジューラーがいます。リモートで働くリクルーターも2~3人います。さらにPeopleScoutのスタッフも分散して採用活動を行っています。
Q 採用におけるRPOの利用の割合はどのくらいですか?
75%以上だと思います。近くATSを入れ替える予定ですが、RPOとインハウスの割合は大きくは変わらないと思います。昔のようにすべてを社内でまかなうのは現実的ではありません。部分的に社内のチームが担当することがあったとしても、劇的なモデルチェンジは起こらないでしょう。
Q コンティンジェント従業員やギグワーカーはどのくらいの割合を占めていますか?
コンティンジェント従業員やギグワーカーは11〜25%程度だと思います。
チャットボットで問い合わせの約9割に回答
Q 自動化している採用プロセスはありますか?
D社ではチャットボットのParadox[10]を導入しています。候補者が最初にコンタクトするのはAI(人工知能)アシスタントの「Olivia」です。Oliviaは、インプットされている大量のFAQ情報をもとに、候補者からの質問に迅速に回答します。また、現在自分は選考プロセスのどのステージにいるのか、という質問にも対応できます。Oliviaが答えられない質問は、私たちに送られてきます。完全に自動化されたAIテクノロジーとはいえませんが、メールの対応に大きな変化をもたらしました。人間では大量のメールに対応できないこともありますが、Oliviaは24時間働き、ほとんどの質問にマルチに対応できます。質問への回答率はだいたい80〜90%ですが、リクルーターの仕事は効率的になり、その分、難しい質問をする候補者への対応に集中することができます。
ただ、部分的には自動化していますが、どれも統合されていないという課題があります。私たちに必要なのは、バラバラなものを1つに縫い合わせる作業をすることです。さまざまな製品を使っていますが、私が採用チームのリーダーだった頃、「1Click」で作業が完了する仕組みを求めていました。1Clickで誰かがソーシャルメディアを検索してくれるような機能です。それがあれば、採用プロセスすべてのスピードがアップし、自動化は格段に進むでしょう。
Q 今後5年で、採用プロセスのどのくらいが自動化されると思いますか?
おおよそ26〜50%が自動化されると思っています。TAバイスプレジデントと新しいTAオペレーションマネジャーは、弊社のTAテクノロジー活用に関する素晴らしいビジョンを持っています。CIOの支援も受けています。小さいチームなので、査定しながら展開しなければなりませんが、リソースの限界をカバーできれば、テクノロジーは大いに成長すると思います。
[1] MyPeopleScout:さまざまな業種や70カ国以上の地域に顧客を持つRPOプロバイダーPeopleScoutが提供するATS。候補者のトラッキングや情報管理が可能。
[2]Springboard:PeopleScoutの総合的なSaaS型採用&人的資産管理ソリューション。ソーシング、SNSとの統合、人材供給パイプライン管理、オンボーディング、ビジネス情報および分析、スクリーニングやコミュニケーションの自動化、候補者エンゲージメントなど、ATSとCRMの2つの機能を持つ。
[3]SAP SuccessFactors:採用からタレントマネジメント、労務管理、給与計算まで、人事に関わる業務すべてをクラウドで利用できる「SAP SuccessFactors HCM Suite」を提供。拡張性や柔軟性を備え、世界81カ国の固有要件や国ごとの法改正にも迅速に対応できる。
[4]LinkedIn Recruiter:人事・採用責任者やスタッフィング会社向け採用管理機能。全ユーザーのプロフィールの高度検索(役職、場所、スキル、社名、会社規模、出身校、卒業年、業種、社会人経験年数、現職勤続年数、過去の応募者、自社のフォロワー、転職活動に前向きといった細かいフィルタの設定が可能)と閲覧。求人広告のポスティング、つながりのないユーザーへのメッセージ「InMails」の送信(毎月150回まで)、採用候補者の管理などが可能。
[5]Dice:テクノロジー関連職に特化した求人求職サイト。iOS開発、Java、Oracle、SQLといったスキルを持つエンジニアが主な対象。職種、都市、企業名、勤務形態、在宅勤務可といった条件で絞り込み検索できる。Dell、Charles Schwab、Booz Allen Hamilton、Chaseなどの求人情報約8万2,000件を掲載。
[6]HireVue:ビデオ面接システム。求職者はパソコンや携帯端末で企業からの質問に対する回答を録画し、提出する。ライブ形式の面接も可能。AIと神経科学で求職者の表情、言葉、ボディランゲージを解析し。将来のパフォーマンスを予測する。
[7]Talent Plus:オンラインアセスメントテストのプロバイダー。医療、サービス、小売、金融、自動車など20種類以上の業種、そして事務や接客スタッフ、デザイナー、税務専門職などさまざまな職種に対応している。20カ国で400社以上の企業に利用されている。
[8]Wonderlic:Saas型の採用前オンラインアセスメントテストを提供する老舗アセスメント会社。適応力や理解力などを測る認知能力テスト、興味関心や仕事に対するやる気を分析するモチベーションテスト、5因子モデルにもとづく性格特性テストの3種類をもとに、ジョブパフォーマンスを予測し、仕事の適性度「WonScore」を表示する。
[9]DDI:行動科学をベースとしたリーダーのアセスメントや、体系的な能力開発を専門とするコンサルティング会社。短時間の適性検査、会計、金融、フードサービス、法律、小売、ソフトウェア、および医療業界の具体的なスキルテストなどを提供。
[10]Paradox:採用に特化したチャットボット「Olivia」が求職者からの問い合わせに自動対応し、経験年数や希望の職種や資格の有無などを質問して、スクリーニングする。